唯一それらしいのが見つかるのはJominiのVie politique et militaire de Napoléon, Tome Deuxièmeで、同書には兵の前を通過したナポレオンが以下のように述べて彼らを鼓舞している場面が描かれている。「敵は無鉄砲にもこちらの一撃を食らおうとやってくる(L'ennemi vient se livrer imprudemment à vos coups)。電光石火で戦役を終わらせるぞ」(p180)。どうやらAlisonはこの前半部を「敵が間違った動きをしている時はそれを邪魔してはならない」と意訳したようだが、さすがにちょっと意訳が過ぎるのではなかろうか。
というかそもそもJominiが持ち出したこの文章自体、実はどこにソースがあるのかはっきりしない一文だ。この文章の後半部を見る限り、ナポレオンの書簡集第11巻に掲載されている公報第30号が元ネタであるのはおそらく間違いないのだが、公報の文章は「兵士諸君、我々は敵の誇りを打ち砕くような電光石火の一撃でこの戦役を終わらせなければならない(Soldats, il faut finir cette campagne par un coup de tonnerre qui confonde l'orgueil de nos ennemis)」となっており、どこにも「無鉄砲」というニュアンスは見当たらないし、まして「敵の間違った動き」も「邪魔するな」という言葉も、そこには存在しない。おまけにそもそも公報はナポレオンがプロパガンダ目的で作った文章であり、彼が本当にそんなことを語ったかどうかの証拠としては弱い部類に入る。
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2022/11/15 URL 編集
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