OverTheCapではこの契約について
両者の勝利 と評価している。Saintsにとっては、もしRaidersとのトレードでCarrを手に入れていたなら、ドラフト権を失っていたうえに今回の契約より3年で16.3ミリオンも多い負担を背負っていたという。一方、Carrにとってはトレードの場合の保証額は40ミリオンしかなかったが、今回の契約では70ミリオンが保証されており、当面はよほどのことがない限り先発の座も確保できるだろう。
SaintsはBreesの引退後、WinstonやDaltonに安いサラリーを投じてQBのポジションを回そうとしたが、彼らよりも高いサラリーをCarrに投入することでこのポジションを安定させようとしている、というのがFitzgeraldの解説。Mayfield、Darnold、Bridgewater、Ryan、Heinickeなどではそうした安定感は得られないだろうとの解釈だ。確かに直近2年のQB EPA/PでほぼゼロのRyanやマイナスのMayfield、Darnold、Heinickeよりはマシだと思うが、Bridgewaterの0.123という数値はCarr(0.098)より高い。プレイ回数の少なさがBridgewaterに関する懸念材料であり、一方でCarrが頑丈なのは確かだが、言うほど差があるかどうかは不明だ。
2014年に指名されたQBを見ると、1巡指名(Bortles、Manziel、Bridgewater)より2巡指名(Carr、Garoppolo)の方が活躍している印象が強い。既にリーグにいないManzielはもとより、BortlesもNFLの先発QBとしては不合格。Bridgewaterは怪我がなければもう少し行けたかもしれないが、現状では緊急避難用の選手といった位置づけだ。成績だけ見ると圧倒的なのはGaroppoloで、Carrはその次。ただGaroppoloもまた怪我に悩まされており、そのせいでこのオフの目玉扱いされていない。安定性という言葉を持ち出せば、10年目を迎えるQBたちの中でCarrが一歩抜きんでるという評価も分からなくはない。
Carr自身はルーキー年を除いてQB EPAがマイナスになったことはない、のだが、この数値が0.1を超えたシーズンは半分以下の4シーズンにとどまっており、それほど優れた成績とも言えない。幸いなのはこの4シーズンのうち3つは直近4年間に記録したものであり、その意味で最近は確かに安定していたと言える。サラリー的に見ても
一流QBたちに比べれば一段低い契約額 になっており、その意味では妥当な状況なんだろう。問題は
Saintsがまだキャップ調整を迫られそう なことで、それ次第でチーム力がどう変わるかがまだ見えない。
消えた目玉の代わりになるかもしれないのがRodgersのトレード。
PackersがJetsと彼の話し合いを認めた そうだ。ただしRodgersがPackersにとどまる可能性も、あるいは引退もまだあり得るそうで、本当に目玉になるかどうかは不透明。Rodgersについては実績は誰が見ても文句なしだが、年齢(2023シーズン中に40歳となる)や昨シーズンの成績低下(ANY/Aでほぼリーグ平均)をどう評価するか、そしてトレードに伴う負担を両チームがどう考えるかが問題になりそうだ。
特にPackersの場合、6月1日以前にトレードするとデッドマネーが40ミリオンに達してしまうため、契約を見直すか6月1日以降にするといった対応が必要だろう。一方、Jetsにとっては既にPackersが支払っている額を除いた金額が合理的かどうか。細かいサラリーの計算はしていないが、
現時点でJetsのキャップスペースが足りてない ことを踏まえるなら、色々と対応が必要になりそう。そのうえで40代に入るRodgersにこれまでのような力が残っているかが問われる。
一方、今いるチームとの契約延長を報じられたQBもいた。1つは
Geno SmithとSeahawksとの新たな3年105ミリオンの契約 だ。しばらく前なら年平均35ミリオンの契約は超一流QBにのみ許された贅沢だったが、現状ではそこまで大きな数字ではない、というか数字的にはCarrのさらに下となる。それでもこれだけの金額をもらえるQBは先発を確約された者たちだけ。まさかSmithがこんな大金をもらうまで出世するとは思わなかった、と驚きたくなる数字なのは確かだ。
そもそもSmithがもらった過去のサラリーを見ると、ルーキーの時にjetsと契約した5ミリオン(4年)が総額としては最も大きく、以後は1ミリオン前後の1年契約しかしていない。2022シーズンに初めて年平均が3.5ミリオンまで増えたが、これはWilsonが出て行ったものの後釜がいなかったSeahawksが控えの彼を先発に回す想定で契約を結んだものであり、数字を見ても先発レベルと期待されていなかったことは明らかだ。その彼がルーキー以来の複数年契約、しかもこれまでの過去最高額の10倍に達する年平均額で契約するのだから、Seahawksもずいぶんと思い切ったものだと思う。
SmithはCarrの1年前にドラフト2巡で指名されたが、この2013年はQBという意味ではドラフト不作の年であり、Smithの成績も同様に冴えなかった。キャリアトータルのQB EPA/Pは0.015とかなり低く、昨シーズンは先発として頑張ったとは言っても数値は0.083とさして高くない数字にとどまっている。DAKOTAは高いがこれはCPOEの高さが寄与したためで、WilsonもそうだったようにSeahawksのプレイコールに助けられた面が結構あるのではないかと思われる。自分の強みを発揮してくれるチームと大型複数年契約を結ぶことができたのだから、Smithにとっては願ったり叶ったりではなかろうか。逆にSeahawksにとっては今年33歳になるまともな実績が昨年くらいしかないQBにかなりの投資をするわけで、随分と思い切った判断をしたものだと思う。
