NFLは第16週が終了。残り2週に迫ったところでいよいよ先行公開版Black Mondayが本格的に始まった。
Broncosが1年目のHCであるHackettを解雇。彼はたった15試合の経験だけでその地位を追われることになった。今シーズンは既にPanthersとColtsが割と早い段階でHCをクビにしているので、Hackettは3人目。もちろんこれで打ち止めということはないだろう。
こちらの記事では、他にHCを新しく探す可能性があるチームとしてCardinals(4勝11敗)、Browns(6勝9敗)、Buccaneers(7勝8敗)の名があがっている。
Broncosは既に6シーズン連続負け越しが決定しており、しかもそのうち5シーズンで2桁敗戦を記録している。その前が5シーズン連続勝ち越し(うち4シーズンは12勝以上)だっただけに、この落ち込みから何とか這い上がりたいと考えたのは理解できる。かつてManningを手にいれてうまくいった経験からも、ベテランを手に入れてチーム力を高める方法に期待を抱いていたのだろう。わずか1年でHackettを見捨てたのは、おそらく期待と現実との落差があまりにも大きかったため。というか私個人もここまでBroncosのオフェンスが機能不全に陥るとは思っていなかった。よほどコーチとQBの相性が悪かったのか、それとも他に何か理由でもあったのだろうか。
もちろんHackettではオフェンスの問題を解決できないという判断に基づいた行動なら仕方ない。しかしそれを解決できるような人材を連れてこれるという保証もない。新コーチが直面するであろう問題は
こちらの記事につらつらと書かれている通りで、要するに前途多難だ。Wilsonに投じた金額やドラフト資源はかなりのものであり、それがこうした結果になっている以上、その損害から立ち直るのには時間がかかると考えるのが普通だろう。少なくとも来シーズンについては再建中心になる可能性も高そうだが、
一方でドラフト権は現状6つのみ。なかなかしんどい。
そして改めてPete Carrollを過小評価していたことを認めねばならないだろう。Wilsonはかなり扱いにくいQBだった可能性がある。確かに彼はBradyのようにスナップ前のディフェンスを読んでその弱点を的確に突くタイプのQBではない。プレイアクションや脚力を生かして時間を稼ぎながら例えばMetcalfへのロングボムで大きく進むといったプレイを得意としていた選手であり、その能力を生かすにはランを中心としたプレイコールが必要だった、という指摘には頷かざるを得ない。もしかしたらドラフトでWilsonが3巡指名だったのは、そういう使い方の難しさが含まれた評価だったのかもしれない。そのQBを立派なプロボウラーに仕立てたのだからCarrollは実は名伯楽、かもしれない。
とまあ残念な成績になっているBroncosの現状はなかなか大変だが、リーグ全体を見渡しても実は大変なところが結構多い。何しろ残り2試合という時点で勝ち越しているのがAFC6チーム、NFC5チームの計11チームしかないのだ。全体の約3分の1である。得失点差で見てもプラスのチームはやはり計11しかない。要するに上位陣に比べ、中位以下のチームがかなり引き離された状態にある。2桁勝利のチームは両カンファレンスとも4つしかなく、そして両カンファレンスとも南地区は全チーム負け越している。
過去に負け越しチームがプレイオフに出た事例としては2020シーズンのWashington、2014シーズンのPanthers、2010シーズンのSeahawksなどがあるが、どんなに多くても1シーズンに1チームだ。しかし今年の状況を見ていると、もしかしたら複数の負け越しチームがプレイオフにたどり着いてしまうかもしれない。プレイオフに出られるチーム数が増えた時点で今までより負け越しチームが出場しやすくなることは想定できたが、それでも複数のチームが出場するようになったりしたら、さすがにそれはどうなんだろうか。
NBAのようにほぼ毎年負け越しチームがプレイオフに出場し、複数出るのも珍しくないという状態が正常だとは思わない。あちらはリーグ全体の半数以上がプレイオフに出てくるためにそうした事態が起きるのも不思議はないが、それがいいかどうかは別問題だろう。何よりNFLのプレイオフは複数の試合を行うNBAとは異なり一発勝負のトーナメントだ。より紛れが起きやすいスポーツで、安易にプレイオフ出場チームを増やすのは、果たしてファンにとって公正に見える対応だろうか、という問題がいよいよ顕在化してきた格好だ。
