で、漫画ではこの怒りに任せてネイがケレルマンの胸甲騎兵に無謀な突撃を命じたことになっている。今のde Witのサイトには載っていないが、昔あったキャトル=ブラの戦いに関する説明を読むと、午後6時半頃にネイが「フランスの安全がかかっている」と言ってケレルマンに突撃を命じた話自体は事実のようだ。公文書館に残されているObservations sur la bataille de Waterlooの中でケレルマン自身がそう記しているそうで、そういう史料が存在することはCatalogue général des manuscrits des bibliothéques publiques de Franceの第719項(p143)を見ても間違いない。つまりケレルマンの言い分を信じるのなら、ネイが無茶な命令を出したのは史実だ。
また部下の尻込みについては、元ネタとなるのがLa campagne de 1815 aux Pays-Basに掲載されている、戦い後にケレルマンがネイに宛てて記した報告書(p255-256)だろう。英訳はこちらで見ることができるのだが、そこには「兵たちに考える時間を与えないため」ケレルマンが第8連隊の第1大隊の先頭へと駆け付けたことが書かれている。この記述を踏まえてか、de Witは「兵たちが直面しようとしている状況を完全に理解する機会を与えないため、突撃の開始を急いだ」としている。
ではなぜ「最初から全速」といった話が生まれてきたのか。もしかしたらその一因になっているかもしれないのが、Beckeの書いたNapoleon and Waterlooだ。Vol. Iで彼はケレルマンの戦闘後報告に「兵がサボるか、目の前に待つ危険の程度を把握することすらさせないようにするため、ものすごいスピードを利用した」という一文があると主張している(p202)。だが上に紹介した英訳によれば、ケレルマンの報告の内容は「兵たちに考える時間を与えないため、私はすぐにギュイトン将軍とともに、英=ハノーファー軍と対峙する第8[胸甲騎兵連隊]第1大隊の先頭に駆け付けた」となっている。
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