もう1人は
GiantsのDaniel Jonesで、チームと4年160ミリオンの契約を結んだ 。こちらはGeno SmithどころかCarrよりもさらに金額がでかく、年平均で見ると昨オフにStaffordが締結したものと同じ水準になる。Super Bowlに優勝したチームのQBと、かろうじてプレイオフにたどり着いたチームのQBとが同じ額というあたり、この世界でもたった1年でえらくインフレが進んだものだと感心すべきか。
JonesもSmithほど長期にわたる雌伏の末ではないが、昨年になって初めて普通の活躍をしたQBである。そもそも1巡指名のくせに5年目オプションを行使されていなかった点からもそれは明らか。逆に言えば4年目にしてついに花開いたと考えることもできるかもしれないが、実際のところ彼のANY/AはRodgersよりもさらに低い、ギリギリリーグ平均といったレベルであり、母数の大きなキャリアトータルで見ればそもそも平均以下のQBでしかない。プレイオフに出たという実績のみで、ここまで多額のサラリーを払ってしまって大丈夫なのだろうか。
大丈夫そうな情報はある。一応保証額は82ミリオンと報じられており、この点ではStaffordなどに比べてずっと少ない。具体的な契約内容ははっきりしないが、おそらくダメな成績を残した場合は早々にカットすることも可能な数字になっているんだろう。逆に成績が良ければ追加のインセンティブもあるようで、チームが決して考えなしに4年160ミリオンの契約を結んだわけではない様子が窺える。それにJetsと違ってGiantsはキャップに余裕もある。Jonesにもう一度チャンスを与え、うまく行ったら御の字という発想かもしれない。
同時にフランチャイズタグに関する報道も増えてきた。Jonesと契約延長が成功したGiantsは
Barkleyにタグを活用 。RBのタグはSTを除くと
全ポジションの中でも最も安い ため、こちらもコストを抑制しながら使うことができたという点でチームにとってはプラスだったんじゃなかろうか。もちろん、Barkleyがフルシーズン活躍できたのが5年のキャリアのうち2年しかなく、さらにRBの選手人生が短いことも考えるなら、そもそもRBにタグを貼ること自体がおかしいという考えもできるだろうけど。
同じくRBにタグを貼ったのがRaidersで、
Jacobsにこれを使っている 。確かに彼は2022シーズンにリーディングラッシャーとなっているし、過去4年で3回1000ヤードを超えている。年齢もまだ20代半ばで、キャリアの短いRBであってももうしばらくは使えるかもしれない。だがそれでもRBに多額のサラリーはやはりきつい。Jacobsが4年間に積み上げたEPAは-121であり、同期間のCarrの数値(+265)とは比べ物にならない数字だ。Jacobsでなければならないほどの価値があるのか、他のRBでもある程度は代替が効くのであればそのサラリーをOLとかに投じた方がいいのでは、といった疑問が浮かぶ。
もう1人のタグをもらったRBが
CowboysのPollard 。ここはまあオーナーがとにかく選手にやたらと金払いがいいのが特徴であり、かつて
Elliottに高額を支払った 時と同じように「またやったか」という感想しか浮かばない。いやむしろElliottの時より安くなっている点を評価してもいいのではないかと思いたくなるほど。PollardはJacobsよりずっとプレイ回数が少ないが、その分だけトータルのEPAは-3.6と小さい数字にとどまっている。もちろん、だから彼にサラリーを投じるべきと考えるのではなく、それだけCowboysのOLが有能と考える方が正しいとは思うが。
ただしRBたちのタグはニュース価値としてはさして高くない。最も重要なのは
RavensがJacksonにタグを使った ことだろう。ただしこのタグはnon-exclusiveなので、他チームとの交渉は可能だし、1巡2つを出せばJacksonを奪い取ることもできる。Jacksonは代理人を立てていないためにチームにとっては交渉が面倒な選手であるが、実績で見るとQB EPAは同期の中でAllen(0.156)に次ぐ0.149を記録しており、そりゃ手元にとどめたくもなるだろう。だがnon-exclusiveであれば手元にとどめられないリスクも出てくる。
OverTheCapの
Ravens Use Non-Exclusive Tag on Lamar Jackson ではQBを手に入れるために1巡2つを差し出すのは珍しくないと指摘。Ravensが同一条件で対抗してくるのを防ぐために、今シーズン巨額のキャップヒットを計上するような契約を結べばJacksonを奪い取ることもできるのではないかと記している。もちろんそんな巨額キャップスペースが空いているチームは限定的(Bears、Falcons、Colts、Texansくらい)ではあるが、Jacksonを失うリスクもないわけではない。もちろん上手く立ち回れば複数回タグを繰り返した場合も安い金額で済むわけで、リスクとメリットを天秤にかけての選択なんだろう。果たしてこの選択、吉と出るか凶と出るか。
あと、ちょっと面白かったのが
こちらのツイート 。NFLPAが出したチームの福利厚生への評価で、トップがVikings、最下位がCommandersになっている。やはりあのオーナー、チームより
自分の懐を肥やす 方が大事なんだな、と思いたくなってしまうような数字である。
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