Super Bowl LVII

 Super Bowl LVIIはChiefsが勝利し、2020年代のDynastyに向けて一歩進んだ。あと1つ優勝すればDynastyと呼ばれるようになるだろう。リーグの戦力均衡化が進んだ現在、なかなかDynastyは難しいと思われているが、2000年代と2010年代にPatriotsがDynastyを築いたように、2020年代も何のかんの言いながらDynastyと呼ばれるチームが出てくる可能性があることは、今シーズンで十分に立証されたと言える。要するに突出して有能なQBを持っていれば、Dynastyは見えてくるのである。
 特に足元ではMahomesが他のQBを抑えて圧倒的に優秀な成績を残し続けており、おまけにChiefsのGMであるVeachは割とPatriots型のチーム作り(常に選手を入れ替えつつコストパフォーマンスを高める)を行っている。加えてオフェンス作りでは定評のあるReidがHCを務めているのだから、そりゃ強い。懸念があるとしたらそのReidの年齢(来月65歳になる)あたりだが、まだ数年は現役で行けそうな範囲だし、その数年のうちにもう1回優勝すればいいのだから、十分にDynastyの可能性はあると思う。もちろんそう簡単に優勝できれば誰も苦労しないのはその通りではあるが。
 個人的にこうした条件のうち、最もChiefsにとって有利なのは、Mahomesの突出ぶりだろう。彼自身が有能なだけでなく、同時代の他のQBが正直冴えないことが、Chiefsにとっては大きな追い風になっている。Bradyの時代にはManning(1999年以降でQB EPAが0.235)、Rodgers(0.209)、Brees(0.170)、Rivers(0.171)といったQBたちがおり、Brady自身の数字(0.192)が突出していたとは言いがたかった。彼の場合、自身の能力に加えてPatriotsというチームの存在の両方が寄与したからこそ、あれだけの成績を残せたのだろう。
 一方Mahomes(0.280)と同時代のQBたちを見るとどうなるか。彼より1世代前の印象があるWilsonで0.132、ほぼ同世代のPrescottで0.128、Watsonで0.154、最近上り調子のAllenで0.156、Burrowが0.144、Herbertが0.124であり、Jacksonは0.149だ。Mahomesに最も近いのはジャーニーマンと化しているGaroppolo(0.196)なのだが、その彼でさえMahomesからは大きく引き離された2番手に過ぎない。前の世代がほぼ同年齢のライバルを多数抱えていたのに対し、現時点でMahomesにはライバルらしいライバルがいないのだ。
 過去、Mahomesと最も近い状況に置かれていたのはMontanaだろう。彼の時代(1980年代)もライバルはほぼ不在であり、そもそもQBの成績が(Approximate Valueで見ると)不作だった。かろうじて短期間だけ活躍したFoutsと、途中からリーグ入りしたMarinoが食い下がっていた程度だ。もちろんMontanaも突出していい成績を残していたQBではあるが、他にあまり有能なQBがいなかったあたりはMahomesと似た印象がある。それ以外の時代は(水準はともかく)そこそこライバルになるQBが並び立っていたケースが多いだけに、ここまで個が突出していた時代は珍しい。今後も突出が続くなら、もしかしたらChiefsの2020年代4回優勝なんていう展開もあるかもしれない。
 逆に言えばそれだけNFLでQBの重要性が増していること、一方で優秀なQBを手に入れるのは相変わらず難しいことを示しているとも取れる。過去であればRBに多額のサラリーを払っていた時代とか、RBがリーグMVPに選ばれる時代があったし、そもそもサラリーキャップ以前においてはチーム力自体に大きな格差があり、その力の差で勝利をつかむことのできるチームもいた。Pro-Football-ReferenceのApproximate Valueを使った過去のdecadesにおけるQBの活躍度を2019シーズン中に紹介したことがあったが、過去においてはQBはそれほど上位を一方的に占めていたわけではない。その時代に比べると、QBの出来不出来は直接チームの出来不出来に影響するようになってきている。
 優秀なQBが同じ時代に何人現れるかは偶然の要素が大きいのだろう。有能であっても同じくらい優れたQBが多数いる時代に当たってしまえば、そうそう優勝はできなくなる。BreesもRodgersも現時点ではまだ1回しか優勝できていないわけで、彼らは既にMahomesに優勝回数で追い抜かれてしまっている。Forever QBの時代に運悪くぶち当たった選手には、そうした問題がのしかかるわけで、逆にライバルの少ない時代ならまさに「俺より弱いやつに会いに行く」戦略が採用できるわけだ。
 というわけでもしChiefsの快進撃を止めたいのなら、とにかく彼に匹敵するレベルのQBに増えてもらうよう祈ることになる。現時点での候補は上にも記したが、本来なら対抗馬になるべきGaroppoloはまともなチームに巡り合えるかどうかすら分からない状態で、なかなかハードルが厳しい。となるとその次にいい成績を残しているAllenあたりが最大の対抗馬候補になるわけで、実際に足元では彼のいるBillsとChiefsの2強状態とみられている。問題はそのAllenのQB EPAがMahomesより0.1以上少ないわけで、Mahomesは4回プレイすれば軽く期待得点プラス1を超えられるのに対し、Allenがそうするためには7回はプレイしなければならない。彼がMahomes並みになるのはちょっと厳しそうに見える。あるいはまだプレイ回数の少ないBurrowやHurts、Tagovailoaといった選手たちが大化けするのに期待すべきか。
 もちろんゲームには不確定要素がつきものだし、ChiefsのDynastyが決まったわけではない。Mahomesが急な怪我でプレイできなくなったり、プレイの質が低下したりする可能性だってあるし、GMがチームのコントロールをミスるかもしれない。Reidが早めに引退し、後を継いだコーチ陣がうまくMahomesの能力を生かせなくなることだってあり得なくはない。ただしそういったブラックスワン的な出来事を対象外として考えるなら、現時点でDynastyに最も近いのはChiefsだ。

