Murray契約延長

 NFLでは7月下旬からトレーニングキャンプが始まった。まだオフシーズンなのは間違いないが、8月に入ればプレシーズンゲームも始まるため、そろそろワクワク感が高まっている人もいるだろう。個人的にはプレシーズンが終わってからようやくエンジン始動という印象で見ているので現時点ではまだオフ真っ盛り、ではあるのだが、現地ではこんなニュースも出てくるくらいで、既にテンション上がっている人もいると思われる。
 まだオフの印象が強いのは、この時期に大型契約が出てくるケースがよくあるからだ。特にルーキー契約からの延長はこの時期がわりと多く、Mahomesが大型契約をしたのは7月上旬Allenは8月上旬だ。そして今年も大型契約が発生。2019年のドラフト全体1位指名選手であるKyler Murrayが、5年230.5ミリオンの契約延長でCardinalsと合意した
 保証額は160ミリオン、年平均は46.1ミリオンとなる。このオフに結ばれた各種契約と比べると、年平均ではRodgersに及ばず、保証額ではWatsonの新契約に届かない状態。ただどちらもルーキー契約を既に終えた後のベテランによる契約であることを考えるなら、Murrayとの単純比較にはあまり意味がない。むしろ上に紹介したMahomesとAllenの契約のどちらも上回っている点が注目なんだろう。相変わらずQBの契約は右肩上がりの流れが続いている。
 サラリーキャップの観点で見るのなら、時代による修正も含めたこちらのページの方が重要だとも言える。チームサラリー全体に占める年平均サラリーの比率で見ると、MurrayはRodgers(24.1%)、Allen(23.6%)、Mahomes(22.7%)に続く22.1%を占めており、歴史的に見ても凄い数字を叩き出したことになる。見ての通り、上位に入っているのは2020年以降のQB契約ばかりであり、足元でのQBサラリーインフレは絶対値だけでなく相対値でも起きているのが確認できる。
 OverTheCapのFitzgeraldは、あくまで第一報の時点だが、「双方にとってフェアなディール」だとの感想を述べている。ドラフト順位の高いQBの初延長契約という位置づけで見れば確かにそう見える。だが彼の実績と比べた場合はどうだろうか。MurrayのキャリアRANY/Aは+0.054と辛うじてリーグ平均を上回った状態。時系列で見れば時とともに上昇してはいるのだが、最も成績のよかった昨シーズンでも彼のANY/Aは6.60でリーグのトップ10に入っていない。
 それに対しRodgersのキャリアRANY/Aは+1.430、Mahomesは+1.858、Allenは+0.070だ。サラリーに占める比率だとMurrayを下回るWatson(+1.005)、Prescott(+0.909)、Carr(+0.272)、Stafford(+0.353)の誰と比べてもMurrayの数値は低い。これらのデータを見て分かるのは、ドラフト上位指名のルーキーの延長契約はプロ入り後の実績よりもドラフトの後光効果及び市場全体における右肩上がりのQB評価の流れに乗って決まる傾向が強い、という点だろう。要するに将来への期待値込みの数字なのだ。
 実際に3年経過時点でRANY/Aがリーグ平均並み(-0.2~+0.2)のQBたちは、その後どうなったのだろうか。2000年から2016年までのドラフト上位選手で、最初の3年間に少なくとも1000ドロップバック以上を記録したQBたちのうち、この範囲に入ってくる選手はJason Campbell(-0.162)、Matthew Stafford(-0.041)、Andy Dalton(-0.012)、Robert Griffin(+0.186)、Derek Carr(-0.125)、Marcus Mariota(+0.133)、そしてCarson Wentz(+0.156)の7人となる。ドラフトされたチームでなお先発として踏ん張っているのはCarrただ1人。Campbellは30歳で先発から外れ、Griffin、Dalton、Mariotaも今や先発ではない。Wentzはジャーニーマンと化し、かろうじてStaffordのみがトレード先で花開いた。
 はっきりいって魅力的なラインアップとは言えない面々が並んでいるのが、この「平凡ルーキー」たちだ。もしAllenがこの後、Billsでスターダムにのし上がれるのなら、2000年以降で初の事例となるのだが、それでも引き続き「例外」であることに変わりはない。確率的に言うのならMurrayとの多額の契約延長は、チームにとってはやはり大きなリスクと言わざるを得ないだろう。問題はそのリスクが、有能なQBを手に入れるために必要であるかどうか。個人的にはJacksonのように4年目の様子も見たいと思うが、Murrayがかなり前から契約の不満を口にしていたことを踏まえると、チームとしてはやむを得ないぎりぎりの選択だったのかもしれない。
 Fitzgeraldが書いたThoughts on Kyler Murray’s $230.5 Million Contract Extensionというエントリーでも、今のMurrayについて「確実な存在ではない」と指摘。高額契約によってCardinalsはロースター全体の質を維持するために今よりドラフトに頼る必要が高まり、Murrayの責任とは言えないとしてもWentzやGoffと同じ道筋を歩むのではないか、との予測を述べている。当然、思い浮かべるべきリスクだろう。
 そして当然、こうなると注目を集めるのは、上にも述べた通りいまだに延長を勝ち取っていないJacksonの契約だ。彼は普通にキャンプに出てきているが、彼のキャリアRANY/A(+0.554)はAllenやMurrayを大きく上回っており、本来なら彼らよりずっと大きな契約を手に入れてもおかしくない実績だ。2年目以降の成績が右肩下がりになっているあたりは懸念材料だが、それでもしばらく彼に賭けるつもりなら5年目オプションが始まるこのオフのうちに契約延長が必要になるはず。
 Ravensにとっては幸いなのだが、FitzgeraldによるとMurrayの契約延長がQBマーケットに与えた影響は極めて限定的、だそうだ。Murrayの契約はWatsonをほんの0.2%上回ったにすぎず、契約全体に占める保証額の比率もさして高くない。QB契約延長の下限がわずかしか上昇しなかったのであれば、次のJacksonとの契約でも微妙に増やした数字(例えば年平均46.2ミリオン)を提示することは可能。実績で見る限りJacksonはMurrayよりはるかに上であることを考えるなら、これはRavensにとってなかなかにありがたい展開と言える。

