チキンレースを制したのはPackersだった。
Jetsとの間でRodgersのトレードが成立した のだが、PackersはRodgers及び今年の1巡(全体15位)と5巡(170位)を出し、代わりにJetsから今年の1巡(13位)、2巡(42位)、7巡(207位)及び来年のドラフト権を1つ手に入れる。来年のドラフトはRodgersが全プレイの65%以上に参加すれば1巡、そうでなければ2巡だそうだ。細かいやりとりを除けばPackersが手に入れるのは1巡と2巡それぞれ1つずつ、もしくは2巡2つとなる。
このトレードが成立すれば、Forever QBsの4人全員がキャリアの途中でチームを変わる経験をしたことになる。Peyton Manning(ColtsからBroncosへ)、Tom Brady(PatriotsからBuccaneersへ)、Drew Brees(ChargersからSaintsへ)、そしてAaron Rodgers(PackersからJetsへ)だ。Montanaの頃からそうだったと言えばそれまでだが、今の時代一つのチームでキャリアを終えられるQBなんてものはほとんどいなくなっているのだろう。サラリーキャップの時代にはそういった感傷的なことを言っている余裕はないわけだ。
PackersとJetsという組み合わせはFavreの時と同じだが、当然ながらチーム状況は違う。Packersはかなり似ている(後継者と想定したQBを数年前に指名済み)んだが、当時のJetsはベテランPenningtonを手放して代わりの選手としてFavreに手を伸ばした。Penningtonは有能なQBではあったが怪我が多くて隔年でしか活躍できず、やたらと頑丈だったFavreを呼んだのはそれが理由だったかもしれない。結果、活躍年に当たったPenningtonはDolphinsをプレイオフに導き、Jetsは地区3位で終わった。Favreでもダメと分かったJetsは翌年にSanchezを指名してそれから2年連続プレイオフに到達したのだが、活躍したのはQBではなくディフェンス。つまりJetsとしてはPennington以降、ろくなQBを引き当てていないとも言える。
2010シーズン以降、プレイオフにたどり着けていないJetsにとって有能な若手WRなどがいる現在こそコンテンダーになるチャンスという判断が、このトレードをもたらしたのだろう。2年前に指名したZach Wilsonが指名順位にふさわしい活躍をしていればこんな方法をとる必要はなかったのだが、実際には当時の1巡で指名された5人のQBの中でも真っ先にbust認定されてしまうような成績しか残せなかった。かといって全体13位という指名順では今年の1巡候補とされる4人のQBにはとどかない可能性もある。ならば一か八かの勝負に出るしかない、と判断したのかもしれない。
といってもこの判断がGMやHCのものとは思えない。既に
こちら でそういう推測があることを紹介しているが、
大本営の記事 でも「JetsのオーナーはスターQBが大好きだ(参照:Favre、Tim Tebow、Michael Vick)」と書かれている通り、今回もオーナーの意向が強く反映されたトレードだと思われる。何となく
「プーチンがウクライナ東部の攻略に固執し、軍幹部は防衛強化を求めている」 という報道と相通じるものがあるが、権力者の言うことは間違っていても簡単には修正されない。
どちらにせよ1年あたりの契約額で考えるなら前に紹介した
Hurtsの延長契約(51ミリオン) を超える金額となる。Hurtsの場合は契約期間が5年であり、それだけ長く彼のプレイから利益を引き出せる可能性があるし、また5年もすればQBの相場が上昇して彼の契約が次第に割安になることも期待できる。一方Rodgersの場合、期間はおそらく1年、長くて2年と見られる。年齢的にも、本人がカリフォルニア好きな点からも、よほどのことがない限りJetsで4〜5年にわたってプレイする可能性は低いだろう。
サラリーは仕方ないとしても、1年か長くて2年しかプレイしない選手に1巡と2巡を1つずつ投入する(Rodgersが65%プレイする場合)のはJetsにとって果たして見合うものであろうか。FitzgeraldによればRodgersがこの1年、53ミリオン相当の活躍をしたとしても、Jetsはこのトレードで4年間に33ミリオンの損失を計上することになるという。彼はこのトレードについて「どれほど高い対価だとしても2010年以降プレイオフに出ていないチームにとっては取る価値のあるリスク」としているが、Jetsファンが何とか自分を納得させようとしているようにも見える。むしろ最後に書いている「うまくいかない場合はゼロからの再出発」というところの方が本音に近いかもしれない。
Seth WalderもこのトレードについてJetsに低いグレードをつけている 。
