シーズンが終わったところでいくつか成績を改めて確認しておこう。今回調べてみたいのはランのEPA関連のデータだ。いつもの通り
こちらのサイト のデータを使ってみる。まずは単純にランのEPAが高い選手たち。左から名前、トータルのEPA、そしてEPA/Pだ。
J.Hurts 38.559 0.357
L.Jackson 25.372 0.325
J.Fields 20.809 0.245
D.Jones 17.528 0.331
T.Hill 16.759 0.173
Br.Hall 13.041 0.159
R.Penny 11.075 0.188
T.Allgeier 11.046 0.052
N.Chubb 10.992 0.036
D.Prescott 10.860 0.517
見ての通り走れるQBが過半を占めており、RBであってもシーズン100キャリーもしていない控え選手たちもいる。チームのリーディングラッシャーでなおかつこの上位陣に顔を出しているのは、かろうじてAllgeierとChubbの2人だけ。逆に下位10人を見るとうち6人が200キャリー以上を記録するなど主力RBたちが揃って顔を出している。要するに相変わらずランプレイはゲーム的に言えば不利なプレイ、ということになる。
例外はQBのランだ。彼らのランがいかに効果的であるかは、チーム全体のEPAで1位(Eagles)と2位(Ravens)のQBを見れば一目瞭然だろう。特に今シーズンはその傾向が強く、トップ5が全部QBに占められたのはデータの存在する1999シーズン以降でも初めて。2014シーズンにトップ4がQB(Wilson、Newton、Bortles、Tannehill)だった時を超え、最もQBがランで活躍したシーズンと言えそうだ。ちなみに過去にトップ5に入ったQBの中にはBradyもいる(2005シーズン)のだが、足元でのQBの活躍はそれだけランを武器としたQBが増えたことによるものだと思われる。
QBの活躍が増えたせいか、1ゲーム当たりのラン回数も2013シーズンと同じくらいの水準にまで戻ってきた。と言っても1試合について25.5回弱と、21世紀初頭(2003シーズンには27.5回ちょっと)に比べれば相変わらず低いのだが、どん底だった2018シーズンに比べれば1試合当たり1回強は増えている。もちろん誤差の範囲と見ることも可能だが、2019シーズン以降は右肩上がり傾向が続いているのを見ると、僅かながらランプレイに復活の兆しが見えているのかもしれない。
一方、もっと興味深いのはラン1プレイ当たりのEPA、つまりEPA/Rの推移だ。下のグラフを見ると分かる通り、21世紀に入っていったん上昇した後、横ばいが続いていたのが2010年代半ばにいったん下落。その後は再び上昇傾向となり、足元では過去でも最も高い水準にまで戻っている。最近になって1ゲーム当たりのラン回数が復活しているのは、こうしたランのEPAが改善していることを踏まえれば想定通りの結果と言えるかもしれない。
なぜこの数値が上向いているのか。どん底だった2015シーズンはチーム全体としてランのEPAがプラスになったところが1つもなく、その前年も1チーム(Seahawks)しかなかった。一方、EPA/Rが高かった2020と2022シーズンはいずれも5チームがプラスを記録している。そしてそのうち2022シーズンではEagles、Ravens、Steelersで、2020シーズンにはRavens、Titans、PatriotsでQBが大きなプラスを計上しており、ラン回数は少ないがQBによるランEPAのインフレが寄与していたのではないか、と考えることも可能だ。
しかしこれは数字の悪かった時期と比べると必ずしも説得力のある理屈ではない。上にも述べた通り2014シーズンはトップ4をQBが占めたシーズンだったが、にもかかわらずEPA/Rは大きく悪化している。これが2015シーズンならトップ5にQBはNewtonしかいないので、まだ説明がつけやすい気もするが、さすがに1シーズンのデータのみで言い切るのは間違いだろう。要するにQBのラン成績だけでリーグ全体の傾向を語るのは無理がある。
シーズンごとのランのEPA/Pには最大で0.06ほどの差がある。これは実のところそれなりの格差で、パスのデータを見ても例えば1999シーズンと2021シーズンとの間で同じくらいの差が生じている。こういった時系列のデータだけを比較するなら、ランはパスと同じくらい重要ではないかと思いたくもなるだろう。だが同じシーズンのチーム間の差を見ると、例えば2022シーズンでランEPA/Pは最大0.284ほどだったのに対し、パスEPA/Pは0.423まで格差が存在しており、パスの方がチーム力で差をつけやすいことが分かる。パスが重要だという理屈の中には、こういう違いもあるのかもしれない。
なおデータが揃う1999シーズン以降のラン成績トータルを見ると、EPA/Pが最も高いのはChiefsであり、次がPatriotsだ(どちらも-0.044)。前者はHolmesやCharlesといったやたらとY/Cの高いRBたちがいたので理解できるが、後者はいささか予想外かもしれない。いやもちろん
Master of QB Sneak がいたことは確かだし、だからランのSuccess Rateが最も高い(0.418)のは想像がつくのだが、全体としてのランプレイも実入りが高かったのはある意味で驚き。なお彼らの後にはEagles(-0.061)、Broncos(-0.064)が続いている。
逆に悪いのはLions(-0.142)、Cardinals(-0.137)、Buccaneers(-0.135)、Texans(-0.114)など。勝敗にあまり関係ないと思われているランだが、それでもこれらのデータが悪いチームはこの期間中に割と成績が良くなかったところが多く、逆にいいチームは成績にも恵まれていた。いいチームはリードしていた局面で時間つぶしのためにランを使う傾向が多く、それだけランのEPA/Pは下がりそうな気もするが、そうなっていないということはむしろ強いチームはOLが優れていることを示しているのかもしれない。
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