ターチン インタビュー

 Peter Turchinがリモートでインタビューを受けている動画を紹介していた。インタビュアーは教育に携わってきた人物で、本の出版も予定しているらしい。といっても別に著名人というわけではないし、Youtubeのチャンネルもそんなに閲覧されているわけではないが、Turchinとの会話が面白かったのでちょっと言及しておこう。
 中でも興味深かったのが、インタビューの4本目。まず前半で、過去の政治体制は永年サイクルの中でやがては解体トレンドに巻き込まれたが、民主主義体制はどうなるのかという質問に、Turchinはそれを調べるには民主主義体制が存在している期間が短すぎると述べている。その際には周恩来の言葉なるものを引用している(本当に彼がそういうことを言ったのかどうかは知らんけど)。
 でももっと面白かったのは後半部分。まずTurchinは自分の考えが、しばしば「戦争は協力のために重要だ」と誤解されていると指摘。自分が言っているのは「競争が協力のために重要」という主張であり、競争は暴力的である必要はない。実際に現在の国際的な競争は市民に質のいい暮らしを与えようとするための競争になっているし、この手の経済競争や非暴力的競争は非常に重要だ、と述べている。そのうえで、次の問題として彼が指摘しているのが、グローバルな協力をいかに成立させるか、ヒトが生物として機能的に統合されるかどうかだ。その際に解決しなければならない問題が2つ。1つは戦争で、もう1つが「惑星の健康状態」、つまり環境問題だという。
 それに対してインタビュアーが投げた質問が「グローバルに協力しようとしても、それをもたらす我々の外にいる『奴ら』が不在ではないか」というもの。こちらでも指摘した「問題解決に必要なのは圧倒的な強さを持つ外敵かもしれない」という問題意識と同じだろう。気候変動やウイルスといった非人間的存在は、「共通の敵」として我々が手を組む相手になり得るのか。それは極めて難しいのではないか、自然の力よりも他の人々の方が、競争相手として認識しやすいのではないかというその見方には一理あると思う。
 Turchinもその指摘を認め、「我々はそのように進化してきた」と話したうえで、「しかし進化は運命ではない」と発言。よき大義のためにいかにその(人間同士の競争が協力をもたらすという)性質を手懐けるかが重要であり、また人間はグローバルに協力できるような機能を発展させることができると「道徳的に」期待している、と述べているのだ。道徳的な神なるものをデータで捕捉しようとしてきた人物が、自身の道徳的な期待に言及したという意味で、これはなかなか面白い発言だった。
 ここで押さえておくべきなのは、Turchinが「事実」に関する議論と「価値」に関する議論を分けて行っている部分だろう。もちろん学者である彼の議論はそのほとんどにおいて「事実」に焦点を当てており、その事実をデータなどで裏付けることに力を注いでいる。自身の価値観が出てきているのではないかと思える議論もないわけではないが、議論の仕方自体はやはりデータや事実に即して議論を進めようとしており、「道徳的期待」に基づくと言明することはほとんどない。
 そのTurchinが明白に自身の「道徳的な期待」を述べている点で、このインタビューは見る意味があったと思う。むしろその発言を引き出したインタビュアーの能力に感心すべきかもしれない。実際、彼が投げかけた質問、つまり「ヒトならざる存在を相手にヒトがグローバルなレベルで協力することが可能なのか」という問いは、今の時代では結構重要な意味を持ってくる可能性がある。ただし今のところ、気候変動やウイルスを相手にヒトが世界レベルで協力する可能性が高いかと言われると、正直あまりそういう感じはしない。
 むしろ個人的にはよくSFで見かける「機械(ロボットとかAIとか)が人類の共通の敵になる」という展開の方が、グローバルな協力に結び付く可能性が高そうに思える。例えばAlphaGoが人間と対戦した時、SNSで普段は中韓に対して厳しい発言をしている人々が韓国や中国の棋士を応援している場面があったのを思い出す。おそらくヒトにとって、気候やウイルスといった自我や意識を感じさせない存在は「奴ら」として認識できないんじゃないだろうか。宇宙人が攻めてくるのが難しいとなると、人類を協力させるために必要なのはスカイネット、ということになる。
 ……というのはもちろん冗談。多分近い将来にそうした技術を実現するのは無理だろう。真っ当に考えるならTurchinの言う通り「進化は運命ではない」のだから、自我や意識を感じさせない存在を相手に協力して戦うよう人間を行動させる仕組み作りこそが必要になる。Hoyerらが危機の深刻度分析に際し、「エリートや国家という主体の自律的行動」を主張していたのも、そうした「道徳的な期待」に基づく発想があったのだろう。
