NFL22 week17

 NFLは第17週が終了、していない。MNFのゲーム中にBillsのSであるHamlinがプレイ終了後に突然倒れ、心肺蘇生措置を施されたうえで病院送りになるという事態が発生し、ゲームが中断してしまったためだ。彼が運び出された後にゲームは再開されることなく、リーグは試合の延期を発表した。Billsによるとフィールドでの救命措置によって彼の心拍は復活し、その後で病院に運ばれたそうだ。ただし一晩明けた後も引き続き重体だそうで、なお集中治療室にとどまっている。まずは回復を祈りたい。
 原因は分からないが、コンタクトスポーツに危険が伴うのは言うまでもない。NFLでもこれまで脳震盪が大きな問題になるなど、選手の安全については様々な議論がなされてきた。一時は子供にフットボールをさせたがらない親が増えているという話もあったほど。リーグがプレイの安全に対して昔よりずっと気を使っているのは間違いないものの、完璧な解決法がない問題だけになかなか厄介である。
 一番いい方法はそもそもフットボールをしないことだ。少なくともフットボールが原因で負傷に苦しむことはなくなる。でも人生の危険がそれで全て消えるわけでもない。次に考えられる選択肢としては、コンタクトを極力なくすルールにする手があるだろう。要するにフラッグフットボール化するという方法だ。もちろん体を激しく動かす限り、コンタクトがなくても負傷のリスクはあるが、危険性は下がるだろう。ただしフラッグフットボールがビジネスになるかどうかはまた別問題である。
 それでも物事がビジネスだけで動いているなら、正直そう悩む必要はないだろう。でもこれはアメフトに限った話ではないが、スポーツは単なるビジネスではなく文化という側面を持つ。そして文化というものは多少の危険が伴うからといって容易にやめさせられるものではない。日本国内では危険度が高いとされる祭がいくつかあるが、危険だからといって祭をやめさせたり、あるいはやり方を変えさせたりといったことが強制できるはずもない。
 アメフトの歴史において、過去にその危険性を理由にルールを変えさせた例があったことについては、これまでも紹介してきた。1シーズンに2桁の死者と3桁の負傷者が発生し、大統領まで乗り出すほどの政治問題と化した末の方向転換だった。結果的にこの時に導入されたフォワードパスのルールは現在のアメフトを生み出す大きなきっかけになったのだが、その背景に高校生まで含む死者の存在があったことは忘れてはならないんだろう。
 もちろん、当時の人類にとって人命が今よりずっと軽かったのは否定できない。ほんの100年ちょっと前の話だが、現代人の感覚とはかなり異なっていたと思っておいた方がよさそうなほどだ。そういう時代に作られたルールを引き続き使い続けているスポーツは、アメフトに限らず幅広く存在する。そして格闘技などのようにアメフト以外にも危険性を伴うスポーツも現状数多くある。つまりこの問題はかなり普遍的と言える。
 一方で文化だから何があっても大事にすべきとも言えない。正直、文化や伝統なるものは常に世界のあちこちで死に絶えているのが普通だ。例えば国内でも高齢者しか残っていないような地方の集落においては、その伝統や習俗はいずれ消え去っていく運命にある。そうした文化は滅びるに任せ、一方で別の文化は何があっても守るべき、というのは理屈としては成立しないだろう。現実に生き延びている文化は要するにビジネスとして成り立つ文化であることもまた、否定できない事実である。持続可能性のためには何より利益が上がることが求められるのだ。
 NFLはスポーツの分野では巨大ビジネスと言っていい。そしてそれを見に来るファンは、決してフラッグフットボールで代替可能な何かを期待しているわけではないだろう。彼ら彼女らが求めているモノの中に、選手がぶつかり合うコンタクトスポーツである点が含まれているのはおそらく確かだ。それをなくしてしまえばNFLはリーグとして成立しなくなり、XFLやUSFLがコンタクトを続ければ彼らの方が繁栄していくことになるだろう。前に何度か書いている通り、我々は剣闘士に声援を送っていたローマ市民たちと地続きの存在なのだ。
