気球と回転ずし

 先週、話題になっていたのは米国上空を飛行していた中国の気球を米軍が撃墜した件。SNS上では撃墜されるシーンの動画も出回っており、かなり閲覧されていたようだ。米国では一般メディアもこの「スパイ気球」の話題で持ちきりになっていたそうで、どうやら普通の国民の間でも中国に対する関心が高まりそうな状況にある。
 さらにこの後で米は気球製造に関与した中国の6つの企業・団体を禁輸リストに追加したそうで、おまけに改めて「中国の気球の飛行はアメリカの主権を侵害し、国家安全保障を脅かすもの」と批判している。また米国防省は中国に持ちかけた電話会談が拒否されたことを明かしており、両者の関係が随分と険悪になったことは否定できない。既に気球が侵入した時点で米国務長官が予定していた訪中を延期しており、しばらくはこうした殺伐とした関係が続きそうだ。
 中国はこの気球について民間のものと主張しているそうだが、「目的を明確にすることも、運営する企業名を明らかにすることもできずにいる」状態。世界中がスパイ目的であろうと知っているのにしらを切ろうとした挙句に逆ギレしている格好であり、雑なプロパガンダをひたすら繰り返して国際的信頼をドブに捨てている某ロシアを彷彿とさせている。権威主義国家は似たような行動を取りたがるのかもしれない。
 気球の仕様と性能についてはこちらの記事で色々と触れられている。旅客機より高高度を飛び、1トン程度の偵察用の機材を積み込んでいると見られるそうで、有名な偵察機U-2程度の偵察能力は持っている可能性があるそうだ。ただし最近は低軌道衛星の地球周回高度が下がっているために、気球による偵察が必ずしも衛星による偵察を超えるものではないという指摘もしている。
 実際に行なっていたのはむしろ通信傍受が狙いだったのではないかとの報道もある。「宇宙からは電離層に遮られて受信できない周波数帯のSIGINT用じゃないか」という見方もあったそうで、つまり偵察衛星ではできない情報を集めようとしていたとの説だが、一方で目立つ気球を使えば「いずれバレる」ことも確か。中には米国にとって気球は何の脅威にもならず、高度な技術も軍事的な目的もなく単に「政治的なメッセージ」しか持たないと見ている人もいる。
 ただし政治的メッセージと考えても意味不明感は強い。指摘されている通りバレずに済ませられるような偵察法ではないのに、実際にバレて撃墜されると逆ギレしているあたり、挑発目的だとしても「一体何がしたかったんだ」と言いたくなるような反応だ。こうした中国のわけのわからない行動について説明を付けるためには、最近同じく話題になっていた回転ずしでのトラブルを思い起こすのがいいと思う。
 回転ずしでのトラブルについて最も分かりやすいと思った説明はこちらのツイート。曰く「田舎のヤンキーは、身の回りのあらゆる物事にチキンレース性を見出して実行し、それを自慢することで仲間内で『伝説』を作る生き物」。これ、そのまま中国が気球を飛ばした行動原理の説明となっているのが面白い。偵察機能は衛星を超えるものではないのにバレる可能性の高い気球をわざわざ仮想敵国上空に飛ばす理由としては、指摘される通り「チキンレースを実行して仲間内で伝説になる」という狙いがあったとしか思えない。
 もしもそうなら「あいつ、アメリカの領空に偵察気球を飛ばしやがった」「すげえ、マジで伝説だ」とヤンキー仲間(この場合は中国国内の攘夷派)から言われるためだけにやったわけで、米国側のリアクションなどまともに考えていなかったのだろう。だから気球を撃墜された際にはメンツを潰されたと逆ギレしてしまい、国際社会で恥をさらすことになった。そもそもやってることがチキンレースなのだから、合理性など微塵もなくて当たり前。テクノクラートが生真面目な顔で分析するより、どこぞの生活指導担当教諭でも連れてきて解釈させる方が正解に近づけると思う。
