戦争がどう終わるかについての記事もいくつか出てきている。
前にも取り上げた国内の専門家は、別の媒体で
「落としどころ」の話をしているのだが、結論としてはそうしたものは見出しにくい、と指摘している。短期的にどちらかが圧倒的な優勢を獲得する見通しは立たず、一方で双方の継戦能力もそう簡単に尽きるとは思えない、という見方だ。
一応、ここからしばらくの焦点は、ロシア軍の目下の攻勢が成功するのか、ウクライナがそれに耐えた場合に反撃に出る余力が残されているのか、そして双方の攻撃がどのくらいの成果を挙げるのか、の3点になると記している。一方、西側諸国による支援については、戦車支援にしても供与は決まっても動きは鈍く、戦闘機などについては供与の決定すらなされていない状態で、こちらもすぐに変化が起きるとは見ていない。不透明さを強調した分析と言える。
こちらでは米の退役陸軍大将との一問一答が載っている(結構長い)。ロシアは勝っていないが現在の戦況は膠着している、ウクライナで行われているのは未来の戦争ではなく、基本的に昔の戦争である、NATOやバイデン政権はよくやっている、ロシアの失敗の原因は多種多様にわたり、挙げればきりがない、などなど。最後に戦争がどう終わるかという質問に対しては、戦争が持続不可能だとプーチンが悟った時に交渉による解決で終わるとの解答になっているが、それがいつ頃でどのような内容になるかについて具体的には述べていない。全体としてロシアに辛い評価になっているが、ウクライナの勝利が決まったわけではないと見ている点は上の分析と似ている。
それに対し、ISWのアナリストは
よりウクライナの勝利に対して強気な見方を示している。もちろんそのためには西側の腰を据えた本格的支援が必要という議論につながっているのだが、ウクライナ支援が西側や米国の利益に直結しているという主張はかなり強く打ち出されている。
この文章ではよく取り上げられる3つのシナリオのうち、ロシアがウクライナをコントロールするという目標を達成する可能性はよほどのことがない限り「信じられないほどあり得ない」と指摘。逆にウクライナがロシアを国境外に追い払う完全な勝利を収める可能性はあり、西側もそれを支援できるししなければならないとも主張している。そしてロシアとの間で交渉による一時的な妥協を行なうことには極めて批判的で、「クレムリンはシリアでもウクライナでも休戦を破ってきた」と記している。またロシアが今後数年かけて総動員体制を築き上げればウクライナが対抗できなくなる可能性を指摘し、ウクライナによる反攻を遅らせているのは西側の支援の遅れや揺らぎにあるとまで書いている。ISWはこの戦争を通じてかなり評価を高めており、その彼らの見解は色々とインパクトがありそうだ。
もう少し引いた位置からのまとめもある。
こちらではこの1年間の戦争から導き出した5つの教訓を取り上げている。戦争は人間の様々な行動の継続であるというクラウゼヴィッツ的な指摘、奇襲の重要性、同盟の大切さ、戦略の良しあしがモノを言うこと、そしてリーダーシップの持つ意味だ。結論としてはこの戦争において目新しいものは僅かしかないと指摘している。塹壕、飢え、恐れ、リーダーシップの良しあし。
「国家間の全面戦争のような事態は国際化の進んだ21世紀の現代では起き難いという幻想」が消え、現れたのは昔から変わらぬ戦争の姿だったわけだ。
こうした前世紀の墓場から生き返ってきたもののうち、塹壕についてはいくつかの記事でわざわざ取り上げている。例えば
こちらでは今回の戦争が「旧世紀時代の主流であった量を重視した戦い」であったうえに、その対抗策として塹壕戦が展開されたことも驚きを呼んだと指摘。一方でかつて塹壕を突破するために戦車が生まれたように、今度はドローンが塹壕戦の在り方を変えるのではないかとも書いている。
こちらでは実際に塹壕で戦っている兵の発言なども紹介されている。