 それ以外でQB絡みの動きとして最近あったのは、RosenがBrownsと契約したという話。彼はBrownsのワークアウトを受けたうえで、同じくワークアウトに参加したMcCarronとの勝負に勝って契約にこぎつけたという。Brownsは先日、MayfieldをPanthersにトレードしたばかりであり、プレシーズンに備えBrissett以外の控えを用意しておきたかったのだろう。それにしても1巡で5人が指名されたこの年のドラフトQBたちもかなり明暗がはっきりと分かれてきた。
 他には地味な動きとしてPatriotsがHarryを7巡でBearsにトレードした。彼もまた1巡指名だが、同じく期待外れのまま放り出された格好だ。対価がほぼゼロに近いのを見るに、Patriots側は完全に彼をサンクコストと見ていたのだろう。実際問題、3年もプレイして600ヤードにも届かないWRに多額の対価を出すチームはいない。ドラフト時点での予想ではHarryはそれほどreachでもstealでもないと思われていたようだが、現実はご覧の通りであり、やはりドラフトはcrapshootなんだろう。
 それとは別にいかにもオフらしい動きと見られていたCommandersの粉飾疑惑が、安手のドラマみたいな展開を見せている。少し前に下院の委員会がCommandersのオーナーであるSnyderの証言を受けるという話が出ていたものの、それ以降になって事態が膠着している。どうやらSnyderがヨットに乗って国外逃亡中らしく、彼に対する召喚状を送れない状態が続いているんだそうだ。
 現地28日に証言が行われることで両者は合意しているらしいのだが、本当にこの日に証言ができるのかどうかはまだ分からない状態。そのためか、実はSnyderは証言などする気はなく、このまま開幕後も国外逃亡を続けて11月の選挙により下院のメンバーが変わるまで逃げ切るつもりではないか、との推測が出回っている。確かにこの問題を取り上げている下院では今度の選挙で共和党が勝つ可能性が高いと見られており、政治情勢が変われば彼の立場も変わるかもしれない。Commandersファンにとってはオーナーを退場させる絶好の機会がどうなるかが掛かっているわけで、傍から見ている分にはなかなか興味深い状態だ。

 あと余談だが、このデータはさすがに意味がないんじゃなかろうか。選手によっては3年間に16回しかやっていないプレイのデータを出しても、単に母数が少なすぎて当てにならないし効果もごく限定的、という結論しか出ないと思う。どうも最近のアナリティクスは他者と少しでも差別化することに力を入れすぎて、結果としてノイズをシグナルとして取り上げているように見えてならない。
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