続々・台湾War Game

 台湾に中国が侵攻する事態を想定したシミュレーションについてはこれまでこちらこちらで紹介しているが、また新しいものが行われたようだ。今度は日本の笹川平和財団が今年1月に実施したもので、ただ報じている記事はこちらくらい。この日本語記事は有料だが、英語版がこちらで無料で見られる。
 今回のシミュレーションには元自衛官や研究者ら30人ほどが参加したそうで、日本、米国、台湾、中国の4陣営に分かれ、2026年に中国が台湾上陸を試みるという想定で実施した。ゲーム内では米中が臨戦態勢を敷く中、日本では首相が国家非常事態を宣言し、米軍が日本国内の基地から戦闘行為に出撃することに同意。民間空港の利用も認める展開になったという。
 さらに中国が自衛隊基地への攻撃を計画することが判明した時点で存立危機事態と認定され、海自や空自も中国軍へのミサイル攻撃に加わり、最終的には中国軍が劣勢となって戦闘は2週間あまりで終わった。台湾上空の制空権を日米が握ったことが要因だが、そこに至るまでに自衛隊は死傷者2500人、艦船15隻、戦闘機144機の損害を受けた。米軍や台湾軍の損害は1万人強、中国軍は4万人以上を失い、艦船は156隻、航空機は252機を喪失したという。自衛隊基地への攻撃により日本では民間人の死傷者が数百人から千人以上に及んだそうだ。
 全体として前に紹介したCSISのゲームにおけるベース予想より航空機などの損害は多いが、悲観的な予想よりは少なめといったところ。前にも紹介した通り、このような損害を計上することになる場合、日米にとってはピュロスの勝利になるかもしれない。記事中では2025年ごろに西太平洋で米中の軍事バランスで中国が優位になるという分析が紹介されており、その時点で中国が攻撃に踏み切るという想定なんだろう。習近平の任期中でもあるし、それに2030年代になると中国では人口減が覿面に効いてきて経済的にも厳しくなるとの見方がある。
 こちらの記事では2031~35年までに人口指標と経済成長で中国がアメリカを下回るとする研究者の発言を紹介。2040年の中国は2020年の日本と同じような人口分布になるとも記している。また本当かどうか知らないが、既に中国では年金受給者の方が負担者を上回っており、2014年以降は年金基金への積立金も減少しているという。日本でも年金基金の問題は大きな政治的テーマになったが、中国でも今後似たようなことが起きるかもしれない。
 中には中国の人口は現時点でかなり水増しされており、本当は10億人だったと報じる例も出てきている。さすがに10億人だと公称の数字とあまりに違いすぎるのだが、前に紹介した夜間の光量から推計したGDPで中国が過大な数字を出していたのが事実だとしたら、人口についても同様の懸念があるかもしれない。その場合、1人当たりのGDPは意外に公称数字が正確ってことになるかもしれないが。
 こちらの記事では中国の出生率が1000人あたり6.77人と、日本の数値(2022年で6.4)とあまり変わらない水準まで低下したことが指摘されている。特に初婚数の減少がかなり急で、2013年に2385万人あまりいたのが、2021年には1157万人と半分以下まで減っているそうだ。世界の色々な国で出生率の減少の大きな理由に未婚率の上昇が挙げられているが、中国でも事態は変わらないようだ。つまり少子化対策では子育て支援より未婚対策の方が重要なのだが、何せ結婚は極めてプライベートな事柄だけに政府として踏み込みきれない部分があるのだろう。
 となるとこちらのエントリーの最後でちょっと触れたような、「一夫多妻だと妻の競争関係によって出生率上昇につながる」という説を真面目に検討するところが出てくるかもしれない。もちろんこの研究はあくまでサブサハラ・アフリカを対象にしたものであり、それが他の地域に通用できる保証はない(例えば一夫多妻を認めているイスラム圏で似たような傾向があるかどうかは不明)。それでも他にろくな手がないとなると、もしかしたらとち狂ってそんな行動に出てくる国が現れるかもしれない。知らんけど。