歴史的に見るなら、塹壕は火薬兵器の歴史に常に付きまとってきたものであり、しかもその重要性は時とともに増えていった。その塹壕の復活は、
こちらのエピローグでも言及している通り、21世紀に入ったからと言って戦争の有様が変わったわけではないことを嫌というほど裏付けている。我々はまだ火薬の時代を生きている。
またこの1年を振り返るという点で、特に戦争序盤について改めて言及した記事もいくつか出ていた。
こちらの記事では序盤の3週間でいかにロシアが失敗したかを改めてまとめている。ロシア軍は市街戦で多くの損害を出し、ドローンによって手酷い損害を受け(これについてはホンマかいなという気もする)、空軍は前線に出てこようとせず制空権を奪えなかった。こうした一連の敗北によってロシアの目的達成は妨げられたが、一方で優勢な砲兵を生かした消耗戦は続いており、あらゆる戦闘の参加者が第一次大戦のような戦いに巻き込まれている。
BBCがまとめた記事では、序盤にキーウ北方に現れたあの
長い車列がなぜ生じたかについて分析している。ロシア側がやたらと古い地図を使い、なおかつろくな準備もないまま侵攻を始めたため、舗装された主要街道しか通ることができず、それがあの目を覆いたくなるような事態を引き起こしたという話だ。ウクライナは市民も含めた抵抗によってロシアの進撃を食い止め、彼らを退却に追い込んだが、そもそもロシア側のあまりに雑な侵攻が大きな要因だったことが分かる。
とまあいろいろな観点からの振り返りが行われているのだが、その中で個人的になるほどと思った指摘が1つ。
こちらの一連のツイートで取り上げられている「リアリズムに基づくとされる言説」への批判だ。NATO拡大がロシアの脅威感を高め、この戦争に至ったという言説らしいが、それに対しパワーに対抗するバランシング以外に、パワーにすり寄るバンドワゴンもあると指摘。ロシアがそうしなかった理由はリアリズムの論理では説明できない、というのがこのツイートの主張だ。
もしリアリズムの論理で説明したいのなら、中国にバンドワゴンして欧米にバランシングすることを選んだと考える必要があるが、時系列的にそう説明できるかどうかは不明。いずれにせよこの場合は「NATO拡大が理由」という理屈はやはり成立しなくなる。ロシアが現在のような道筋を選んだのはリアリズムだけではなくアイデンティティー(ロシアは欧米とは違う)が影響していたと考えなければおかしい、という指摘はその通りだろう。
トッドについては一部で
「逆張り戦略」をやっているメディア評論家と化しているとの指摘があった。個人的にも最近の彼の言い分にはそういう指摘が当てはまるように見える。国内でもロシアの侵攻直後には普段逆張りばかりしている者たちがロシアを支持するような発言をしていたのが記憶にあるが、トッドも同じで今や世の中の流れに逆行する発言をすること自体が目的になっているのではないかと思える。元からそうだったのか、それとも売れっ子になってそういう楽な方向に流されたのかは分からないが、逆張り中心になって以降の彼の言説にはまったく読みたいという気持ちが浮かんでこない。昔のようになるほどと思わせるような分析をしてもらいたいのだが、もう無理かもしれない。
一方で経済的な面では
エネルギー分析の専門家へのインタビューが報じられていた。ロシア産原油はもう欧米には向かわず、インドと中国が主要顧客となり、さらに中国への依存を強めていくと見られるそうだ。米国のシェールガス・シェールオイルなどもあって欧米のロシア依存が弱まっているのもその流れを強めそう。そうした中でロシアのエネルギー部門は次第に弱体化し、石油生産量は次第に減少していく、というのがこの専門家の見方だ。1年が経過して、少なくともプーチンが思い描いていた戦略がここまでのところほぼ妄想にすぎなかったことはかなり明らかになったのだろう。
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