ウクライナでの戦争が続いている間に、他地域にも動揺が広がっている。直近で目立っているのはスリランカだろう。
経済危機が続く中で大統領が国外に脱出する事態となり、混迷が深まっている。政権交代は不可避っぽいが、一方で政治家の動向に不満を抱くデモ隊が大統領公邸に続いて首相府になだれ込むなど、なかなかの騒動ぶり。治安部隊とも衝突しているようで、これも社会政治的不安定性を示す出来事と言えそうだ。
その意味でスリランカの混迷は、自らの政策の失敗に加え、世界的な情勢変化の影響を受けていることも間違いない。コロナの大流行がなければ、足元の世界的インフレがなければ、まだここまで事態は悪化せずに済んでいたかもしれない。これまで親中国政権が存在していた
スリランカでの政変はインド洋地域の国際情勢にも影響を及ぼすと見られ、つまり今度はスリランカ情勢が世界的な情勢に影響を及ぼす流れも考えられる。
スリランカの混乱は
永年サイクルとは関係するのだろうか。可能性はありそうだ。
World Inequality Databaseによると、スリランカにおける所得上位1%のシェアは1980年当時の14.9%から2016年には20.6%へと上昇している。富の上位1%のシェアは20世紀末に26%ほどだったのが、現状は31%台だ。
ジニ係数を見ても1980年代の32.5から2015年には38.7まで上昇している。
もう一つ、改めて感じるのは、構造的人口動態理論(SDT)と国際情勢との関係をどう見るかという問題だ。SDTが内戦や革命を説明する理論として持ち出されているのは間違いないが、
対外戦争との関係を見ると必ずしも直接的な相関があるようには見えないという話は前にも指摘した。最近になって国際関係の緊張度合いが増し、それと相呼応するようにスリランカのような国で内紛が激化しているのには何か関係がありそうにも見えるものの、現状ではそこを上手く整理できていない。
スリランカの内紛には外部要因(コロナ、ウクライナ戦争、世界的インフレ)も影響しているのは間違いないだろう。でもこうした外部要因が相次いでいるのは、世界的に永年サイクルの危機局面が迫っているためなのか、それともたまたま国際紛争が同じタイミングで起きているだけにすぎないのか。このあたりはぜひSeshatのデータなりCrisis Databaseなりを使って分析してもらいたいところ。最近では
戦争と農業が社会の複雑さをもたらしたという話が
日本語記事でも紹介されていたが、今後は永年サイクルと国際紛争との関係についてもきちんと整理した研究を読んでみたい。
とまあ足元の国際情勢についてもTurchin的な視点で見れば色々と考えるヒントが得られそう、な気がする。そういえば最近では
あるセミナーに登壇した人物がTurchinの話を紹介する、ということがあったようだ。そこで紹介されている内容について細かく言うつもりはないが、一点だけ。Secular Cyclesを「世俗的サイクル」と翻訳するのはさすがに違うんじゃないかな。「永年サイクル」とは言わないが、せめて「長期サイクル」とするのが妥当だと思う。
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