 中国にとってのタイムリミットをどう見るかは別として、ウクライナではロシア軍の攻勢がタイムリミットを迎えつつあるようだ。ISWは15日の報告で、これまでに比べてウクライナでのロシアの作戦のペースが低下してきたと指摘している。また、以前から弾薬が足りないと騒いでいたワグナーのバフムートにおける作戦についても同じことが指摘されており、プリゴジンはクレムリン内でワグナーを取り締まる動きが出ているとにおわせるような発言をしている。最前線での動きが止まる一方、相変わらず内紛は盛んに行われているようだ。
 ロシア軍の攻勢が止まっていることについては、英国防省も言及している。ロシア軍の前進速度は1月以来で最低となっており、足元では攻撃を続行するか、いったん防勢を取るかといった選択に直面している、という指摘だ。ロシア側がその補充能力に比べて人員と装備をかなり景気よく消耗しているらしいことはこれまでも伝えられてきたが、その咎めが改めて出てきているのだろう。
 とはいえ、こういった人海戦術は損害を無視すればそれなりの効果を上げているという指摘もある。前に紹介した襲撃マニュアルについても、こちらのツイートによれば訓練や指揮官の質によってその能力にかなり違いが生じているもよう。確かに一部は「懲罰部隊」と化しているが、一方でこの部隊は「強襲任務において手強い相手」でもあり、機動力の乏しい防衛網の弱点を見抜いてそこを攻めるようになっているという。フランス革命戦争時のライン戦線のように、人海戦術でひたすら消耗戦を強いるという方法にも一定の効果はあるのだろう。
 実際、ウクライナ側の損害も深刻だという話がWashington Postで報じられていた。その推測によるとロシア軍の死傷者20万人に対してウクライナ軍も12万人の死傷者を出しており、特に戦闘経験の豊富な兵の損耗がじわじわと影響してきているという。こちらのツイートでは、そうした損耗の一方でウクライナが新たに召集をかけているという話も紹介されている。新たな戦車の導入などに必要な訓練を古参兵が受けている間、新兵が穴埋めに戦線に送られているため、結果として質の低下が生じているのではないかとの指摘だ。古参兵の欠乏に苦しんでいるのはロシアだけではないのかもしれない。
 いずれにせよウクライナでは春の泥濘が既に始まっている。両軍ともここからはさらに前線の動きが乏しく、一方で死者だけは積み重なる状況がしばらく続くのだろう(ちなみにBBCによるとロシア側の死者は保守的に見て3万5000人、負傷者は15万7000人に及んでいるという)。要するに我慢比べの状況に突入するわけで、となると戦場よりもその他の地域で起きている政治的な動向の方が大きな注目を集める局面に入るのかもしれない。
 中でも目立っていたニュースは、国際刑事裁判所がプーチンに逮捕状を出したという話。ウクライナの子供たちがロシアに移送されているのが戦争犯罪であり、プーチンに責任があるという理屈のようだ。当然ロシアは反発しているのだが、この逮捕状の存在によってプーチンは友好国であるセルビアやタジキスタンの訪問すらできなくなる(逮捕されるから)という説も出てきている。これまたどこまで本当か分からないが、さっそく「プーチン容疑者」と呼ばれたり、大喜利が始まったりしている。
 ただしこういった表面上での牽制合戦よりも興味深いのは、やはりロシアの内情だろう。ISWは11日に、クレムリンのインナーサークルで内紛が起きており、プーチンはロシア情報空間をコントロールできていないという話を伝えている。また12日には国防省がプリゴジンを排除しようと試みているという話を詳しく紹介しており、プーチンが昨年10月の時点でプリゴジンの危険性に気づいたこと、彼が再びプーチンの寵愛を取り戻す可能性は低いことなども記している。そもそもプリゴジンのような典型的「対抗エリート」がここまで目立っている時点でエリート過剰生産の色合いが強いと思っていたが、その状況はまだ続いているっぽい。
 いやまあ、一方でトランプが「逮捕される」と騒いだり40年前の「大統領(選候補者陣営)の陰謀」が暴露されたりと、アメリカでも賑やかにやっているという点では似たもの同士かもしれない。とりあえずやるのは勝手だが他人を巻き込まないようにしてほしい。
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