 逆に言えばおそらく田舎のヤンキーの行動原理は、昔からユーラシア中心部のモヒカンが暴れまわっているかのような地域では普遍的に存在していたものと思われる。舐められたら終わり、メンツのためなら非合理的な行動も普通にやる、チキンレースで無茶したヤツが偉い、といった価値観がいまだに生き残っているのが修羅の国ことユーラシア中心部なんだろう。ロシアのヤンキーがうんこ座りをしているのも、もしかしたら共通の価値観がそこにあるのかもしれない(ねえよ)。
 一方、産業革命後の先進国ではこうしたヤンキー的価値観はどんどん薄れており、より合理的でビジネスライクな行動原理が取って代わりつつある。いわばニュータイプが登場しているわけだ。彼らが幅を利かせるようになればなるほどオールドタイプは肩身が狭くなり、結果その一部が暴走してウクライナに攻め込んだり偵察気球を飛ばしたり回転ずしで無意味なトラブルを起こしたりしているのだと思われる。

 一方、魁ユーラシア高校のヤンキー仲間であるロシアは、多くの有識者がそれと気づかないうちに攻勢を始めていたっぽい。8日になってようやく事態に気づいたISWが「もう始めとったわ」と報じた後になって、色々なところでロシアの攻勢が語られるようになってきた。ただし今のところ、ISWの地図を見ても戦線が大きく動いている様子はない。というか既にヴフレダールでは攻勢に失敗して撤退しているそうで、ウクライナの軍当局とロシアの軍事ブロガーが揃ってロシア軍の能力を疑問視しているという。
 もちろん油断すべきではないという声もある。こちらではウクライナの動きが止まってしまい、むしろロシアの方が攻撃に転じている点を指摘。西側の増援には時間がかかるだけに、現時点でウクライナの大勝利を予期すべきではないとしている。こちらでも2023年の流れはウクライナ有利だと思うがそのためには外部からの物質的支援が必要だとしている。
 こちらの一連のツイートでは、実戦から軍隊が学習して短期間で戦闘効率を向上させる可能性を指摘している。ゲラシモフが指揮を執り、プーチンが介入を控えれば、ロシア軍の戦闘効率が大きく変わるかもしれないという説だ。その場合、体制の改善が進んで戦況が変わってくると見られるのは今年の夏で、その頃には大きな作戦が開始されるのではないかと述べている。ただし識者の中でも少数意見だろうとも書いている。
 そんな中、相変わらずなのはロシアでのエリート内競争だ。といってもこれまで悪目立ちしていたプリゴジンの没落ぶりが目立つようになってきたようで、彼は引き続きロシア国防省を批判しながら何とか自分の影響力をとどめようと悪戦苦闘しているらしい。ただしクレムリンにとってワグナーは既に用済みと化しているようで、これまで彼らがやってきた囚人を兵士として募集する取り組みも、応募者が減ったために取りやめたという。一方のロシア国防省にとっても事態が改善したわけではなさそうで、戦力を使い果たすか、目的を縮小するか、あるいはもう一段の動員をするかといった難しい選択を迫られているそうだ。
 こうした潜在的な動員の可能性がもたらしていると思われるのが、ロシア国内でのアルコール消費の増加。2022年には4%の増加だったそうだが、強い飲み物の消費は5%増であり、それにロシアでは違法なウォッカが消費全体の4分の1を占めているという。特にウクライナと国境を接する地域では、例えばベルゴロドで20%増、クルスクで16%増と急速に消費量を増やしているそうで、社会全体でのストレスが増加しているのかもしれない。
 あと、まだ西側戦車は使える状態でないと思うが、早々にウクライナの反攻に関する予想も出てきている。ただしこのメリトポリ方面への反攻は多くの人が予想しているようで、となるとこれまでしばしば専門家の予想を裏切ってきたウクライナ軍がその通りに動くかどうかは分からないところ。逆に誰もが予想する通りに行動し、それでなお攻撃が成功するなら、ロシア側は相当ヤバい状態にあるとも考えられるだろう。
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