NFL22 week12

 NFLは感謝祭ウィークが終了。今週で面白かったのは、Jetsの対戦相手であるBearsがFieldsの負傷によって控えQBを投入した点だ。一時はPetermanが出ると言われていたのが直前にSiemianに代わるといった変更はあったものの、どちらも控えに変わりはない。もちろんJetsの側も控えのWhiteを投入したという意味で特にJetsだけが有利ではないとの見方もあるだろうが、ここまでのJetsの対戦相手を並べてみるとこれはなかなか興味深い事態ではある。
 彼らの相手が本来の先発QBをほぼフルに出場させられたのは、これまでの11試合のうちRavens、Bengals、Packers、Patriots(2試合)、Billsと半分強。残る5試合は控えQBが一定以上プレイしている。前者のゲームでのJetsの成績は3勝3敗なのに対し、後者は5戦全勝だ。試合数の少ないNFLならではと言えるが、これだけツキが偏って発生するのはなかなか珍しい部類。現状、彼らは勝ち越しまで残り2勝に迫っており、もしかしたら2010シーズン以来のプレイオフも可能かもしれない。
 ただ気になるのは、ここでプレイオフに出てしまうのが、Jetsにとって長期的に拙い結果をもたらす可能性についてだ。実のところZach Wilsonの成績は相変わらず低迷している。現時点で彼のEPA/Pは-0.077、DAKOTAは-0.005で、後者はリーグ33人中32位となっている。昨シーズンも彼の成績は惨憺たるものだったが、にもかかわらずチームがプレイオフに進出してしまうと、かつての「Sanchezの悲劇」、つまりダメQBがプレイオフに出たことで変に評価され、結果として彼をクビにするタイミングが遅れてしまう、という事態に至る懸念はないのだろうか。
 当時もそうだったが、今シーズンのJetsの踏ん張りはQBではなくディフェンスの奮闘にある(EPA/Pはリーグ6位)。ここから本当にチームを強化したいのならまずオフェンスを、中でもEPA/Pで-0.042とリーグ26位に沈んでいるパスオフェンスを改善するのが急務のはず。一応、現時点でのWilsonに対するメディアやSNSの反応を見る限り、当時のJetsファンがSanchezに抱いていたような思い入れはあまりWilsonには抱いていないように見える。ただ、この手のバイアスはプレイオフでの偶然次第で結構変わってしまうため、まだ警戒は必要に思える。
 私がJetsファンなら今シーズンはとにかくプレイオフ出場を至上命題として、その際に頼れるQBは誰なのかを考えるだろう。残念ながらWilsonではない。EPA/PでWilsonとほとんど変わらない-0.072の数字を残しているFlaccoでもない。となるとプレイ回数が少なくデータとしては全く当てにならないが、Whiteに賭けるという選択くらいしかないのが実情だろう。従って現時点でのJetsコーチ陣の判断を支持したいし、できれば無理にWilsonを先発に戻さないようにしてほしいと望むだろう。10年以上プレイオフから遠ざかっているのだから、まずは勝ち残りに向けて少しでも確率を高めることが重要だ。

