補償ドラフト動向

 OverTheCapで2023年の補償ドラフト情報がアップデートされていた。例年はドラフトが終わると1週間もすればこの情報は更新されていたらしいが、今年は随分と遅れた対応になっている。いくつか補償ドラフトに影響を及ぼす可能性のある選手の契約を見定める必要があったため、というのが筆者であるNick Korteの説明。実際、今年はそれも含めて色々と例外的な事態が起きている年らしい。
 まとめを遅らせることになったのは、珍しいUFAテンダーを受けた2人の選手の影響だ。ChiefsのMelvin IngramとRavensのJustin Houstonがそれで、テンダーを受けた選手は前年より1割増しのサラリーで今いるチームと契約するか、もしくは7月22日までの期限付きで他チームとの契約を模索することになる。実際、IngramはChiefsではなくDolphinsと契約し、それによって補償ドラフトの対象に入ってきた。
 興味深いのは、IngramはChiefsのテンダーで4.4ミリオンを提示されたと報じられていたのに、そちらではなくDolphinsの4ミリオンを選んだかのように見えた点だ。これについては後に出た記事で、Chiefsの提示は本当は1.8ミリオンに過ぎなかったと指摘されている。他にもフロリダは税率が低いとか、Dolphinsの方が彼の望むディフェンス(3-4)に近かったとの話もあるようだが、基本的には高いサラリーを出すところへ移動したと見ていいんだろう。
 Ingramの契約により、彼の補償ドラフトへ及ぼす影響は6巡か7巡相当になることが分かった。実際には彼の2022シーズンのスナップカウント次第でどちらになるかが決まるそうで、Korteはおよそ50%以上のスナップカウントを記録すれば6巡になると想定している(実際、エントリーの右側にある補償ドラフトの表では6巡の一番最後にIngramの名がある)。Chiefsは彼以外にReedの分も補償ドラフトとして入手できる見通しになっているのだが、Reedは7巡相当のため、Ingramの出場度合いが増えることは彼らにとって結構重要な意味を持ちそうだ。
 もう1人の対象者であるHoustonについては、まだどこかのチームと契約したという話は出ていない。彼の場合、Ravensから提示されているサラリーは1.2ミリオン弱と報道されている。これもまた間違っているかもしれないが、現時点でOTCが出しているCompensatory Formulaを見る限り、彼が7月22日までによほど大きな額で他チームと契約をしない限り、補償ドラフト対象としては考えなくてもよさそうに思える。
 にもかかわらずKorteがこの案件に注目しているのは、彼がRavensの選手だからだ。Ravensと言えば補償ドラフトの達人であったNewsomeの時代から毎年常に補償ドラフト権をゲットしてきたチームである。少なくとも直前の12ドラフトでは必ず補償ドラフト権を仕入れていたのだが、今年の彼らはFAで補償ドラフト対象となる選手2人を失った一方で2人を手に入れており、双方が相殺されるためこのままだと2023年に補償ドラフト権を手に入れることはできない。記録が途切れるかどうかの瀬戸際になっているため、可能性が薄くてもHoustonが他チームと高額契約を結ぶかどうかが話題になっている。
 なお補償ドラフト権をゲットできないとはいえ、このオフのRavensのFA契約がそんなに拙かったとも思えない。彼らが失った2選手はいずれも7巡相当の契約であったのに対し、新たに手に入れた2選手は4巡と6巡相当だ。その点だけ見るのなら、非常に効率よくFAでの補強を成し遂げたと解釈することお可能。まあ個人的には数年前のBills、あるいは昨年のPatriotsのように、どうせ補償ドラフトを入手できないのならFAで失うよりもずっと多くの選手を手に入れる方が、より効率的だとは思うが。
 Ravensの連続記録同様に珍しいのが、現時点で29番目の補償ドラフトを手に入れるのではないかと見られているSaints。個別の選手名ではなくNet Value、つまりRavensとは逆に失ったFAに比べて手に入れたFAの契約額が低すぎ、その差が大きい時に認められる補償ドラフトだ。Saintsが失った2選手はいずれも4巡相当の契約を得ている一方、彼らが手に入れた2選手は6巡と7巡相当であり、そのため損失の方がかなり大きいと見なされて補償ドラフトをゲットできた。こうした現象が起きるのは2013年以来だ。
 といっても補償ドラフトという観点で見ればSaintsはやはり損をしている。手に入れた2選手のうち一方を我慢していれば、7巡ではなく4巡を手に入れられたはずだ。いや、今でもなお彼らが幸運で、Daltonがほとんどプレイしなければ(バックアップQBなのでその可能性はある)、彼が補償ドラフトの対象外になる可能性はあるとKorteは見ている。どうせならそうなった方がチームとしては有利なんだろうが、Loomisはそういうことをろくに考えもしないGMなのでコーチがDaltonを使い倒すのを認める可能性もある。
