中でもDonaldの契約は同じDTの中で2番目に高額な契約を結んでいるLeonard Williamsの年平均サラリーをいきなり10ミリオンも上回っており、QBでも彼を上回る選手は辛うじて10人ちょっとという、極めて例外的な契約となっている。もちろんDonaldはDTの中でも傑出した例外的な選手なので、彼がこうした契約を手に入れるのがおかしいとまでは言えない。だがその影響はかなり大きくなるかもしれない。
OverTheCapのFitzgeraldは
Aaron Donald Signs Record Breaking $95 Million Contract の中で、この契約がリーグの他チームに与える影響について言及している。30代のDTがこれだけの契約を得るのは、このオフに同じく30代後半でぶっちぎりの高額契約を結んだRodgersと同じく、他の選手たちに負けないだけの高額契約を欲する動機を与えるだろう、との指摘だ。どちらもこのオフに引退をちらつかせることで契約をゲットしたこともあり、来年のオフにはベテラン勢の中で引退をにおわせる選手が増えることも考えられるそうだ。
こちらのツイート では2019年から22年までの3年間で各ポジションの最高契約額がどう変わったかを一覧にしている。この期間中にCovid-19の影響によるサラリーキャップ削減があったにもかかわらず、QBは43%、DTも40%と最高額が大きく伸びている。実はそれ以外にもTE(50%)、CB(40%)、WR(36%)などが大幅上昇を見せており、重要と思われているポジションでトップクラスの選手がどんどん高価になっているのが分かる。逆に伸び悩んでいるのはEdge(19%)。パスに絡んでくるポジションの中では一番動きが鈍いのは、もしかしたらNFLの中でポジションの重要性についての評価が変化してきている兆しかもしれない。
こうしたスター選手との派手な契約は以前からRamsを特徴づけるものだった。ただこの方法はチームを強くするうえでは適切でないとの見方が中心。一部のスターに多額のキャップを投じるのは、以前Falconsもやっていたが、その結果として彼らはサラリーキャップ地獄に落ちていったわけだし、ドラフト権をポンポン放り出してしまうのは、ドラフトを中心としたチーム作りこそが王道という最近の考えに反している。以前
こちらでも書いた が、チーム作りにおいては「短期決戦型」より「長期想定型」の方が結果的に優勝にたどり着く確率は高い、と思われる。
例えば年平均サラリーが15ミリオン以上の選手の数。昨シーズンのプレイオフに出たチームをみるとRamsの7人は最多(Patriotsの0人が最少)で、平均(4.9人)や中央値(4人)から彼らがかけ離れていた様子が分かる。もっとすごいのはデッドマネーの割合で、キャップに占める比率は24.1%と、データを取り始めた2015シーズン以降でSuper Bowlに出たチームの中では最高値だ。1年前に優勝したBuccaneersは2.2%しかなかった。Eloのデータを見ても、Ramsのレギュラーシーズン中の成績はそれほど強くなかった。
にもかかわらず彼らが勝てたのはなぜか。1つには間違いなくMcVayの存在があるだろう。Lionsでは平均より少しいい程度のQBだったStaffordは、Ramsに移って一時はMVP候補になるほどの成績を収めた(DAKOTAは0.129でリーグ6位)。逆にMcVayの下を離れたGoffは惨憺たる成績(同0.039で25位)に終わったのを見ても、McVayがいかに重要な存在であるかが分かる。幸い、HCのサラリーはキャップと無関係なので、Ramsは決して彼を手放さないようにすべきだろう。
もう一つ、ツキも否定できない。特にプレイオフでは4試合中3試合がfavoriteという楽な相手であり、唯一最大の難関と見られていたBuccaneersも一方で
Ramsにとっては相性のいい相手との指摘 もあった。AFCからBillsあるいはChiefsが上がってくればおそらくRamsはunderdogになっていただろうし、この両チームが早い段階で潰し合ってくれたのがRamsに幸いしたのは否定できない。
ではRamsの優勝は単なる幸運だけであったと言っていいのだろうか。彼らの行動は統計的、確率的に見れば非合理で、たまたまスター選手が怪我で脱落せず、たまたま以前に引き当てた有能なHCが機能し、たまたまプレイオフで相手に恵まれたから成し遂げられただけなのか。いや、必ずしもそうとは言い切れない。彼らは、少なくとも2021シーズンについては、実は統計的、確率的に見て「合理的」と思われる策を取っていた、と解釈することも可能ではなかろうか。
スタート地点となるのは、FiveThirtyEightの記事でも指摘されていたデッドマネーだ。Goff関連で13.2%、Gurleyで4.5%のキャップを潰されていた彼らだが、この数値は別に珍しいものではなく、その前年もBrandin Cooksのデッドマネーなどで18%ほどのキャップが消えていた。スター選手に多額のサラリーを投入する方式なら当然こういう結果も起こり得るわけで、つまり彼らはキャップという観点で見ればむしろ弱者としてシーズンに臨んでいたことになる。
弱者が追求すべき戦略は何か。
以前にも書いた が、underdogはむしろ「リスキーなゲームプランを採用して確率の紛れを増やす」のが望ましい。正規分布で考えるならfavoriteはピークが右に、underdogは左に来るわけで、その状態で勝つ確率を増すためにはfavoriteはピークを高くすることに、underdogはピークを低くして左右のテールを延ばすことに力を注ぐのが合理的。要するに強者は本命、弱者は大穴で勝負するのが統計的、確率的に見て「正しい」戦略となる。
NFLのチーム作りという観点で見るなら、弱者であるRamsが強者の戦略である「ドラフト重視、スターに集中しないサラリー」という道筋をとっても優勝にたどり着ける可能性は高まらない。もちろん彼らが多額のデッドマネーという弱者に陥ったのは、スターに集中させたサラリーが原因となっているわけで、その意味では鶏と卵の関係でもあるのだが、それでもこうした状況が彼らの取るハイリスク・ハイリターンを正当化している面があるのは確かだ。
この戦略は勝利にたどり着ける可能性を高める一方、大敗の可能性も高める。だがチームにとっての目標がSuper Bowl勝利にあるのなら、あらゆるシーズンでそれを目指すべきだし、そのためにスター選手に投資を集中させる方が確率が上がると判断したなら、その道を追求するのは間違っていない。2021シーズンのRamsは、数年にわたって合理的とは言えない道を追求し続けた結果として合理的な道筋に戻ってきてしまったシーズンだった、と考えることもできるんじゃなかろうか。
ではこの方法は持続可能なのだろうか。
今シーズンのRamsのデッドマネーは6.7%しかなく 、その意味ではもう弱者ではない。むしろ同地区ならSeahawksの方がよほど弱者だろう。つまり本来なら強者の戦略に戻るべきタイミングだが、そんなに急に方向転換はできない。今年の彼らがドラフトで最初に指名できたのは3巡の補償ピックに入ってからであり、一方で「エリート」レベルの選手に支払っているサラリーは24.8%とリーグでも4番目に高い。favoriteなのに正規分布のピークを低くするのは、むしろ勝つ確率を下げる行為である。
もちろん幸運に恵まれればそれでも勝利に近づくのは可能だろう。だが統計的、確率的に見て合理的とは言い難い。Ramsの戦略は弱者になった時に効果を発揮する方法なのであり、持続的なものではなさそう。やはり強者になってDynastyを作ろうとする戦略に比べれば異端だと思える。
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