 続いてJetsとは逆に今シーズン不調のPackersについて、実はRodgersが第5週から親指を負傷していたという話が出てきた。今週のゲームではさらに肋骨を痛めたそうだが、怪我の状況がどのくらい深刻なのかは分からない。
 今年の彼の成績を見ると、確かに怪我の影響は一目瞭然だ。第5週までの彼の成績はEPA/Pで0.092、CPOEは+1.9でDAKOTAが0.089だったのに対し、第6週以降の数字はそれぞれ-0.018、-1.0、0.034と大きく落ち込んでいる。この水準はMillsやZach Wilsonといった若手の冴えない選手たちと同じようなレベル、つまりリーグでもどん底クラスであり、利き手の親指という重要な部位の負傷によって彼のパスが大幅に劣化している様子がうかがえる。彼の怪我はほとんどの場合で手術が必要になるレベルと言われており、だとするとすぐにこの状態を脱するのは難しそうに見える。
 Packersは今週の敗戦で4勝8敗となり、あと1つ負けると負け越しが決まるところまで来た。早ければ来週にもVikingsの地区優勝が決まる可能性もあり、現状でRodgersが無理を続ける必要はそろそろ感じられなくなりつつある。Packersがもし本気で彼を2026年まで使い続けるつもりなら、Rodgersの年齢も考えて今シーズンはもう無理をさせない、という選択肢もあるかもしれない。逆に年齢を考えて「活躍できる期間は限られているのだからプレイオフの可能性が完全に消えるまで使い倒す」という選択肢もあるかもしれないが。
 どちらの選択肢の方が望ましいのだろうか。怪我する前の第5週までの成績をどう見るかで判断は変わりそうだ。その時点でのRodgersの成績は100試投以上を記録した32人のQBのうち、EPA/Pだと16位、DAKOTAだと13位となっている。要するにほぼ真ん中だ。直近2年間のMVPクラスの活躍に比べると、負傷前の時点で彼は昔日の輝きを既に失いつつあったようにも見える。もうMVPレベルの活躍は期待できないのだと思うなら、限られた時間を極力使い倒す方に舵を切るのが適切だろう。逆にたった5試合のデータでそうした判断は下せず、彼はBradyやBreesのように40歳以上になってもなお一流でい続けられると見ているのなら、ほぼ優勝の可能性が消えつつある今シーズンは捨てて来年以降に備える方がいい。
 週単位で分けた数字だけでなく、レシーバーに焦点を置いた分析をする手もある。今シーズン、Packersのレシーバー陣で最も大きな変更となったのはAdamsのRaidersへのトレード。過去4年間に3回シーズン1000ヤード超を達成し、5年連続Pro Bowl、2年連続First-Team All-Proに選ばれたエース中のエースがいなくなった影響は間違いなくあるだろう。その影響を重視するのなら、Rodgersの成績低下もレシーバー陣の能力低下に由来するものであり、今後の補強次第で状況は変わると考えられる。シーズンオフにFAで補強する、今年のルーキーたち(WatsonとDoubs)の成長を待つといった対処をしたうえで、改めてRodgersの成績がどうなるかを見る必要がある。
 一方で気になるのは何人か、前年までに比べて大きくEPA/Pが低下しているレシーバーがいる点だ。以下はこの4年間の各レシーバーのEPA/Pを並べたもの。Cobbの2019、2020シーズンと、Adamsの2022シーズンは他チームでの成績となる。

Name 2019 2020 2021 2022
Lazard 0.515 0.853 0.652 0.123
Tonyan 0.112 0.771 0.552 0.035
Cobb 0.292 0.479 0.549 0.611
Doubs ----- ----- ----- -0.124
Watson ----- ----- ----- 0.732
Adams 0.413 0.541 0.437 0.358

 今年に入って急激に成績が落ちているのがTonyanとLazardの2人。いずれもAdamsがいなくなった結果として昨シーズンまでに比べて大幅にプレイ回数が増えており、例えばTonyanは昨シーズンを通じて32プレイだったのが今年は既に58プレイ、Lazardも63プレイが72プレイに増えている。5週目までに限ってもLazardのEPA/Pが0.269、Tonyanが0.203と、どちらも昨シーズンよりは低迷している。これがRodgersの加齢に伴う能力の低下に由来するのか、それともAdamsがいなくなった結果として彼らへのカバーがより厳しくなったためなのか、そのあたりをどう見るかも重要になりそうだ。
 Packersは今シーズン後にLoveの5年目オプションをどうするか決断しなければならない。現状だとオプションを行使した場合、2024シーズンのサラリーは20ミリオン弱に達する。Rodgersの大型契約によってLoveの5年目オプション行使はなくなったと思われているが、もしRodgersが本当に加齢のため成績が落ちている場合や、あるいは怪我を理由に引退を早めるといった決断を下す可能性がある場合、Loveの5年目オプション行使も考えなければならなくなるだろう。しばらく注目しても面白そうだ。

 あと、例年出ているデータだが、ESPNのライン関連のデータについて。そろそろ試合数も増えてきたのでちょっと目を通してみたのだが、パスディフェンスのEPA/Pでトップ2チーム(PatriotsとEagles)が非常に対照的な数字になっていた。EaglesのPRWRは53%でリーグトップに位置しているのに対し、Patriotsは28位の34%とむしろ下から数えた方がいい状態。両チームのディフェンスの作り方に関するフィロソフィーの差が見事に現れていると思う。一方、ランオフェンスのEPA/Pでのトップ2チーム(Eagles、Ravens)は、RBWRでも1位と2位を占めており、やはりランにはOLのブロックが大きく効くようだ。
 ラインの重要性についてはどちらかというと過大評価されている印象を持っている。特にOTのサラリーは他のOLに比べると高すぎではないかと思う。一方、DLについて一部の選手のサラリーが高騰してしまうのは仕方ない面もあるんじゃなかろうか。パスディフェンスにおいてはパスラッシュよりパスカバーが大切というのが一般論として成立するとしても、1人のCBがカバーできるのは1人のレシーバーでしかないわけで、パスの出し手を潰すことができる有能なパスラッシャーに資金を投じる方が効果的と考えるGMがいてもおかしくはない。もちろんPRWRでリーグ2位なのにパスディフェンスのEPA/Pではリーグ27位のRamsのように、後者の方法が通用しないケースもあるが、そうしたリスクも含めてのチーム作りなんだろう。
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