アルベド

 架空世界絡みについて色々とアップしているこちらのYouTubeチャンネルがなかなか興味深い。今回はその中でもアルベドについて紹介しているこちらの動画に注目しよう。地球の温度がどのように決まっているかを知るうえで参考になる。
 動画の冒頭では惑星の気温を決める方程式が出てくる。惑星の気温(ケルビン)は、「恒星の光度」の4分の1乗を、「惑星と恒星の距離」の2分の1乗で割った数字がそれだ。ただしこの数式は実はデータとしては不十分。例えばこの数式を火星に当てはめるなら気温は233ケルビン(摂氏マイナス40度)、金星は339ケルビン(摂氏65度)になるはずだが、実際の火星は摂氏マイナス63度、金星は462度だ。数字が違っている理由は、温室効果とアルベドについて計算に入れていないためである。
 温室効果については色々なところで語られているし、温暖化ガスの影響もよく話題になっているので、どのようなものかは想像がつくだろう。一方、アルベドという言葉はあまり見かける機会は多くないが、中身はさして難しい概念ではない。要は恒星からの光がどのくらい反射されるかを示すもので、反射が多ければそれだけ惑星が受け取る熱エネルギーが減る。夏場に黒い服を着るとすぐ熱を吸収するのに対し、白い服だとその影響が少ないという現象が、分かりやすい一例だろう。
 アルベドは惑星表面を覆っているものによって異なってくる。こちらに載っているアルベドのサンプル表を見れば、アスファルトや大洋が低いアルベドである(熱の吸収が高い)のに対し、新雪や海氷などはかなり高く、光を反射するため熱の吸収が低いことが分かる。太陽系内の惑星で見ると金星が非常に高く、火星は低い。アルベドだけなら金星はむしろ気温が低く、火星は高くなりそうなのだが、温室効果も含めるとまた話が違っているわけだ。
 続いて動画ではこれらの影響を含めた惑星温度の計算をやってみせている。そのために計算用のサイトまで作ったあたり、なかなかマニアック。動画内では恒星の質量が太陽の0.75倍、惑星の位置が0.6天文単位、アルベドと温室効果が地球と同じにした場合、この惑星は摂氏26度(地球は15度)というかなり気温の高い惑星になるそうだ。亜寒帯が温帯に、温帯が熱帯になるくらいの影響はありそう。いや、もっとひどいかもしれない。そこで動画内ではアルベドを地球と同じ29%から40%まで引き上げ、摂氏14度まで気温を引き下げている。
 実際、この計算用サイトを使えば、自前で色々と設定を考えることはできる。上とは逆に熱帯が温帯に、温帯が亜寒帯になるような惑星を作るにはどうしたらいいか。気温を10度ほど下げれば、例えば東京では最寒月の平均気温がマイナスに突入して亜寒帯となるし、最寒月が18度を超えているため熱帯扱いとなっている石垣島は普通に温帯になる。
 気温を下げる手っ取り早い方法の1つは惑星の位置を遠ざけること。距離を1天文単位でなく1.07天文単位、つまり地球より7%ほと遠い位置に設定すれば、気温は摂氏5度まで下がる。ただしこの方法を使うと公転周期がより長くなるという影響がある。こちらのページでは軌道長半径から公転周期を計算することができ、それを使うと公転周期は1.1年、つまりおよそ400日強となる。地球よりも1年が長く、それぞれの季節も少しずつ長い世界ができる。
 別の方法でも同じ効果は出せる。恒星質量を太陽の0.955倍にする、アルベドを29%から38%にする、温室効果を0.6まで下げる、などなど。ただし、ここで少し考える必要が出てくる。気温がそこまで低下すれば、この惑星上を覆う氷や雪の面積は今の地球より広まる可能性が高い。そして上にも指摘した通り、氷はアルベドが高く、惑星の気温をさらに下げる効果がある。気温の低下が正のフィードバックを働かせ、想定以上の気温低下の要因になることも考える必要があるだろう。
 アルベドの細かい設定については、動画内でもさらに追求している。そのために利用できるのがアルベド計算用スプレッドシート。使うにはこのシートを保存(ファイル→コピーを作成)する必要があるが、後は色々な設定(緑色のセル)さえ入れればこの架空惑星のアルベドを計算してくれるようになっている。
 まずはSection Aで海と陸の割合、そして雲が上空を覆っている割合を決める。雲は陸上の氷雪と同じくらいアルベドが高いのだが、一方で雲がなければ降雨もないため、生物相を考えるなら一定の割合に達している必要はあるだろう。スプレッドシートには地球の値も載っているので、それにあわせた設定にしておくのが無難だと思われる。
 次にSection B。海のうち海氷が占める割合は手入力だ。気温の低い惑星ならこの比率は高めに設定しておいた方がいい。陸上については6つのカテゴリーに分けているが、ナーロッパ的な世界なら都市はほぼゼロで問題ないだろう。残りは架空世界設定で想定した気候区分などから推測するのがよさそう。合計値が100%になるよう注意が必要だ。雲の厚みについては、よほど特殊な世界でない限り手を加える必要はなさそうだ。最後にSection Cでそれぞれのカテゴリーのアルベド値がどうなるかも手入力ができる。ただしここも無理に変える必要はないと思う。
 例えば海の割合は地球と同じ71%、雲の割合を60%とし、気温の低下を想定して海氷は地球よりも多い30%まで増やす。赤道付近に陸地が集まっているという想定なら陸上の氷や雪はゼロ、都市もゼロで、それ以外の項目を同じ割合で増やす。するとトータルのアルベドは38.62%にまで上昇する。これを先ほどの気温計算サイトに入力すると摂氏4度にまで気温が下がる。計画していた「10度低い惑星」にするためには、例えば恒星の質量を0.5%増やせばOK。陸地は赤道付近にしかないが、そのあたりは温帯になるので農業開始や文明発展のための条件は整う。かくして架空歴史をスタートさせられるようになるわけだ。

