メディアツイート

 こちらの記事が興味深かったので取り上げてみよう。メディアのツイートを使って「共感という社会的政治的なリソースをメディアが不平等に分配しており、そうした共感格差がポピュリストに利用されている」という内容の記事だ。かなり関心を集めていたし、一般的な反応はこちらからも分かる通り、割と納得して読んでいる人が多いように思えるんだが、さてここに書かれているデータの解釈はどのくらい適切だと考えればいいんだろうか。
 まず言っておくと筆者は最後に今後の課題として、ツイートではなく本当に記事でも「メディアの共感格差」が存在するかどうかを調べる必要があること、取り上げている米国の全国紙だけでなく、本当は地方紙での扱いも見なければならないことなどを取り上げているし、また文中で取り上げている「絶望死」について、共感がリソースになるという見解が正しいならメディアの共感を得ている黒人大卒未満の絶望死は増えないはずではないかと、自らの議論に対する疑問点も指摘している。筆者自身、この仮説はまだ調べる余地があると見てるわけで、決して思い込みだけで書かれた文章ではない様子が窺える。
 この文章における最大の「売り物」は、米大手メディアのツイート分析結果だ。2010-15年にそうしたメディアのアカウントがマイノリティについてどの程度ツイートしたのかを調べ、紹介している。対象としているメディアの多くは新聞あるいはテレビで、それも基本的には大手どころを取り上げている。ネットメディアであるHuffPostを除けばオールドメディアが中心となっており、全体としては中立かそれに近いとされるメディアが多い。
 ツイート分析で取り上げた属性は「労働者階級・ブルーカラー」「白人」「同性愛・LGBT」「黒人」「移民」の5種類。それぞれを示した棒グラフを見れば分かるのだが、「同性愛・LGBT」が突出しており、それに「黒人」「移民」が続き、白人は苦境についてよりも特権についての言及が圧倒的で、労働者やブルーカラーはほぼ無視されていることがわかる。どのように調べたかについては下部に説明が載っており、またツイートのうち共感に関連したものを調べるうえでランダムなサンプルをチェックしているのだが、検索ワード一覧のリンクもつけて第三者が確認できるようにしているあたりは評価が高い。
 そのうえで、このデータを筆者はどう解釈しているのか。まずは労働者へのツイートについて、具体的にどの文言が引っかかったかを表にしている。次に上にも紹介した絶望死のデータを示したうえで、トランプ当選前後のオピオイドに関するツイート数のデータをグラフ化している。さらに白人について言及したツイートの具体的内容を5つに分類し、それぞれがどの程度の比率を占めているかをこれまた表にしている。以上、これだけだ。
 せっかく面白いデータを集めた割に、その内容についての分析は正直あまり細かいとは思えない。記事の半分以上はデータではなく、黒い犬のたとえ話とか、ケインズの美人投票に絡めた話とか、マーケティング用語であるブルーオーシャンについての説明やトランプとの関係、「新たなマイノリティの誕生」という本に載っているアンケートの紹介、そして「もしあなたがポピュリストになりたければ」という文章など、他の話で埋まっている。何というか、随分ともったいない気がする。
 白人や労働者だけでなく、LGBT関連や黒人、移民についても内容の分類をやってもよかったんじゃないのか、メディアごとにこの5種類についてどのくらい言及していたのかについて分析してはみなかったのか、時系列的な変化はどうなっていたのか、などなど、他にもこのツイートデータから話せる内容はたくさんあったように思える。そうではなく、「新たなマイノリティの誕生」や「ヒルビリーエレジー」「共感という病」といった、白人労働者や「キモくて金のないおっさん」に焦点を当てた本を使った議論に持っていったのはなぜだろうか。読者を特定方向に誘導したかったんじゃなかろうか、と勘繰りたくなる文章構成だ。
 別に特定方向に誘導するのがいけないというつもりはない。文章を書くうえで何かの目的があり、その目的に向けて構成を考えるのは普通の書き方だからだ。また筆者の議論の大枠に反対するつもりもない。というか基本的には同意する部分が多い。確かに米国の大手メディアのツイートには偏りがあったのだろうし、その中で労働者階級がほとんど無視されていたのもおそらく事実だろう。白人に対して特定の観点からのツイートが多く、彼らの苦境に寄り添う姿勢がほとんど見られなかったのも、これまた指摘の通りだったんじゃなかろうか。特に調査対象となっていた2010-15年というオバマ政権期にメディアの関心がそちらに偏っていたという調査結果は、実感とも合っている。