金儲けのために試合数を増やすのは分かる。プレイオフも増やしたくなるのは当然だろう。でもシーズンによってはこうしたことが起きてしまう。そして優勝までにプレイオフで計16ゲーム勝たなければならないNBAと異なり、NFLは4ゲーム勝てば優勝できてしまうのだ。もちろんシーズン中だって対戦相手によって難易度が変わるのだから、シーズンの成績をあまり絶対視しない方がいいと言われればその通り。それでも17試合の成績と4試合の成績のどちらがより実力を示すかと言われれば、普通に考えれば前者の方である。プレイオフによってランダム性を導入し、ゲーム全体の面白さを増すというビジネス手法まで否定するつもりはないが、ツキが実力よりものを言いすぎるようになるとファンが違和感を覚え、ゲームから離れていくリスクもある。このあたり、リーグの偉いさんはどう考えているんだろうか。
最もアナリティクスが進んでおり、高レベルの分析を行い、決定過程にアナリティクスを持ち込んでいると思われているのは、いずれもBrownsだった。彼ら以外にとても評価が高いのはRavensとEagles。ただこれらの側面で上位と評価されているチームの成績はバラバラで、BrownsやTexansのように冴えないチームがある一方、EaglesやBillsは今シーズンかなり好調である。逆にアナリティクスの導入度合いが最も低いチームとしてはTitans、Commandersあたりが票を集めている。どちらも担当者が1人しかいないあたりがその理由かもしれない。
面白いのはその後に続く質問。まずモメンタムは存在するかとの問いに、15チームがイエスと答えている。アナリティクス関連ではモメンタムを否定する結論を唱える人が多いのだが、実際にチームで働いている担当者たちは必ずしもそうは思っていないようだ。もちろんそれがどの程度の影響力を持つか、またモメンタムを利用することが可能かどうかはまた別問題だろうが。
定量的に評価が難しいポジションとしては、最も多いのがSで、次にCBとOLが続き、そしてQBという答えも2チームあった。最初の3つのポジションは確かに数値化が難しいと思うが、データがやたらとたくさんあるQBを選ぶ人がいたのは少し驚きだ。QBのプレイは他の選手たちと密接に絡みついているため、その能力だけを独立して測るのは難しい、という理屈のもよう。確かにチームを移るたびに成績が派手に変わるMayfieldを見ていると、難しいという指摘にも一理ある。逆に測りやすいのはEdge、RB、WRなどで、QB、CB、LBについてもとらえやすいという声がある。Edgeは役割が明確なところが理由らしい。
ゲーム中にアナリティクス担当者がヘッドセットをつけるチームは13あり、昨シーズンよりは少し減ったようだ。アナリティクス担当がチームの決断に不同意なケースが多く生じるのはポジションの価値がトップで、特にRBの過大評価とSの過小評価に対してアナリティクス担当が違和感を抱くことが多いようだ。他にもトレードの価値やゲームのストラテジーあたりも指摘されている。
最後に過小評価されている選手と過大評価の選手についても質問している。過小評価の中にはCousinsがいるが、今シーズンの彼の個人成績は今一つで、チームは好調という皮肉な結果が生じているのは面白いところ。一方の過大評価選手の中にはまさにBroncosで悪戦苦闘しているWilsonの名前が入っている。ただ全体として票はバラけており、誰が見ても分かりやすく過大あるいは過小評価されている選手はそんなにいないのかもしれない。
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コメント
ESPNのアナリティクスの記事が面白かったです
アナリティクスのプロから評価の高い3チーム、CLE・BAL・PHIは、いずれも「ランの強いチーム」なのが、とても意外でした。
アナリティクス的な生産性ではパス>>>ランの印象で、アナリティクスに力を入れているチームほどパスの比率が高く、選手(サラリー)リソースを投入していそうですが、PHIはAJ Brown、CLEはCooperを獲得しているものの、近年でこの3チームはWRユニットへの投資の積極性はNFLの平均以下の印象です。
今シーズンの3チームのパス/ランのプレー選択比率は
BAL 3位、PHI 4位、CLE 8位
1試合当たりのラン獲得ydsは
BAL 2位、PHI 4位、CLE 5位
RBのデプス、ランブロの強いOLとTEを揃えて、ラン重視のO#を構築しているように感じます。
CLEはWatsonを取り、BALはLammer、PHIはHurtsと走れるQBを揃えて、アナリティクス的に重要そうではあります。
とは言え、RBがランの主力のチームだとも思います。
ラン主体のチーム=アナリティクス的でもないし、走れるQBを獲得したチーム=アナリティクス的でもありません。
ただ、アナリティクス的に評価の高い3チームが、ラン成績上位であることは偶然とも思えず、何か理由がありそうな気がしています。(私には理由はわかりませんが(^-^;)
この辺、どう分析or印象を持たれてますか?
