今度Turchinが出版するEnd Timesについて、Milanovicが書評を書いていた。The chronicle of the revolutions foretold?というタイトルで、結構高い評価をしている。この本自体はまだ出版前(Amazonによると発売日は6月13日となっている)だが、おそらく最終のゲラなどは既に出来上がっているのだろう。Milanovicはそれを読んでこの文章を仕上げたのだと思う。有名出版社が手掛けただけに、こうやって著名人に書評を頼む作業もきっちりやっているのだろうな。
Milanovicによると、彼はTurchinの本のうちSecular Cyclesは読んだがWar and Peace and Warは読んだことがないそうだ。個人的に現時点でTurchinの本のうち最も面白かったのはSecular Cyclesだったので、それをピックアップしているMilanovicはなかなかクジ運の強い人間に見える。逆にTurchinが書いた一般向けの書物を読むのはこれが初めてだったようで、そのためかこの本のhaute vulgarisation(専門的事柄を平易に説明している点)については「時に平易すぎる」書き方をしていると見ている。
というわけで実物より前に書評が出てきたが、読んだ限り、こちらで予想した「Ages of Discordを一般向けに書き直したような内容」の本だと考えてほとんど間違いなさそうだ。特に米国に焦点を当てていることもMilanovicは指摘している。もちろん「バラモン左翼」のようにAges of Discordの出版時にはまだ出ていなかった研究内容を後から付け加えたらしい点は新しい部分だが、基本的な主張内容に大きな違いはないと思われる。
むしろ重要なのはそれが一般向きに書かれている部分。Milanovicの言い分を信じるなら、「読者はほとんど事前知識を持っていない」と想定しているかと思えるくらい徹底的に分かりやすく書かれているようで、この点は日本の読者にとってはありがたい面かもしれない。いやもちろんAges of Discordのようなデータ的裏付けを求めて読むと期待外れに終わる可能性はあるが、そういった部分は他の本を読んでくれということだろうし、出版社もあくまで一般読者がくじけずについてこれる本を求めてTurchinに原稿を書いてもらったのはおそらく確かだ。
問題は、個人的に私がTurchinの一般向き書籍に関する熱心なファンではない点にある。こちらが期待しているのは新しい知見や面白いデータであって、一般向けに薄めて書かれた本の場合そうした楽しみは限定的になる。それにTurchinは一般向けになると「マルチレベル選択」推しが強くなりすぎ、読んでいて違和感が強いのも問題。War and Peace and WarでもUltra Societyでもその傾向ははっきりと表れていた。今回のEnd Timesでもそうした文章が長々と書かれるのではないか、という懸念がつきまとう。
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