2022パス成績

 NFLではChiefsを優勝に導いたOCのBieniemyがCommandersのOCになった。彼はMahomesが先発に定着したのと同じ年からOCを始め、以後の圧倒的なChiefsオフェンスを率いてきた。と言ってもChiefsのプレイコールをしているのはHCのReidであり、Bieniemyが他チームのHCになれなかったのはそれが理由だと報じられている。むしろ彼の実力はこれからのCommandersでのプレイコールによって問われるのだろう。なお、彼の離任に伴いChiefsは前のBearsのHCであるNagyをOCにした。ただしReidがプレイコールを続ける限り、コーチングスタッフの入れ替わりがもたらすインパクトは限定的だろう。またBroncosのOCは前ChargersのLombardiになった
 ほとんどのチームはコーチングスタッフの入れ替えは終え、次のサラリーキャップ調整に向けて動いている。OverTheCapにはそうした事例がいくつも紹介されているが、それとは別に指摘されていたのがチームが2021-23シーズンに支払うサラリーについての記事。NFLはこの3年間の合計でキャップの9割以上を必ず支払うようルールに定めているが、現在その条件を大きく下回っているのはCowboys、Falcons、Bearsの3チームのみ。しかもCowboysはPrescottとParsonsにかなり注ぎ込む可能性があるため、実際に支払いを意識的に増やさねばならないのは2チームだけだそうだ。要するにこの9割ルール、実務的にはあまり影響を及ぼさないものらしい。
 またCommandersがWentzを解雇した。正直予想された通りの動き。彼とMcCainの解雇も含めてCommandersは28ミリオン超のキャップを開けることができるそうだ。トレードされまくっているWentzについてはデッドマネーは生じないようで、Commandersとしてはさして悩むことのない対応だっただろう。これでWentzもリーズナブルな金額で雇えるようになるわけで、むしろ他チームにとっては手を出しやすい選手になったと言えるかもしれない。

 さて、前回に続き今度はパスの成績について。今シーズンで目立っていたのはリーグ全体のパス成績低下だ。ANY/Aは5.92と2017シーズン(5.91)以来の6ヤード割れ。直近9年間でこの数字が6を割り込んだのは2回しかなく、久しぶりに冴えない数字だった様子がうかがえる。特に低調だったのがTD率で、4.15%という数字は実に2008シーズン(3.91%)以来の低い水準。2020、2021シーズンには35TD超の選手が大勢いたのが、今年はMahomesを除けばそこまで高い数字の選手がいなかったことが影響したのかもしれない。
 EPAで見ても傾向は同じ。パスのデータをパス成功、パス失敗、サック、インターセプトの4つに分けて調べてみたが、全体のEPA/Pは0.033となり2シーズン前(0.104)に比べると随分低下した。1ゲーム当たりのEPAも1.308と2シーズン前(4.285)よりはかなり低い。それでも2000年代までの水準に比べれば高い位置にはあるのでパスオフェンスが昔よりは強いことは間違いないが。

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 興味深いのは4つに分けたデータの大半でEPA/Pが昔に比べて低下しているのに、全体を足し合わせた数字はむしろ向上している点だ。いわゆるシンプソンのパラドックスが生じている状態。パス成功時のEPA/P、サック、インターセプトの3つは右肩下がりで、しかもシーズンと数値のR自乗はパス成功時が0.3393(2011シーズン以降に限れば0.795)、サックが0.5722、インターセプトが0.7877と、それなりに高い。パス失敗時のEPA/Pは一応上昇しているものの、R自乗は0.1581と弱い相関だ。にもかかわらず全体のEPA/Pは右肩上がりでなおかつR自乗が0.5546と強い相関がある。
 要するに単年度で見れば成績は低下しているが、長い目で見ればパス成績は上向く傾向が続いていることになる。それをもたらしている最大の要素はインターセプトの数の減少だ。上にも述べた通りインターセプトのEPA/Pは悪化しているが、ゲーム当たりの数値、つまりEPA/Gで見ると1999シーズンの-4.335が2022シーズンは-3.387と実に1ポイント近くも改善している(R自乗は0.5993)。サックはどちらも似た数字、パス成功の数字はちょっとだけ悪化、パス不成功はちょっとだけ改善という数字を見ても、パスの向上をもたらしたのがインターセプト(特に1試合当たりの数字の低下)であることは間違いない。

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 逆にサックによるEPAのマイナスがインターセプトより大きくなっていることは、前にも指摘した。元々インターセプトの方がマイナスのEPAは大きかったが(2005シーズンのみ例外)、2014シーズンからはコンスタントにサックの方がインターセプトよりマイナスのEPAが大きい状況が続いている。サックの数自体はそこまで明確に増えているわけではないので、こちらはEPA/Pのマイナスがほとんどそのまま影響していると見られる。
 インターセプトの減少は、パス成功時のEPA/Pが特に2010年代に入って急速に低下していることと歩調を合わせた事象だと考えられる。つまりQBが全体として慎重なパスに重点を置くようになっていった結果、インターセプトが減った代わりにパス成功時のメリットも縮小していったと言う格好だ。後者については成功したパスの増加で埋め合わせる動きが続いていたのだが、残念ながら2022シーズンは1試合当たりのパス成功自体が2010年代前半レベルまで下がってしまったため、EPA/Pの低下を埋め合わせられなくなった。

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 パス成功数の低下が一時的なものなのか、それとも何か理由があるのかは判断しがたい。敢えて理屈をつけるのならForever QBsたちが引退または引退寸前となって彼らが引き上げていたレベルが下がった一方、その穴埋めができるだけの有能なQBがMahomesくらいしかいないことが影響している、と考えることも可能かもしれない。もちろんそんな理由ではなく、単にランダムな変動の範囲と見なすのも可能だ。
 一方、時間の経過に伴う傾向があまり見られないのはパス失敗関連の数値だ。パス失敗回数は微妙に増えているように見えるが、R自乗は0.0698しかなく、ほぼランダム。EPA/Pについては上に述べた通りで、EPA/GもR自乗は0.0648しかない。ようするにこの分野についてはチーム努力で手が及ぶ範囲ではないのだろう。ランダム要素の方が強いところについて無理にコントロールしようとしても意味はない。それよりオフェンスとしてコントロールできる部分に力を入れる、という取り組みだろう。
 全体としてパスの数字は2010年代に入ってかなり質的な変化を見せている。各チームはパスそのもの、それも特に確実性の高いパスを増やすことで、ゲーム全体としてのEPAを高める戦略を取り、それはパス成功数の増加とインターセプト数の減少を通じて成果を上げるようになった。代わりに1プレイ当たりのEPAは多くの分野で悪化したが、質の低下は量の増加で補えるという判断だろうし、実際に補えているのは間違いない。2022シーズンのEPA/Gはこの数年で見れば悪い数字だったが、2000年代に比べればそれでもなお高い水準にある。
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