NFL22 week18

 NFLはレギュラーシーズン最終週が終了したが、その前にまずはBillsのHamlinがかなり回復しCincinnatiの病院からBuffaloの病院へ移送されたそうだ。何はともあれよかった。そして改めて思ったのが、急な心停止の場合はいかに素早く救命措置を施せるかが重要だという点だ。こちらでは国内の事例だが、心停止の場合に応急手当を始めたタイミングと1ヶ月生存率とが記されている(図5)。当然だが手当てが早ければ早いほど生存率は高くなる。
 試合中にフィールドで倒れたHamlinはおそらく相当に早いタイミングでサイドラインにいた医療スタッフによる応急手当を受けたのだろう。実際にフィールド内で心拍の回復まで到達していたことは前回も紹介している。それでも重体がしばらく続いたのだから心停止が恐ろしい事態であることに違いはないが、例えば1人で屋内にいた場合などに比べればむしろ応急手当を受けやすい環境にあったのは確かだ。心停止が多いのは高齢者だとはいえ、20代の若者でも発生している事例はないわけではなく(図2)、今回の件もそうしたあまり多くない事例が発生したのかもしれない。いずれにせよ回復しつつあるのは喜ばしい限りだ。
 もう1つの問題とされていたスケジュールについてだが、リーグが採用したのはBengalsとBillsの試合はナシとして、プレイオフのルールを変えるという方法。それによるとAFCのチャンピオンシップゲームを特定の組み合わせの場合に中立地で行う。試合ができなかったせいでシード巡の影響を受けた可能性のあるチーム同士がこのゲームでぶつかる場合、どちらかのホームでの試合にはしないという判断である。また1回戦でBengalsとRavensが対戦する場合に、ホームをコイントスで決めるケースもあるとしている。
 実際の第18週のゲームではBillsとChiefsの両方が勝ち、なおかつBengalsがRavensに勝利して2ゲーム差以上の差で地区優勝を決めたため、この特別ルールのうち適応されるのはたった1つ、BillsとChiefsの双方がチャンピオンシップゲームに進む場合の中立地開催だけになった。その前提でAFCのプレイオフのシード順はChiefs、Bills、Bengals、Jaguars、Chargers、Ravens、Dolphinsとなっている。NFCにはそうしたややこしいルールはなく、Eagles、49ers、Vikings、Buccaneers、Cowboys、Giants、Seahawksの順番に決まった。
 厳密に言うとBillsは第1シードになっていれば来週のゲームはbyeになっていたはずなので、リーグのこの対応が本当に公平と言えるかどうかは分からない。さらに言えば今年もまた負け越しプレイオフチームが(幸い複数ではなかったが)登場する形となっており、この点も疑問を招くといえば疑問だろう。というかNFC南は全4チームがたった1ゲーム差以内にひしめき合っていたわけで、これはこれでなかなか珍しい事態ではある。その中で得失点差のマイナスが最も大きいBucsがプレイオフに出るあたりも皮肉な話だ。
 もちろんシーズン終了に伴い、いつものようにBlack Mondayも到来している。CardinalsはHCのKingsburyを解雇し、GMのKeimも辞任した。3年目までは順調に成績を伸ばし、プレイオフにもたどり着いてさらに期待が高まっていたが、今シーズンは2桁敗戦と大幅に成績を悪化させたことが落胆を招いたのだろう。今のNFLはQBにしてもコーチにしてもじっくり成長を待とうと考えるオーナーは少ないので、この流れは想定通りかもしれない。
 TexansはHCのSmithを1シーズンでクビにした。正直、今年のチーム力で勝ち越せる可能性はほとんどなかったと思うし、むしろドラフト全体1位にならなかったのはある意味驚きでもあるんだが、にもかかわらずこういう結果になったのは、以前感じた「tankingをやる際に積極的に黒人をHCとして雇っているのではないか」という疑惑と整合的だ。SmithはFloresバリに強く出たら、Texansもまたトラブルに巻き込まれるんじゃなかろうか。
 BrownsはDCのWoodsを解任TitansはOCのDowningをクビにした。Brownsのディフェンスは確かに冴えなかったし、逆にTitansはオフェンスで苦戦していたのは間違いないが、両チームともスクリメージの反対側がそんなに良かったわけではない。成績だけで見るのならPatriotsの方がよほどOC解雇に踏み切るべきだが、そうでないということは逆に成績だけでない理由もあると考えられる。
 現時点でHCがいなくなったのは5チーム。まだこれから解雇の動きが出てくる可能性もあるが、一方でコーチングスタッフの穴が空いたチームは早々に次の候補へのインタビューを始めている。プレイオフに生き残れなかったチームのファンにとってはさっそく人事の季節の到来、となる。

