Hurts契約延長

 2020年ドラフト組の先頭を切ってHurtsが巨額の契約延長を勝ち取った。5年255ミリオンというのは年平均で過去最高であり、うち保証額は179ミリオン強。またEaglesの契約史上初めてトレード禁止条項が加えられたようで、さらに追加で15ミリオンのインセンティブもあるという。この年にドラフトされたQBたちの中では1巡4人を追い抜いて2巡指名の彼が先に大型契約をゲットした。
 この報道を受けて早速OverTheCapがJalen Hurts Signs Record Setting NFL Contractというエントリーをアップしている。あくまで現時点での感想を並べたものに過ぎないが、まず2巡指名のQBがこういう大型の延長を勝ち取った事例が2017年のCarrまで遡るという指摘が面白い。逆に言うと足元ではほとんどの場合、1巡指名QBでなければこうした大型契約を手に入れることができていないわけで、それだけ有望そうなQBは上位で指名してしまう流れが強まっているんだろう。
 Hurtsの保証額はそれほど大きくないように見えるが、2巡選手であることを踏まえると実はそんなことはない。Hurtsのルーキー契約では今年のサラリー額がたった4.3ミリオンしかなかったのに対し、全体1位指名だったMurrayは最終年に29.7ミリオンをもらうことになっていた。逆に言うとMurrayが契約延長で手に入れた保証額のうちルーキー契約を上回る分が124.8ミリオンだったのに対し、Hurtsのこの額は実に175ミリオンに到達していた形になる。これは過去のあらゆる事例と比べても圧倒的に大きく、トレード禁止条項を含めチームがどれだけ彼に満足しているかを示す数字と言えるだろう。
 Hurtsの1年あたりの契約額51ミリオンはWilsonに比べて2ミリオン多い。このためFitzgeraldは来年には年平均で55ミリオンの契約が出てくるのではないかと予想している。次に契約延長しそうな選手として彼が挙げているのはBurrow、Jackson、Herbertだが、このうち1人目は53から54ミリオンとなり、2人目は55ミリオンまで引き上げる必要に迫られる、という想定だ。それも含め今回の契約が市場全体に与える影響については「リーズナブル」というのがFitzgeraldの評価。先発クラスのQBについては過去のパス成績より直近の他のQBの契約額が基準になってしまうのは間違いないが、そうした流れを想定するなら彼の予想もうなずける。
 では本当にHurtsのパス成績はこの契約額に値するものなのだろうか。直近3年間のHurtsの数字を見るとDAKOTAは0.103と1000試投以上のQB29人中13位、EPA/Pは0.156で11位、CPOEは+0.1の19位だ。見ての通り、実はそれほど突出しているわけではない。DAKOTAでトップのMahomes(0.168)はもとより、同じく若手のBurrow(0.133)、Herbert(0.105)より下だし、世間的にはあまり評価されていないGaroppolo(0.133)、Tannehill(0.131)、Bridgewater(0.117)、Cousins(0.110)と比べても後塵を拝している。プレイ回数1521は2000を超えているMahomesやAllen、Herbertに比べて彼のパス成績の信頼性が高くないことを示している。一見して随分と思い切った決断をしたものだと感じられる数字だ。
 ご存じの通りEaglesのGMであるRosemanは以前も同様の尚早と思えるような決断を下したことがある。2019年のWentzとの契約延長だ。この契約がほんの2年後には派手なバックファイアを引き起こし、Eaglesが巨額のデッドマネーを計上する羽目に至ったのもよく知られている。もちろんWentzとの契約は今回のHurtsのもののような「史上最高額」という数字ではなかったが、それにしても平均レベルのQBに対する巨額の投資という意味で「おいおい大丈夫か」と思わされたのは事実だ。今回のHurtsにしても同様の懸念はないだろうか。
 正当化する理屈があるとしたら、WentzとHurtsの数字を時系列で見た場合の差だろう。Wentzはルーキー年からのQB EPA/Pが0.043、0.243、0.114と2年目がピークだったのに対し、Hurtsは0.065、0.091、0.186と右肩上がりが続いている。Wentzの実績がツキに恵まれたものであって実際の実力はそれほどでもなかったことが時とともにバレたのに対し、Hurtsは逆に時間をかけてリーグに慣れていった、と解釈できそうな数字だ。ただし、1番高い年から順番に比較すると、Wentzの方がHurtsより高いEPA/Pを記録していた年の方が多いわけで、そうした数字だけ見るならWentzよりレベルの低いQBにWentzより高いマネー投入を決断した、とも解釈できる。
 どうやらRosemanはQBについては「ちょっとでも成功の可能性があるなら前倒しで多額のサラリーを投入すべき」という信念でも抱いているんじゃなかろうか。とにかく同期の中でも真っ先に契約延長することで、「直前の他の先発QB契約」を参考にするQB市場の非効率的な部分をハックするのが彼の狙いに思える。もちろん外れた場合は残念なことになるわけだが、外れクジを引くリスクより当たりクジのコストが上がりすぎるリスクの方が問題だと考えているのだと考えれば、Wentzの失敗を受けた後もここまで大急ぎでHurtsと契約をするのも筋が通る。