2022/12/31 URL 編集
Brownsは15%ですが、EPAで見るとBrissett(3.9)はリーグ全体で37位、Watson(3.6)は43位とかなり上位にいますし、2人の数字を足せばQBとしてはリーグ8位です。
また勝ち越しているEaglesとRavensは、単純にリードして逃げ切る局面でランに頼る度合いが増えているのではと考えられます。
実際、Win Probabilityが0.5を超えている局面でのプレイ数を見るとEaglesがリーグトップ、Ravensは6位で、どちらもランを仕掛けやすい場面が多いからランが増えていると考えられます。
実はBrownsもこの局面の多さでは結構リーグ上位(8位)にいます。
加えて有能なRBであるChubb(100回以上のランを記録しているRBの中でEPA/Pはリーグ4位)の存在と、比較的強いOL(RBWRでリーグ9位)の存在が、ランの比率を高めているのではないでしょうか。
というわけでアナリティクスというよりチームの強みと実際のゲームの局面がこうした数字をもたらしているような気がします。
2022/12/31 URL 編集
とするなら、アナリティクスのプロ達に定評があるCLEが、ランO#に強みのあるチーム編成にしている(リソースを振り分けている)ことは説明が難しいのではないか?と思っています。
チーム編成はGMが意図的に行うものであり「たまたまランの強い編成になっちゃった」ようなものではなく、アナリティクスを取り入れた結果「ランの強い編成を選択した」と考える方が自然のように思うのですが、どうなんでしょう?(^-^;
2022/12/31 URL 編集
パスを主軸にするには有能なQBという極めて希少な資源を手に入れる必要がありますが、それが手に入らなければいくらアナリティクスに定評あるチームでもできることには限界がありと思います。
その中でアナリティクスを生かして強みを探したら2巡指名のChubbを要するランゲームの方がまだ使えた、ということじゃないでしょうか。
ご指摘の通り強いチームを思うままに作れるならパスに力を入れることも可能でしょうが、実際には手持ちの駒で戦うしかないのがどのチームも実情でしょう。
それだけ有能なQBは希少な存在なんだと思います。
2023/01/01 URL 編集
有能なQBとWR/TEのいるKC・BUF・CIN・MIAなどが「アナリティクスの体現」みたいなチームだと私も思うのですが、先のアンケートの結果はそうではありませんでした。
そもそもアナリティクスのプロが認めるCLE・BAL・PHIの3チーム、今年こそPHIが絶好調ですけど、2020年からみてもプレーオフに出られるかどうか?出られても1勝は難しい程度の中堅~それ以下のチームという感じがします。
そうすると「アナリティクスを取り入れても強いチームは作れない」
という結論になりそうにも思うのですが、そんなはずはないとも思うので、モヤモヤしています(^-^;
2023/01/01 URL 編集
元々MLBでアナリティクスが広まった当初は、貧乏球団が少しでもいい成績を残すための手段として使われていました。その後で金持ち球団もアナリティクスを取り入れると、今度は彼らの方が強くなりました。同じ手法を使うようになれば、個々の選手の底力が強い方が勝ちやすくなるのは当たり前だと思います。
その意味でアナリティクスは全球団が採用すればその利点が消えていく手法です。でも不要にはなりません。アナリティクスがなければ弱点が残り、長所が伸ばせなくなる分だけ不利になってしまうからです。
アナリティクスを「強くなるための手法」として使えるのは、まだそれが広まっていない時期だけ。いったん広まると、むしろ「弱くならないための必需品」としてアナリティクスを入れざるを得なくなるのだと思います。
個人的に、さして有能でないQBを使って戦うには、アナリティクスよりも昔ながらのXs and Osの観点で工夫する方がいいんじゃないでしょうか。つまりコーチングスタッフの能力向上です。このエントリーでも書いた通り、コーチングスタッフ次第でQBの成績が大きく変わるのを見ると、今後はいかに有能なコーチを見つけ、相性のいいQBと組み合わせるかが問われそうな気がします。
となるとこれから必要なのは、コーチングとQBとの相性に一定の法則性を見出すためのアナリティクスかもしれません。どうやれば法則性を見出せるのかは分かりませんが。
2023/01/02 URL 編集