 というわけで今回は例年恒例、今年最もツイていなかったチームを調べよう。毎度のことながら勝率と、そして得失点差を並べ、面倒なのでどちらもZ-score(標準偏差)で計算。その差のプラスが大きいところほど得失点差に比べて勝率が高く出ている、つまり「ツイている」チームとする。結果は以下の通り。

Vikings +1.500
Steelers +0.631
Chargers +0.401
Colts +0.400
Giants +0.399
Buccaneers +0.392
Commanders +0.271
Titans +0.264
Chiefs +0.223
Bengals +0.199
Dolphins +0.187
Eagles +0.149
Seahawks +0.089
Ravens +0.056
Texans -0.011
Bears -0.100
Cardinals -0.120
Packers -0.150
Panthers -0.155
Lions -0.158
Rams -0.189
Falcons -0.229
Jets -0.241
Browns -0.241
Broncos -0.251
Saints -0.303
Bills -0.355
Patriots -0.372
Cowboys -0.402
Jaguars -0.503
Raiders -0.529
49ers -0.669

 圧倒的ではないかVikingsは。というかここまで突出してツイているチームはあまり見かけないんじゃなかろうか。彼らと次点のSteelersとの差は、Steelersと22位のFalconsとの差よりもでかいわけで、どうやら今シーズンのツキはほとんどVikingsが吸い取っていたと言ってもいいレベルのようだ。もちろんツキの偏りはいつの時代にもあるものだが、これだけ極端な偏りはそうそうお目にかかれないと思う。おかげで彼ら以外にツキに恵まれてプレイオフにたどり着いたチーム(Chargers、Giants、Bucsなど)が正直さして目立たない印象すらある。
 Steelersなどはあのチーム力でよく勝ち越しまでたどり着いたものだと感心したが、その背景にはこれだけのツキがあったことも分かる。実際、単純に得失点差だけ見ればAFC北では最悪であり、その意味では実力通りの結果だったのかもしれない。逆にColtsはツキに恵まれてこの成績(ドラフト全体4位)なので、来シーズンは本気で再建期と考えてもいいかもしれない。HCと、そしてもちろんQBをどうするかを含め、色々手を入れないといかんのだろうな。
 逆に最もツイていなかった49ersも、結果的にプレイオフにはたどり着いた。彼らは選手の負傷という意味でもツイていなかったが(LanceとGaroppoloが負傷)、それを補ってあまりある実力もしくはコーチの能力があったのだろう。シーズン中に何度も不幸の代表例として紹介したRaidersもやはり上位に入って来た。あと驚きなのが、昨シーズンもツイてないチームの代表例として紹介したPatriotsとBillsが今年もその流れを継続。Raidersなどは昨シーズンは最もツイていたチームだから今シーズンは仕方ないとも言えそうだが、BillsとPatsのファンは幸運の女神を恨んでいい。
 JaguarsやCowboysはこれだけ不運に見舞われながらもプレイオフにたどり着いたという意味で、来シーズンはさらに期待が持てるかもしれない。特にJaguarsは長年にわたって冴えない成績を続けてきただけに、ドラフト全体1位指名のLawrenceが順当に力を増してきているのは楽しみなところ。MayfieldやMurrayなど過去の全体1位の中には期待外れな選手も出てくる一方、Lawrenceとそして復活の兆しかもしれないGoffの活躍は興味深いところ。まあGoffは偶然の可能性もあるからもっと様子を見た方がいいだろうけど。

 最後にThe NFL's Logistics Problemという動画を紹介しておこう。NFLの各チームが、選手の移動という単純な行動のためにいかに予算を労力をかけているかについてまとめたものだ。体格が大きいために余裕のある席をもつ航空機が必要であり、しかも数多い選手以外に100人ものスタッフもまとめて移動するこのスポーツでは、航空機のチャーター費用も馬鹿にならないようで、Patriotsのように専用機を購入してしまったところもあるという。
 最近は国際ゲームと称してロンドンで行われる試合のために移動の労力がさらに増している。ただそれを言い始めると米国ではハワイ大が米本土と行き来しながらゲームをやっているという話もあるし、終盤に出てくるスーパーラグビーは、一時期南米、アフリカ、オセアニア、アジアという世界中をまたにかけてチームが展開していたわけで、やってやれないことはないのだろう。ファンの規模を考えるとそこまでして展開するメリットがあるようには思えないが。
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