 だが、筆者が「共感格差とポピュリズム」に引きずられた結果、データの解釈がちと強引になっているように見える部分があるのも事実だ。具体的には「トランプが大統領になると、絶望死に注目が集まる」と題したグラフ。報道機関のオピオイド言及ツイートは2015年まではほぼ皆無だったが、2016年から増え始めて2019年まで高水準を続けたことがグラフから分かる。筆者はこれについて「トランプが大統領になり、白人の非大卒労働者に注目が集まって初めて、オピオイドに興味を持ち報道を始めた」のだと解釈。オピオイド報道がトランプの躍進の結果として始まったと見ている。
 でも本当にそうなのか? もっと他の理由も考えられるのではないだろうか。例えば、米国の平均寿命の推移こそがオピオイド報道の隆盛をもたらした、とか。
 世界銀行のデータで米国の平均寿命の推移を見ると分かるのだが、2014年に78.8歳というピークを付けた後、3年にわたって横ばいもしくは右肩下がりの傾向が続いていた。平均寿命は病気の流行や大災害があれば低下することも珍しくはなく、例えば日本は2011年に0.2歳平均寿命が縮んでいる。だがそうした大きな病気などがない時期に3年にわたって平均寿命が右肩下がりを続けるのは尋常ではない。
 実際、2015年に平均寿命が下がったことが判明した2016年末、米国ではそれが大きなニュースとなった。前回、平均寿命が下がった1993年にはHIVの大流行という要因があったのに対し、2015年にはそういった病気の流行が知られていなかったからだ。で、病気の代わりとしてメディアが注目したのが絶望死。その1つとしてオピオイドが注目を集めるようになったのが、ツイートグラフの通り2016年だった、と解釈することもできるわけだ。
 そしてこの傾向がようやく止まり、平均寿命が前年に比べて上昇に転じたのが2018年。その状況が確認できたのは2020年に入ってからであり、結果として同年以降、急激にオピオイドのメディアツイートが減少している。平均寿命の右肩下がり傾向が止まったことで、もうニュースではなくなったと判断されたわけだ。
 それに2020年以降にはより平均寿命に深刻な影響を及ぼす別の案件が浮上してきた。Covid-19だ。こちらのデータによれば、米国のCovid-19の死亡率は10万人あたり320人弱であり、絶望死のカテゴリーに当てはまる白人大卒未満の数値(120~130人)よりも圧倒的に高い。つまりオピオイドのツイートが増えたり減ったりした理由としては、別にトランプの躍進や「共感格差」が原因ではなく、メディアは単に目新しくインパクトの大きな事象に関心を移しただけだと考えることもできる、のではなかろうか。
 あるいは逆の視点で見ることも可能。オピオイド以外の「絶望死」をもたらすアルコール、自殺について、筆者が作った「マスコミツイート横断比較」で調べてみるのだ。するとalcoholのツイートは2012年ごろから徐々に増え、2018年にピークを迎えた後に徐々に低下している。最も多いのは2018-21年の4年間だ。一方、suicideはもっと前の2008年頃から既に上昇傾向にあり、2016-19年にピークを迎えている。トランプ政権の頃にピークとなっているのは確かだが、トランプ以前にメディアが「絶望死」に興味を持たなかった、とは言えない数字だ。

alcohol.jpg

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 以上、メディアがオピオイドの問題点に気づくのが遅かったのは否定できないが、共感格差のみが理由かどうかについてはもっと色々と調べてもいいような気がする。というわけで結論。このメディアツイート比較、なかなか面白いデータが見られるぞ。例えばwokeと入れた時の(どのメディアがツイートじているかも含めた)結果など、実に興味深いものがある。みんな色々と調べてみよう。
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