Jetsが報われる可能性はあるのだろうか。少なくともRodgersが前年よりマシな成績を残すことは必須条件だろう。リーグ平均並みの成績でいいのなら別にRodgersでなくても、例えばBridgewaterあたりを雇えばいい。それでもWilsonよりは上乗せされるのだから単にプレイオフを目指すだけならそのあたりで妥協しておく考えもあっただろう。FitzgeraldはAFCのチャンピオンシップまでは最低条件としているが、Rodgersがいなくなった後まで残るダメージを考えるならできればSuper Bowlまでは条件にあげたいところ。Ramsのように優勝できればこうした投資も報われるという考えはできると思うが、そうでない場合にはいろいろとハレーションが起きそうだ。
逆にRodgersがうまく機能せず、1年でチームを去ることになった場合、Jetsにとっては2024シーズンのメドが立たなくなる。1巡を失ってしまうと有力QBの指名は困難だし、場合によっては44ミリオンものデッドマネーがキャップを食い潰す。下位指名のQBであたりを引くか、1シーズンは再建に充てて2025年の指名に賭けるか、といった選択肢が残されるくらいであり、それだけのリスクに見合うトレードだったのかが問われるわけだ。それに、たとえコーチやGMを変えたところでオーナーが変わらない限りまた同じことをやらかす可能性もあるわけで、ファンとしてはなかなかしんどい状況。後はそれこそRodgersが今シーズン確変するか、もしくは来年ドラフト下位でPurdyのようなあたりを引くことを神に祈るところだろうか。
そのPurdyが救世主となった49ersでは、代わって
ドラフト3位で指名したLanceのトレードの噂が立っている 。確かにPurdyの怪我からの回復に問題がなければ、Lanceを控えのままにしておくより彼を差し出して対価を得る方が効果的、という考えはあるだろう。もちろん実はPurdyが外れ(昨シーズンはただのまぐれ)であり、一方Lanceはこれから成長するという可能性もある。ただし2年で108のドロップバックしか記録していないLanceと、昨シーズンにプレイオフを含めて248ドロップバックを記録したPurdyとでは、まだ後者の数字の方が信頼度が高いわけで、現時点でどちらかを選ばなければならないとしたらそりゃPurdyだろう。いやまあPurdyも信頼できるだけの母数ではないが。
つまり現時点で49ersとしては(1)Lanceを残しPurdyが実はダメであることが判明した場合の保険として利用する(2)Lanceを売り払ってその価値をドラフト権に変える――という選択肢のどちらがプラスかを考えているところなんだろう。ドラフト1巡指名のLanceは早く売るほど高い対価を得られる可能性があるが、売り時が遅れればそれだけ対価は減ると考えられる。一方Purdyの実力は彼のプレイ回数が増えるほど明確になってくるが、現時点ではまだリスクも大きい。Purdyのリスクを受け入れてLanceを高く売るか、そのリスクを減らす代わりにLanceを安く買いたたかれても仕方ないと割り切るか、という悩みを抱えているんじゃなかろうか。
もちろん相手のあることなので、49ers側の都合だけでは決まらない。具体的には「現時点でLanceの対価がいくらならトレードに応じるべきか」を考える必要がある。参考になりそうな過去の事例(ルーキー契約中の1巡指名QBのトレード)としては、
Darnoldが同年の6巡と翌年の2、4巡と交換された例 、及び
Rosenが2巡と翌年の5巡と交換された例 がある。どちらもLanceよりはずっと多いプレイをして、しかし成績的にはダメだった事例だが、それでも2巡プラスアルファの対価をもらえたのは大きい。49ersにとってもLanceに2巡を出すチームがいたら検討してもいいんじゃないかと思う。
問題は、今回のRodgersのトレード成立で同じく市場に出てくるルーキー契約1巡QB候補が増えること。WilsonとLanceなら後者の方が高い対価をもらえる可能性は高いと思うが、チームによっては別にLanceでなくてWilsonでもOKと考えるかもしれない。後はそうした市場のニーズがどう変化するかを見ながらLanceを売り飛ばすかどうか判断することになるんだろう。それにしても改めてドラフト1巡の後光はかなりのものだ。
あと
Tagovailoaが昨シーズン終了時に引退を考えていた という話が報じられていた。脳震盪プロトコルに2度置かれたことが理由だそうで、やはりそういうことを気にする選手はいるようだ。昨シーズンのプレイ成績だけ見ると順風満帆そうだったが、実際には好調に見えても悩んでいる人はいるのだろう。
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