架空世界製造サイト

 前にナーロッパ世界の歴史作りについて言及したことがある。架空世界の歴史に生物相が影響を与えると考えれば、その気候がどうなるかを考慮する必要があるといった話にも言及した。一方、実際の地球を見ると簡単には思いつかないような気候が発生しているところもあるわけで、架空世界の気候についても推測だけで安直に作ると間違えそうな気もする。あくまで「架空」世界なのだから間違いもへったくれもない、と言ってしまえばそれまでだが、気になる人はいるだろう。
 対応策としては、何らかのシミュレーターでも使って気候について推測するという方法がありそうだ。例えば最も安直な方法を採用するのなら、以前こちらでも紹介した自動で架空地図を生成するAzgaar's Fantasy Map Generatorを使う方法がある。デフォルトだと地図上の各国勢力図(Political map)が出てくるが、Biomes mapにすれば温帯や熱帯、サバンナ、砂漠、タイガやツンドラといった気候を示してくれる機能が付いてくる。つまり気候について考える必要がないわけだ。
 View ModeをGlobeにすれば地図に描かれている地域が惑星上のどのあたりに位置しているかが分かり、またOptionのConfigure Worldをクリックすれば惑星の温度や降水量、卓越風の向きといったデータを見たり変更したりすることもできる。ただ全体として見ると、亜熱帯低圧帯がありそうな地域に砂漠やステップといった乾燥帯があまり形成されない傾向があるように思える。それともたまたま現実の地球は乾燥しやすい地域に陸地が多くあっただけなんだろうか。
 いずれにせよ自動生成マップとしては十分に機能している。それに乾燥地帯以外の気候帯の配置についてはそれほど違和感はない。ファンタジー世界は水分が遍在しているとか、何かそんな理屈をつければ成立する、と言えなくもないだろう。それに高地についてはきちんと氷雪地帯として表記されることも多いし、時にサイズが小さいマップも出てくるが、これも調整は可能。簡単に利用できる架空世界製造装置としてはよくできている。
 もっとリアルに近づけたものとしては、ハンブルク大学が提供しているPlanet Simulatorがある。ユーザーガイドを見ても、かなり本格感のあるシミュレーターのようだ。ようだ、という表現になっているのは、私にはこのシミュレーターが使えないため。何しろLinux-PC用のプログラムなので、普通のwindowsを使っている立場からするとちょっと許してくださいと言うしかない。このシミュレーターに架空世界をぶち込んだら面白い結果が出る、かもしれないが、正直私には判断できない。
 惑星づくりから取り組めるサイトもあるが、これもこちらが期待するようなものでない事例がある例えばBuild A Planetというサイト。見ての通りアルベドや温室効果、太陽からの距離といった条件を入力して惑星を作ることになっているようだが、そこで出てくるのはエネルギー収支の数値くらい。例えば温室効果がどのくらい増えるとエネルギー収支的にヤバくなるかといったことは理解できるが、架空世界の気候や生物相を設定するにはあまり向いていない。
 似たようなのがEn-ROADSという気候シミュレーター。こちらは化石燃料や再生可能エネルギー、輸送や建設、経済成長といったデータを入れ、2100年にかけ気温がどのくらい上昇するかを調べるというもので、要するに足元の地球で起きている温暖化のシミュレーションを目的としたサイトだ。当然ながらナーロッパの気候条件を調べるような想定にはなっておらず、架空の生物相を想定するうえではやはり役に立たない。
 地球のような惑星のシミュレーションを行うサイトもある。ただしシミュレーションのページを見ると、これまたナーロッパ作成にはあまり役に立たなそうであることが分かる。高度別の気温や水蒸気の量といったものがシミュレートできるのだが、面白いのは初期条件を変えた場合の結果だ。例えば地用からの距離を倍にすれば、気温がものすごく低くなるといった結果が出てくる。

