結局、
こちらのツイートに邦訳がまとめられているGaleevの分析、つまり「5月9日に大規模な動員を宣言する確率は20%程度」という予想が8割当たったわけだ。Galeevによれば大量動員が宣言されてもロシアの基地や訓練施設では「やる気のない&無能な指導者のもとに、やる気のない新兵が大量に押し寄せる」だけで、実際の戦力向上には役立たない。いやそれどころか、1917年にレーニンが「無学だが武装した田舎者」を使って起こしたのと同じような革命騒ぎになりかねない、というのが彼の見方だ。その他にもロシア人には主体性がないからロシアは解体すべきなど、相変わらず過激な発言が多い。
それよりは穏当に見えるのが、BBCに
英の国防専門家が載せた寄稿。プーチンの前にはもはや様々な種類の敗北しかないという指摘で、これまでの経緯を説明しつつ、この戦争に「ロシアが有意義な形で勝つことはできない」との見方を示している。ウクライナが今の姿勢のままであれば「プーチンはかたくなに突き進むしか」なく、彼個人は「もう後戻りできない」状態にあるわけで、要するにチェックメイトの状態なんだろう。
この寄稿の中では、キーウ政府を電撃的に支配下におく「プランA」、キーウを含めた各都市を攻略しようとした「プランB」が失敗した後で、東部ドンバスに焦点を当てた「プランC」に移行した経緯を説明している。指揮系統の質が低く、4つの戦線に部隊が分散され、全体を束ねる司令官が不在であり、ウクライナ軍が高い士気を保って「動的防衛力」を発揮したことが、第一局面におけるロシア軍の失敗につながったという。
だがそれに続く第二局面も、これまでのところ冴えない状況が続いているのはこれまでも紹介してきた通りだ。このドンバスの戦いについてまとめているのが、Kyiv Independentに掲載されている
Russia’s offensive in Donbas bogs downという記事。プランBまでがうまく行かなかったロシア軍はウクライナ東部に76~87個のBTGを集めた。兵力的にはおよそ7万~8万人といったところだ(この時点で最初に投入した戦力から大幅に減っている)。一方、ウクライナが集めた戦力はこの記事によると4万4000人。ロシアの方が数は多いが、攻撃側として十分かと言われると微妙な数字である。
特にロシアが力を入れていたのはイジューム付近から南方への突破策であり、ここには25BTGが投入されていた。だがその前進距離は20~30キロほどにとどまっている。南方からの進撃もほとんど進むことができず、5月上旬には早くもロシアの前進は止まっていた。ロシア側には十分な予備も揃っていないようで、この記事が書かれた時点(現地5月7日)で既にドンバスにおけるロシア側の先行きはかなり不透明になっていたと思われる。
その翌日の戦況についてまとめたISWの報告も論調は同じで、ロシアはあらゆる攻撃軸で何ら目立った進展を見せていないとしている。イジューム方面のロシア軍は再進撃のための再編、補給などに集中しているそうだし、ドネツクやルハンスク方面でも、あるいはマリウポリのアゾフスタル製鉄所への襲撃も継続中だが、明確な成果が上がっているとは書いていない。さらに南部でも改めて攻勢に出るつもりらしいが、ISWは「成功するとは考えにくい」と冷淡に切って捨てている。
彼らの
7日時点の報告では、ハルキウ方面で行われたウクライナの反撃について長々と説明されている。ロシア軍はいくつもの橋を破壊しながら退却したそうで、そのためしばらくこの方面で彼らが再び攻勢に出る可能性は少ないと予想されている。ロシア軍はハルキウ方面に予備戦力を投入してこちらの戦線を安定させる代わりにドンバス方面への増援を当面諦めるかどうかの選択を問われていたのだが、8日の報告でロシアの戦力がハルキウ北方に集められつつあると指摘されているので、相変わらず多方面でのバラバラな戦闘継続を考えている可能性もある。
結局のところ、
「タイトルがデッドボール」と言われているものの、そのタイトル通りロシアは核兵器を除けば「小物」だった、のかもしれない。少なくともここまでのところ、素人目の判断にすぎないが、彼らの「大物」らしいところは一向に見かけた記憶がない。
この状況からロシアが勝つ手はあるのだろうか。現状だとウクライナの防衛線を突破できるような実力はないし、かといって漫然と攻撃を続けていても損害が増えるだけだ。損害穴埋めのために動員をかけると国内が不安定化する恐れがあり、かといって今のまま戦力をすり減らしていればいずれウクライナ領内に展開するロシア軍はいなくなってしまう。そんな状況なのに
ロシア軍はブチャで民間人虐殺を行なった部隊を激戦地に投入して壊滅させたとの話もあり、そもそも勝とうと思っているのかどうかさえ疑わしい状態となっている。
では長期戦ではどうだろうか。一応、
「軍事社会主義に移行」するという提案もあるそうだ。戦時経済体制を作り上げ、目先は勝てなくても長い目では戦えるようにする、という理屈のようだが、実際にはツイートでも指摘されているように単なる「北朝鮮化」しか意味していないだろう。何より現状、
西側諸国による経済制裁が引き続き強化されている中で、長期戦への移行は
経済への追加ダメージを通じた「じり貧」への道でもある。正直、そこまでして「勝利」を手に入れたとして、それに何の価値があるのだろうか。
もう少しまともな勝利を期待するための方法として私に思いつくのは、2024年末までとにかく負けを認めずに戦い続ける手くらいだ。その時期になれば、もしかしたら米国でトランプがまた大統領に当選するかもしれない。この場合、そうでなくても
中絶問題でまたもや分断しかけている米国が、改めて社会政治的不安定性に陥る可能性がある。彼らが「ロシアどころじゃない」と考えるようになれば、そこから西側の結束を分断することができるかもしれないし、ウクライナへの支援が減ってロシア軍が優勢になるかもしれないし、経済制裁の抜け穴も大きくなるかもしれない。
「かもしれない」ばかりだが、そこまで幸運が重なれば七年戦争末期にロシアの女帝エリザベータが死んだときのフリードリヒ大王のような立場になれるかもしれない。もちろん第二次大戦末期にルーズベルト大統領が死んだ際にぬか喜びしたヒトラーのようになる可能性もあるけど。
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