 この動画にはアルベド以外にもスプレッドシートがいくつかある。1つはCelestial Architect。架空の恒星と惑星、衛星、そしてこちらでもアルベドの計算ができるようになっている。こちらでは黄色いセルに入力しながら計算を進めていく仕組みとなっており、例えば太陽(Star A)の質量を1.1倍にすると、1天文単位では近すぎるという警告が出てくる。ハビタブルゾーンを外れているからだ。
 さらに細かいのがPlanet Calculator。恒星、惑星、衛星のサイズなどから始まり、地軸の傾きやアルベド、大気圧などが記入可能となっている。またシートの中には実際の地球と、あとケプラー186fという太陽系外惑星のデータを記したものもある。
 このケプラー186fは太陽系外のハビタブルゾーン内で初めて発見された地球に近いサイズの惑星だそうだ。ただハビタブルゾーン内とはいえこの星が恒星から受け取っている光は地球の32%ほどしかないそうで、その意味ではベストな条件とは言い難い。それに大気の成分などは分かっていないため、この星の居住性がどのくらいあるかも不明のもよう。また地軸はほとんど傾いていないそうで、いよいよもって環境的には厳しそうに見える。もちろん実態はわからないが。
 それにしてもこうしたスプレッドシートを見るにつけ、凝った架空世界を設定するには理系知識の方がはるかに役立つというのはしみじみと感じる。Turchinらの論文にしても数式を使ったモデル化と統計処理がほぼ必須であり、歴史についても例えばこちらで紹介したように「社会の複雑さがどのくらいのスピードで進化するのか」を知りたければ、数字との格闘は避けられそうにない。
 もちろん、くり返しになるが、フィクション自体にそうした細かい知識や設定は必須ではない。楽しい暇つぶしのために存在する嘘八百こそがフィクションであり、だから中身の正確さなどは基本的にどうでもいいはず。むしろ変にリアルっぽく見せるとこんな騒ぎになったりすることもある。設定を追求する楽しみ方も認めるべきだが、基本は嘘八百なのだから緩くやった方がいいんだろう。

 最後に全然関係ないが、前にこちらで紹介したプレプリント、どうやら査読を通ったようだ。
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