 というわけでAzgaarを除くと、実際に役に立ちそうなサイトはそれほど多くはない。その中でそこそこ使えそうに見えるものとなると、私の見つけた中では以下の3つくらいがそれに相当する。
 まずはBuild Your Own Earthだ。こちらは惑星の設定を決め、そこからview propertiesを見て地図上に気温や風向き、気圧などを表示させるという仕組み。まず惑星の設定には、現在、過去、異世界といった3つの大きな設定があり、それぞれの中で細かい設定ができる。例えば最近の事例だと、温暖化ガスがなければ地球の気温が異様に低くなることが分かるし、二酸化炭素量についてIPCCの2100年の設定にすると気温が今より上昇することも分かる。
 地軸の傾きがゼロの場合と90度の場合も確認できる。ゼロの場合は気温が季節ごとにほとんど変わらないだけでなく、全体として今より低くなっているのが分かるし、逆に90度の場合は今よりずっと気温が高くなる様子もうかがえる。太陽の光量や軌道要素など、様々な設定を変えれば気候にどんな影響が出るかを調べることもできる。
 過去の地球を設定することもできる。氷河が最大だった時期からさらに遡ったジュラ紀、三畳紀、挙句にはエディアカラまで遡ることも可能で、当然ながら大陸の形は大いに違っている。異世界設定になると海ばかりや陸ばかりの惑星、赤道付近や極付近、あるいは中緯度地方に1つの超大陸がある場合といった設定もできる。最後の方になると大陸の形が長方形になったりしているが、それでもそこそこ面白い条件で気候を調べることは可能だ。
 一方、表示されるpropertiesは気温や気圧、風といった大気に関連するものの他に、氷や陸上のアルベド、地形、さらには海流といったものも表示できるようになっている。特に陸上では植生も表示されるようになっているため、架空世界について確認するのには大いに役立つ、と言いたいところだが、残念ながら表示される植生を見る限りほとんど緯度だけで判定されているようにしか見えないし、古い時代の地球(シルル紀以前)になるとどの大陸も砂漠扱いとなってしまう。おそらく植物が地上に進出する前だから理屈は正しいのだが、ナーロッパ作りに役立つかどうかを考えるとちょっと残念だ。
 次にSpace Calcというサイトでもまた気候のシミュレーションが行われている。実際に見てみるとアラビア半島南部がサバンナになり、インド北部が亜熱帯砂漠になるなど、実際の気候帯に比べて少し違うようにも見えるが、それなりにもっともらしい形にはなっている。また自転の向きが反対になった場合の気候帯や、地軸が今と違う場所(太平洋とインド洋に極がある)にある時の気候帯なども描かれている。
 さらにこのサイトで魅力的なのは、Heightmapをアップロードすれば、それに基づいたシミュレーションが行われる部分、なのだが、残念ながらどのような設定でHeightmapを作成してアップロードすればいいのかについての説明が見当たらない。実際にシミュレートされている画像をダウンロードしてみると、陸地で高度の高いところは白く表示されているので、そのような画像を作ってアップロードすればいいのだろうと思われるが、色のグラデーションと高さとの関係などは記されていない。そもそもそんな地図を作成するのはかなり面倒だろう。
 最後に紹介するのはClima-Simというシミュレーターだ。載っている図を見れば分かる通り、惑星上をいくつものセルに分けてそれぞれ気候をシミュレートしている。こちらはブラウザでシミュレーションができるわけではなく、ダウンロードして使う形になっており、フリーでの使用と、複数の価格設定で購入するモードがある。もちろん後者の方が機能は高い。
 説明文を読むと大陸をカスタマイズできるとあるため、これまたナーロッパの気候を調べるうえでは役に立ちそうに見える。実際にダウンロードして少しいじってみたが、大陸を作り直すこともでき、一見すると架空世界の気候を調べることも可能に見える。なかなかお役立ちの一品、と言いたいところだが、1つ大きな問題が。このシミュレーター、気温などは計算してくれるのだが、降水量について全く算出しないのだ。となると、当然ながら気候帯についてもよく分からなくなる。
 というかそもそも大陸を作る際に植生を決める設定になっており、つまりどの地域が森で、どこが草地、どこが砂漠であるかはユーザーが自分で設定する必要がある。こちらは気候条件の結果としてどのような生物相ができるかを知りたいのに、先に生物相を自力で決定してしまうのでは本末転倒。というわけでそこそこ面白いソフトであるが、架空世界の気候をシミュレートするというこちらの狙いとは上手く適合しないことが分かった。結局、一番使えるのはAzgaar、という結論になってしまった。

 あと架空世界の作成としてはこういうサイトもある。
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