 逆にいうなら彼はデッドマネーを恐れていないとも言える。実際、Wentzに関してはデッドマネーこそ一瞬重荷になったものの、それを埋め合わせられそうなドラフト権を大量に入手できたし、それを使って短期間でチームを再びSuper Bowlまで連れて行くことに成功している。Hurtsが本当にファンの期待するようなフランチャイズQBになれるかどうかは分からないが、そこはリスクを冒しても彼を手元にとどめることが正解だとRosemanは考えているのだろうし、彼の実績を見るとこうした行動についても説得力が増す。Wentzがダメになった時はいろいろと批判を浴びていた彼だが、やはり優秀なGMなのは間違いないんだろう。
 では同期の他のQBたちはどうなんだろうか。まず全体1位指名のBurrowのQB EPA/Pを見ると0.117、0.190、0.167と推移している。3年目に少し下がったとはいえ全体にHurtsよりは高水準であり、彼の方がここまでのところいいQBなのは間違いないだろう。Herbertは0.178、0.193、そして0.059と推移しており、3年目に急落したのが気になるところ。Tagovailoaは0.024、0.067、0.247となっており、こちらは逆に3年目に急騰している点が評価できそうな一方、それ以前の2シーズンの数字が低すぎるため3年目が単なる異常値の可能性も高い。もちろんAllenの時と同様にハイリスクであっても契約延長が成功する可能性はあるとは思うが、Fitzgeraldが次の契約候補に挙げていないあたり、まだそこまで信頼はされていないのかもしれない。
 それも踏まえ、QB契約ではプレイした時の実績だけでなく、きちんと試合に出ているかどうかがかなり大きな評価ポイントになっている様子がうかがえる。Garoppoloの契約が地味なのはいかんせん彼が怪我がちでプレイできない時間帯が多いことが響いているし、おそらくTagovailoaの1度たりともシーズン全試合に登板できたことがない点が高額契約延長を控えさせる要因になっているのだろう。いずれにせよHurtsの同期の中ではBurrowとHerbertのどちらが先に契約延長を勝ち取るかが次の関心事項になりそうではある。
 なお同期に限らずこの契約が及ぼす「予想できるインパクト」については、The First Read: Five major takeaways from Jalen Hurts' mega-extensionという記事で言及されている。まずJacksonとRavensの契約がらみの交渉がより難しくなる可能性だ。まあこの事態がなくてもJacksonがトレードを要求している時点で交渉が大変なのは間違いないが、チームにとって一段とハードルが上がったことは否定できない。とはいえ一方で今すぐJacksonをほしがりそうなチームがどれだけあるかと言われるとそれも難しい。揉めたあげくに今シーズンはタグでプレイ、というパターンが1番ありそうか。
 次にBurrowとHerbertにとっては巨額契約が見えてきたわけで本人たちにとってはプラス。ただしあまり金額が大きくなりすぎるとチームの優勝確率がそれだけ下がってしまうし、Mahomesがチームフレンドリーな契約を結んだうえで2度目の優勝をなし遂げたことも、彼らにとっては面倒な要因になるかもしれない。3つ目はRosemanのギャンブルが成功したという指摘で、上にも書いた通りこれで彼は再びオーナーなどの信用を取り戻した可能性がある。しばらく彼のEagles内での権力は安泰ではなかろうか。一方でHurtsの巨額契約は現状のチーム編成でEaglesが優勝を目指す残り時間が絞られてきたことも意味している(5つ目の指摘)わけではあるが、正直Rosemanならうまいこと回すんじゃなかろうか、という風に見える。
 リーグ全体で見ると4つ目に書かれている「走れるQB」が本当にNFLで成功できるのかどうかを示す試金石になる、という指摘が興味深いところだ。個人的にはMahomesもAllenも機動力を生かしたQBの範疇に入るのではないかと思っているし、その意味では昔のような「ポケットパッサーしか勝たん」という時代ではすでになくなっているわけだが、ラッシングを明確な武器にしたQBという点では確かにまだ数は限定的かもしれない。記事中に取り上げられているQBたちでも、Hurts、Jacksonはともかく、Murrayはまだ成績が安定しているとは言いがたいし、Fieldsに至っては現状ではまだ走れても投げれないQBに見える。ましてRichardsonがどうなるかは神のみぞ知るだ。

 他には来週に行われるドラフトがらみや、一部のチームで始まったオフシーズンのワークアウト関連のニュースが中心で、新たな動きは限定的。その中で面白かったのはGMのパワーランキングかもしれない。Rosemanがトップになっているのは納得だし、ChiefsのVeachが2番手に顔を出すのも選手を入れ替えつつ強いチームを維持しているのだから理解できる。ただ全体として足元の成績がいいチームが上に行きがちなのは確か。といってもGMの評価は結局のところチーム成績を参考にするくらいしかないわけで、そうした限界を踏まえたうえでこの手のランキングを楽しむべきなんだろう。
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