 さらにもう一つの珍しい事態は、現時点でこのSaintsも含めた29人分の枠しか決まっていないことだ。補償ドラフトは(フロントの人材に関連するものを除き)全部で32の枠が与えられることになっており、もし要件を満たす数がそれ未満にとどまった場合は、残る枠はドラフトの指名順に与えられる。2022年の指名順を適用するなら、30番目がJaguars、31番目がLions、そして32番目は同じ勝率のチーム3つが順番に選ぶことになるため、この場合はJetsがMr. Irrelevantを指名することになる。もちろん来年の指名順はシーズンが終わらないと決まらないのだが、こうした2012年以来の珍しい事態も起きる可能性が十分にありそうだという。
 最後にKorteは「もったいないFA獲得」の事例を4つ挙げている。上に紹介したSaintsはその典型例で、WinstonとHill以外のQBとしてDaltonまで取りに行ったせいで4巡のはずの補償ドラフト権が7巡まで低下している。同地区のFalconsももったいない事例の1つで、4巡相当の選手を6巡相当のFA獲得によって相殺してしまっている。7巡相当で手に入れたCarterを我慢していればおそらく4巡が残っていたはずだ。
 Texansは4巡相当の選手が出ていった一方で7巡の選手を2人も手に入れており、結果として補償ドラフトは手に入れられなくなっている。Bearsも似たようなもので、3巡と5巡相当の選手が出ていった分を、6巡相当1人と7巡相当2人で相殺してしまっている。最初から失う選手よりもはるかに多い選手を手に入れる(今年だとDolphinsやJaguars)方向に走るのなら問題ないが、微妙なところで補償ドラフト権を失うのは確かにもったいない気がする。
 この数年、NFLでは補償ドラフトをたくさん手に入れる流れが強まっていたのだが、足元はどうもその流れが中断したように思われる。補償ドラフトの数だけでなく指名順もそうで、2022年の補償ドラフトは3~4巡で15人もいたのに、2023年は8人とほぼ半減だ。これが単に一時的な現象なのか、それともNFLのチームが補償ドラフトへの関心を失いつつあるのか、そのあたりは分からない。もしかしたらドラフト権をないがしろにしまくっていたRamsが優勝を成し遂げたことで、ドラフトを軽視する流れがまた生まれてきているのかもしれない。
 といってもこの手のものは需要と供給の関係だ。ドラフトを軽視するチームが多いほど、ドラフトに力を入れるチームにとっては有利な環境になる。FAについても同じ。リーグ全体の流れを見て、その中で逆張りをしていくのが一番賢い手かもしれない。

 なおこの期に及んでもGaroppoloとMayfieldの行方は決まっていない。こちらの記事では両名の現状について簡単にまとめているが、まず49ersは明確にLanceを先発にするつもりだとの見方を示している。Sudfeldと2ミリオンの全額保証契約を結んだのが理由であり、単なる3番手QBにこの契約はあり得ないとの理屈だ。従って49ersはGaroppoloを何とかトレードしようとしているが、24.2ミリオンのベースサラリー契約が残っている選手をこのタイミングで迎え入れようとするチームはなかなか見当たらない、のだそうだ。
 Mayfieldも厄介だ。5年目オプションをチームがピックしているため、今シーズンの彼は19ミリオン弱のサラリーが全額保証されている。この金額でリーグ平均並みかそれ以下のQBをこのタイミングで積極的に取りに行くチームはあまりない。そもそもそれだけのキャップを余らせているチームはほとんどないし、余らせているチームの中でもPanthersはDarnoldにほぼ同額の全額保証をしており、並レベルのQBにさらに注ぎ込む余裕はないだろう。BrownsがMayfieldのサラリーを一部穴埋めすれば引き取ってもらえるかもしれないが、その交渉は既にドラフト時に行なわれて決裂したそうだ。
 というわけでFootball Outsidersにはこの夏にもBrownsがMayfieldをリリースするのではないかとの記事が載っている。実際問題、この時点でトレードできていない以上、今年中に対応するならカット以外に手はないと思う。シーズン前に先発QBが相次いで大きな怪我でもしない限りお呼びがかかりそうにはないし、その場合でも最初に呼ばれるのはGaroppoloの方だろう。正直、Brownsは売り時を失ったんじゃないか。いっそ来年の契約切れまで彼を手元に残し、2024年の補償ドラフトを狙いに行く方がマシかもしれない。
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