 ちなみに今回のChiefsの優勝により、2000シーズンからずっと続いてきた「リーグMVPを取った選手のいるチームは優勝できない」というジンクスは破れた。Kurt Warner以来であり、当時現役だった選手は今や誰一人として残っていないのだから、その意味ではえらく長く続いたジンクスだと言える。ただ実のところWarner以前にはこうしたジンクスは全く存在せず、MVPを取った選手のいるチームが優勝するのは珍しくも何ともなかった。何しろ1998シーズンのBroncos(Terrell Davis)、1996シーズンのPackers(Brett Favre)、1994シーズンの49ers(Steve Young)、1993シーズンのCowboys(Emitt Smith)と、90年代だけで5つそうした事態があったのだ。時にはツキが極端に偏ることもある、という事例の1つだろう。
 Super Bowlのつまらなさ指数は-6となり、歴代で6番手くらいの面白さだったと思われる。第3QまではEaglesが優位に進めていたが、ほとんどのタイミングで1ドライブ以内に食いつかれ、逆に第4Qではむしろ追撃する立場になっていた。FiveThirtyEightがまとめた面白いSuper Bowlベスト5に食い込めるほどのインパクトがあったかと言われると微妙なところだが、2年前ほど残念な展開ではなかったことは間違いない。
 ちなみにこのゲームでMahomesが記録したパスのEPA/Pは0.56となり、データがある1999シーズン以降のSuper Bowlで見る限りおそらく2013シーズンのWilsonの0.57(Broncosを一方的にたたきのめした試合)に次ぐ高い数字を記録したはずだ。プレイオフ3試合の中でもこれは最高のパフォーマンスであり、今シーズンを通じてもこれ以上の数字を残したゲームは3試合しかなく、要するにEaglesディフェンスは一方的な羞恥プレイを強いられたような格好だった。全米どころか全世界が見ている衆人環視の中でのこの状態だったわけで、とりあえずお悔やみ申し上げる。
 同時に来シーズンへのスタートを全チームがこれで切ることになった。といいつつまだCardinalsとColtsの新HCは決まっていない。前者はEaglesのDCとの、後者は同OCとのインタビューを待っている状態だそうだ。どちらも最期に負けたチームのコーチを候補に考えているというあたりは皮肉な結果になったが、まあ近いうちに体制は固まるだろう。
 そしてまたオフシーズンを迎えてOverTheCapの季節がやってきた。既にプレミア会員向けのデータ配布を始めているようだが、そこまでマニアックに見ているわけではない立場からは、まずキャップスペースのデータを眺めるのがスタート地点だろう。特にキャップオーバーしている幅の大きいSaintsとBuccaneersは、これから新シーズンが始まるまでに色々と対策を求められるとみられる。ベテランの首筋が寒くなる季節の到来だ。
 他にはBradyが2024年からFOXの解説を始める(なぜ今年ではないのだろうか)とか、FloresがVikingsに雇われた件などが報じられていた。RavensはJacksonにタグを貼る予定だがトレードの可能性もある、といった話もあるが、まあオフはこれから。どんな展開になるかはいずれ明らかになってくるだろう。
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コメント

brkn
EPAやDVOAって、算出方法や基準はずーっと一定なのでしょうか?
一定の場合、NFLがルール変更や戦術などで変化していくなか、何十年も前の基準でプレー効率や生産性を算出するのは時代に合わないような気がします。
しかし時代に合わせて変化・調整がなされている場合、世代が異なる選手を比較するのにはフェアじゃなくなる気もします。
算出基準は変化するのかしないのか、ご存じでしたら教えていただけるとありがたいです。

desaixjp
DVOAは以下の説明によれば、毎年の数値を正規化(normalizing)しているそうです。
https://www.footballoutsiders.com/info/methods
最終的には最良と最悪のオフェンスがプラスマイナス30%、ディフェンスが同25%くらいになるそうなので、時代に合わせて変えているのでしょう。
EPAについても、以下の説明を見ると時代ごとの調整をしていると書かれています。
https://www.opensourcefootball.com/posts/2020-09-28-nflfastr-ep-wp-and-cp-models/
時代に合わせた調整は、むしろ「時代を超えた比較を容易にするため」というのが、この文章の説明です。
RANY/Aみたいなものでしょう。
http://www.footballperspective.com/career-ranya-rankings/

brkn
ご回答ありがとうございます!
教えて頂いたEPAのサイトの内容については「EPAは世代によってモデル・算出方法が変わる(=基準のメモリが変わる)ので世代間の比較は正しく行うことはできない」よって「各世代のEPA値をキャリブレーションして基準値を揃えて、世代間の比較をするための計算モデル」を提示してるのかな?と何となく理解したのですが、正しいでしょうか?(^-^;
質問を重ねてすみません><。

desaixjp
申し訳ありませんが、正直私もそこまで細部を正確に理解しているわけではありません。
ご指摘が正しいかどうか、私の能力ではそもそも判断できない状態です。
お役に立てず申し訳ないのですが、より詳細についてはもっと統計に詳しい人を探し出して解説してもらうのがいいと思います。
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