ロシア軍の弾薬不足についての言及が増えてきた。
ISWの年末のエントリー では、2023年3月までに大砲の弾薬の欠乏が顕著になってくるだろうというウクライナ側の指摘が紹介されている。以前は1日あたり6万発の砲弾を使っていのが、今では1万9000発から2万発まで数が減ってきており、さらにベラルーシの武器庫から弾薬をごっそり持ち出さなければならないほど、ロシアは弾薬不足に苦しんでいるそうだ。
こちらの記事 によると大砲の弾薬だけでなく、インフラを相手に繰り返してきたミサイル攻撃の結果としてそちらの備蓄も急減しているもよう。確認されただけで549発、年間生産量のおよそ6年分を3ヶ月で使い切った計算だそうで、あと2~3回の大規模攻撃をするとミサイルも尽きるとウクライナ側は見ているらしい。もちろんその他の兵器の損失も多く、OSINT勢によればウクライナの3倍は装備を失っている計算だ。ミサイルの消耗については
ウクライナの電力会社も同じ見方を示している 。
さらに興味深いのは、多大な軍事資源の損耗によってロシア国内の防空体制まで手薄になっているという指摘。戦略爆撃機を配備したウクライナ国境から500キロも離れた基地がドローンに攻撃されるなど、攻撃だけでなく守備もザルになってきているようだ。以前、
比較的ウクライナに近いベルゴロドで攻撃ヘリによる空襲が行われた話 を紹介したことがあったが、当時よりもさらに問題が深刻化している可能性がある。
様々な問題から、ロシア軍が延々と繰り返してきた
バフムート攻撃がこれ以上は続けられそうにないという指摘 もある。
こちらのツイート では「1ヶ月と100万発の砲弾、囚人兵や動員兵1万人以上」を投入した結果として得たものは何もなしと指摘。第一次大戦の方法では第一次大戦と同じ結果しか出せず、せっかくトハチェフスキーがまとめた赤軍野外教令、つまり「砲撃は敵の予備兵力や砲兵を狙って、塹壕の歩兵が孤立無縁になったところを戦車と協力して踏み潰す」方法は忘れ去られたと記している。
序盤に戦車がやられまくった影響 が今になって覿面に効いている可能性もある。
だがそこまでロシア側の状況が悪化している中で、9月に見られたようなウクライナ軍による電撃戦の動きもない。要因の1つが思わぬ暖冬だ。既に
10月時点でそういう予報は出ていた が、実際に
大晦日の気温も6度ほどまで上がった そうで、札幌の方がよほど寒い状態。
こちらの記事 で専門家が、実は前年も地面は凍り付いておらず、今年も「暖かくなる来年2、3月まで膠着(こうちゃく)状態が続くのではないか」と指摘した通りになっているようだ。
暖冬にはウクライナにとっていい面と悪い面がある。大きなプラスはロシアによるインフラへの攻撃がもたらす効果が抑制できることだ。暖房を使えなくしようとしても、それほど寒くならなければ民間への被害は限定的。おまけにウクライナだけでなく
欧州にとっても冬のエネルギー事情は改善する わけで、ロシアがエネルギーを使った脅迫的外交を行なう余地も減る。一方で地面がずっとぬかるんだままだとウクライナ軍も容易に前進できず、ロシアが冬を通じて戦線の立て直しを図る余裕ができる。
長期化すれば経済への影響も深刻さが増す。ロシアにとって
重要な輸出品であるガスの輸出量は、今年は最低水準まで落ち込んでいる もよう。ガス輸出にはパイプラインが使われるが、こちらは短時間で別ルートへ振り替えることはできず、中国にシフトしたくても新しいパイプラインの建設は2024年まで始まらないという。暖冬でガスへの需要が低迷すれば、さらにマイナス要素にもなるだろう。
こちらの記事 ではロシアがCPUを自作するのは難しいのではないかという話が紹介されている。ロシアにもCPUメーカーはあるらしいが、彼らはその製造をTSMCに委託しており、国内には製造できる施設がない状態。電子機器は民生品だけでなく軍需物資にも使われるため、戦争継続能力にも直接影響するだけに、こうした問題は根深いと言えそう。他に
こちらの記事 でもロシアが国内で代替生産できないものが紹介されている。
そんな中、
ロシアの元陸軍司令官が急死したという報道 もあった。70歳という年齢を考えれば自然死も当然あり得なくはないのだが、
何せロシアなので疑いの声も上がる 。陰謀論者しか信じないような話ばかりばら撒いてきた結果、通常であれば疑われることがないような話までこういう目で見られてしまうという一例で、ロシアが信頼という簡単には作り上げられない資源をドブに捨てまくった結果だと思うと何とも言えない気分だ。
とまあロシアという古いユーラシアの帝国がガタガタになっている一方、もう1つのユーラシアの古い帝国である中国についてはゼロコロナをやめたとたんに感染者が急増している。そしてそれを受けて西側で広がっているのが中国からの渡航者に関する規制強化である。
日本 、
米国 が代表例で、EUでも
イタリア が同様の対応を求めている。
最後に
The Sinews of War: Army Logistics 1775-1953 という本を紹介しておこう。見ての通り陸軍の兵站について記した本であり、米国史をひもときながら書かれている。古いは米国独立戦争時のサラトガ戦役あたりから語り始め、1812年戦争、米墨戦争、南北戦争、米西戦争、そして2つの世界大戦とその後の冷戦時代まで、長大なボリュームで記されているようだ。兵站の大切さはあらためて思い知っている人が多いだろうし、そう考えるとこの本も機会があれば読んでおいた方がいいのかもしれない。
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