 果たしてヒトは進化のくびきを脱し、戦争やウイルスや気候変動といった「奴ら」を相手に全世界で手を組むことができるのだろうか。そういう、現実ではなく道徳に基づく期待は、本当に実現するのだろうか。正直分からない。過去の歴史を見る限り「無理だ」と言いたくなるが、一方でTurchinと同様に「道徳的な期待」を持ちたい気分もある。多分、希望的観測はせず、かといって諦めることもせず、粘り強く取り組む、というのが一番必要な態度なんだろう。
 なおTurchinに面白い質問を投げかけていたインタビュアーの(これから出版を予定している)本だが、これもなかなか興味深い。歴史について年数の桁を1つずつ減らしながら書いていくという手法を取っており、最初は宇宙が生まれた140億年前から30億年前まで、以下30億年前から3億年前まで、そして3000万年前、300万年前、30万年前、3万年前、3000年前、300年前、30年前までの期間を対象に歴史を説明し、最後に直近30年間を取り上げるという方法を取っている。
 実際問題、人間の時間認識を考えるとこうした歴史の説明方法はむしろ分かりやすいかもしれない。我々は直近の歴史ほど詳しく知っている一方、遡った歴史については大雑把なぼんやりとした内容しか知らない。であれば古い時代ほど大きなタイムスケールで説明し、時間を下るにつれて解像度を上げていく方がむしろ全体像の把握はしやすくなる可能性がある。もちろん、全10章のうち半分はホモ・サピエンスが姿を現さない「歴史」になってしまうが、それでもこちらの本よりは客観的に歴史を見ることができる可能性が高そうに思える(詳しく読んでないので断言はできないけど)。
 ちなみに現在公開されている文章の中には、Turchinインタビューの内容を挿入している部分もある。このインタビュアーは「不可知論/無神論」「世俗的」「実存的」「科学的/統計的」「客観的」「穏健」「教養」(それぞれの頭文字を合わせてAWESOMEと呼んでいる)な視点を重視しているそうで、おそらくそうした視点から見てTurchinのスタンスが気に入ったのだろう。今の時代、トライバリズムの虜囚と化している人が多いだけに、こうした事実に基づき穏健に議論する人に少しでも頑張ってもらいたいところだ。Youtubeチャンネルの視聴者数を見ると残念ながらほとんど関心を持たれていないようだけど。

 なおTurchinは最近このツイートに対してもリツイートしていた。そこで紹介されているAccording to Research, Here's What's Likely to Happen in The '20s. And It's Not Greatという記事は、文中にもある通りCliodynamicsを利用して今後の予想を立ててみた、という内容。書かれたのは2020年1月であり、まだCovid-19が大騒ぎになる前だ。当然、議事堂襲撃もウクライナ侵攻も起きていない。
 だが文中には低い可能性と言いながら「疫病」が指摘されており、より多くの暴動や反乱の発生についても書かれている。さらには「地政学的な再編が起き、世界が新たな同盟とブロックに分断される」という話も載っており、ほんの2年ちょっとの間にそれだけの予想が的中してしまっていることが分かる。さすがはCliodynamics、と言いたくなるところだがちょっと待て。疫病や暴動はともかく、地政学的な再編をCliodynamicsで予想できるのだろうか?
 少なくとも構造的人口動態理論では難しいと思う。あれはあくまで革命や内乱の原因を探った研究であり、国際紛争を対象にしてはいない。他にTurchinがHistorical Dynamicsで取り上げているものとしては例えばメタエトニーなどの概念があるが、あれはもっと長期にわたるアサビーヤの形成を説明する理論だと思う。記事中に論拠はCliodynamicsだと書かれているところのリンク先を見ても、「国家間戦争ではなく内戦」についての言及しかない。
 一応、前に紹介したポーランドの永年サイクルでは、攻撃戦争は統合トレンド時に、防衛戦争や内乱は解体トレンドに多いという解釈をしていたが、対外戦争という意味だとどちらの時代にも存在し得る、という結論になる。上記の記事が何を論拠に「新たな同盟とブロック」への分断を予想したのか、そのあたりは不明だ。
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