 今回の事件でこうしたリスクを減らす取り組みがまた新たになされるかもしれない。だがリスクをゼロにするような施策は出てこないだろう。観客もそれを求めていない。ビジネスもそれを求めていない。文化という口実を掲げ、あるいは形ばかりの対策を打ち出し、でも根っこのところは残そうとする。人間同士の肉体をぶつけ合う闘争という、観客を熱狂させる最も重要な要素は残る。たとえアメフトが消えても、他のスポーツや文化がその要素を埋め合わせる。我々はそういう業の深い生き物なのだろう。
 あと人命よりはずっと軽い問題だが、スケジュールをどうするかも気になるところだ。とりあえず今週中にゲームを再開することはなく、また第18週のスケジュールに変更はないことがリーグから発表されている。プレイオフが目の前に迫っている中、いつどのタイミングで実施するかが正直見えない。困ったことにBillsはシード1位を、Bengalsは地区優勝をかけているチームであり、このゲームをどう処理するかによってプレイオフへの大きな影響が出てくる可能性もある。ほんと、どうするつもりなんだろう。

 その他の話としてはWattが引退を表明した。かなり長くやっていた印象があるんだが、改めて調べてみるとドラフト1巡で指名されたのは2011年だそうで、12年というのは別に目を見張るほど長いキャリアでもない。DLというそれこそコンタクトの多いポジションとしては十分にあり得るタイミングだろう。
 彼は一応DEのポジションであったが、3-4のDEとしてあれだけのサック数を積み上げたのは当時としては驚きであった。3-4の場合、パスラッシュの主役はむしろOLBというのが当たり前だったからだ。だがその後になると3-4のDEどころかDTまで普通にパスラッシュで大きな役割を果たす流れが強まり、WattのようなタイプのDLが割と当たり前に存在する時代がやって来た。その意味で時代を変える先駆けと言える選手だったのだろう。キャリアの後半は怪我に祟られることが多かったが、記憶に残る選手の1人ではあった。
 他に目立った動きとしてはRaidersが残り試合でCarrをベンチに置くと伝えられた点がある。代わりに出場したStidhamは49ers相手にOTまで粘ったようで、McDanielsのオフェンスにはCarrより彼の方が相性がいいのかもしれない。こちらのコメント欄でも触れた通り、今シーズンはQBとコーチングの相性の重要性が浮き彫りになる事例が相次いだ印象がある。もちろんStidhamの能力については1試合で結論に飛びつくべきではないが。
 というわけでCarrについてはもうRaidersには残らないのではとの意見が出てきた。こちらこちらの記事では早くも彼自身の行き先や他チームへの影響について言及しており、シーズン終了の接近に伴ってオフのQBカルーセルも話題に浮上しているのが分かる。なお前者の記事によれば行き先候補はJets、Saints、Colts、Buccaneers、Giants、Panthers、Titans、Patriots、Commanders、Falcons、そしてRaidersとなかなか盛りだくさん。まあ今なら何言っても問題ないタイミングだからたくさん名前を挙げている、という面もあるんだろうけど。
 終盤に入って怪我もいろいろある。絶好調のTagovailoaは脳震盪で今週出場できずゲームはThompsonが頑張ったものの敗北しているTannehillはIR入りし、ゲームもダブルスコアで敗北。49ersのLanceは2度目の手術をしたらしいが、ここはPurdyが好調なのであまり心配しなくてもいいかもしれない。
 プレイオフについては既にAFCで5チーム、NFCで6チームの枠が埋まっている。残るのはAFCでは南地区の優勝(JaguarsかTitansか)と最後のワイルドカード(Patriots、Dolphins、Steelersの争い)、NFCではワイルドカード(Lions、Packers、Seahawks)だけ。既に脱落決定は13チームに達しているが、もしかしたら今年は十数年ぶりに行けるんじゃないかと思っていたJetsが最後に失速(足元で5連敗)したのがちょっと驚きだった。他に選択肢がないと思っていたWhiteもやはり冴えない数字で、オフェンスがとことん足を引っ張ったのが響いた格好。こりゃやはりオフはQBをどうにかしないといかんのだろうな。
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