GameはBlue(米国)とRed(中国)の2チームに分かれて3ターンで実施した。番組中では両チームが行動を決める際の議論を流し、どのような視点や考えがその背景にあるかが見えるようにしている。この3ターンが現実でどのくらいの時間に相当するかは分からないが、驚いたことにGameではあっという間に核の使用に近づくところまで事態がエスカレートしてしまっていた。
1ターン目、中国の台湾侵攻は大陸に近い台湾領の島々に対する攻撃から始まり、台湾島への大規模な航空及びミサイル攻撃が続いた。同時に在日米軍基地とグアム及び北マリアナ諸島の米軍基地も攻撃された。これに対し米軍は中国の港湾にいる艦船に対する爆撃を実施し、また台湾上空ではフィリピンから飛来した米航空機と台湾爆撃を図る中国軍機との空戦が繰り広げられた。
審判役の出演者はこの時点での両軍は手詰まりだと指摘。中国は日本の基地を攻撃することで日本を戦争に引き込むという「戦略的な大ポカ」をやらかしたのに対し、米国はなお台湾を守るうえでいい位置を占めているという。一方で中国にはまだ侵攻に使える多くのアセットが残っており、十分に力が残されているという判断だ。
2ターン目。中国の港湾に対する米国の攻撃に対し、中国はさらにアグレッシブな反応を示した。ステルス爆撃機を発進させてパールハーバーを攻撃。ヒッカム飛行場(Blueチームの空軍と司令部がある場所)に巡航ミサイルと極超音速兵器を叩きこんだのだ。まさかのリメンバーパールハーバーであり、米国本土に対する空襲の再現となっている。一方、米国は侵攻艦隊の防空を担う中国側の大型艦船(空母?)の破壊を優先し、台湾海峡に潜水艦を集めた。
この時点では中国側が台湾領土のコントロールを得るという目的に向けてより進展を見せているというのが審判役の指摘。彼らの前にはまだ長く険しい歩みが残されているものの、中国軍は実際に上陸を成し遂げており、目的達成に向けて進んでいるとの判断だ。一方、双方ともカギとなるミサイルや弾薬については使い尽くしつつあり、戦いの性格がこれから変わるのではないかとしている。
そして最後の3ターン目。中国はさらにアグレッシブさを増し、アラスカ、カリフォルニア(サンディエゴ)と、再度ハワイに対する攻撃を試みた。加えて中国は核兵器のテスト(Nuclear test)を送り込んだそうで、ちょっと意味が分かりにくいがどうも太平洋上で核兵器を試験的に爆発させたっぽい。米国に核のオプションを本気で想定させるのが狙いだそうで、いよいよ瀬戸際戦略感が強まっている。一方、台湾へは中国軍の増援が継続的に送り込まれているが、その数はまだ少なく、戦闘も激しい。米軍はハワイやグアムだけでなく日本やオーストラリアからも艦船を送り、台湾軍の支援を試みている。
審判役は事態が実に急激に変化している点を指摘。特に交戦中の核兵器のテストについては第二次大戦以来となる出来事で、「ここから物事がどちらに動くかは分からない」と話している。米国本土に対する複数の攻撃も同様に進んでいるわけで、司会による「最善のシナリオだと台湾での陸上戦、最悪のシナリオなら全面核戦争」ではないかとの質問にも「その通り」と答えている。中国にはICBMの他にグアムなど西太平洋を射程に収める兵器もあり、それらに核を積み込むことも可能だから、だそうだ。
中国を抑止するためには台湾を含めた西太平洋での抵抗力を増す必要があるとも書かれており、訓練された戦力や兵器の増加、NATOに相当するような相互防衛のための組織をインド=太平洋地域に構築することなども考えねばならないとされている。そしてもう一つ、台湾に関する米国の
「戦略的曖昧さ」を見直すべきだとの指摘もある。この意見は番組内でも出ていた。
問題は中国の行動が、ロシアと同じくらい予測不能で信じられなくなっている、という恐怖感が西側にある点だろう。権威主義国家の問題点だが、戦争をしないのが双方の利益にとってプラスだと分かっていても、少ない成功のチャンス(番組中でも斬首作戦で短期間にケリをつける考えが示されていた)に賭けて指導者がギャンブルに出るリスクを抑えるのは難しい政治体制である。ロシアや中国にとって不利でもプーチンや習近平個人にとって有利なら、彼らがそうした行動に出る可能性が残ってしまうからだ。
相手の行動が読めないから万が一に備える。だがそのための対策(軍備や兵力の配置)は逆に権威主義国家側の疑心暗鬼も招き、彼らが暴発する可能性をむしろ高める。そんな負のスパイラルが起きない保証はないことが、今回のウクライナ侵攻で嫌と言うほど立証されてしまった。実際、
本当に台湾侵攻をすれば中国側も多大な損害を出すとの予想はあるし、おそらく実際にその通りなのだろう。でもだからと言って中国は絶対に侵攻しないと言える人間は、今の世の中には存在しないのではないか。
基本的に権威主義国家は「内しか見ていない」政治体制なんだと思う。彼らにとって
「対外関係は国内の権力争いで勝つための道具」でしかない。ロシアや中国という国家全体にとって不利益でしかなくても、国内で勝者となれる目があるのなら冒険的な政策にも平気で乗り出す。民主主義国同士は戦争しない、という主張がどこまで正確かは分からないが、権威主義的(
収奪的、アクセス制限型)国家が戦争をしやすい面はあるのかもしれない。
なおGameではなく本当の殺人行為をしているロシアだが、聞こえてくるのは相変わらず残念な内容が多い。ISWの
5月31日の発表では、モスクワがセベロドネツク奪取にこだわっている間にヘルソンのロシア軍が脆弱になっており、ウクライナがそこで反抗に出たと指摘している。プーチンの間違った優先順位につけこんでいるわけで、一方ロシア国内では軍事ブロガーがさらに不満を増し、また動員センターに対する襲撃も続いているという。
6月1日の発表を見ると、ウクライナの反撃に気づいたロシアが慌てて連絡線の確保に動いていると書かれている。ドンバス地域への過剰な戦力集中はロシアの軍事ブロガーからも批判されているそうで、またルハンスクではウクライナのパルチザンの抵抗が強まっているそうだ。そもそも兵力を集結しているドンバスにしても
「1ヶ月近くかけて江東区1つ分」しか取れていないようでは、とても褒められたものではない。
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