引き続き1794年春のイタリア戦役はお休みし、NFLの2022年ドラフトを取り上げよう。現地28日に行われた1巡指名では、昨年5人も指名されたQBがたった1人しか指名されなかった。RBはゼロで、FBも含めたこれらのポジションの選手が1巡で1人以下しか指名されなかったのは
1950年以降でたった4回しかなかったという。いやまあ最近の情勢を踏まえるならRBが1人も選ばれないのは不思議ではないし、最近上位指名されたRBの不振(例えば
Barkley)を見れば彼らが選ばれないのは謎でも何でもないのだが、QBはいささか予想外。
もちろん
今年のQB候補の評価は正直言ってそれほど高くない。昨シーズンのように初日から続々と指名されるようなメンツでなかったのは確かだろう。だが、
それほど酷いメンツであったかというと、そこまでではないとの指摘もある。特にトップクラスの評価は2004~2021年の平均と比べても低いが、4~5番手あたりのQBを見るとむしろ平均より高いことが、記事中の最初のグラフを見ても分かる。2番目のグラフを見れば、トップ3やトップ5の評価は2012年や18年、21年よりは低いものの、例えば2015年や17年に比べれば明確に高いグレードを付けられている。
トップ2の1人と言われているMalik Willisが2日目になっても残っているというのは、ドラフト前予想では14%しか起きないと思われていた事象だ。実際、
ESPNが事前に出していた予想では、Willisのみならず3人目のQBまでが1巡で指名されると見ていたし、最近のNFLにおけるポジション評価を考えるならQBが他のポジションより高めに指名されるのはむしろ当然と言える。
この分布図で見るべきなのは、各ポジションが4つの象限のうちどの位置にいるかだ。まず右下だが、これらのポジションはドラフトで上位指名する金銭的メリットが大きい一方、なかなかFAでは手に入りにくいポジションとなる。最も右下にいるQBは当然だが、それに次いでドラフト上位指名のメリットが大きいのはWRだ。残るEdge、LT、IDLも上位指名によるコスト的なメリットは明白だ。
左下は優秀な選手があまりFAで出てこないものの、ドラフトによる金銭的メリットも限定的なポジション。このうちRBは正直言ってOLを指名した方がメリットは大きいし、LBについてはそれ以降の選手との格差がよほど大きくない限りやはり1巡指名の効果は薄い。右上にはCBがおり、彼らはドラフト上位指名のメリットが大きい一方、比較的市場に出てきやすいポジションとなる。RBやLBよりは優先して指名する意味はあるが、右下のポジションほどではない。
そして左上は上位指名のメリットが乏しい一方、FAで優秀な選手が出回りやすいポジションとなる。このS、TE、OG、RT、Cといったポジションは1巡指名する意味が最も乏しいポジションだろう。下には昨年にFalconsがPittsとChaseを指名した場合のコストが載っているが、Chaseを指名して代わりにFAでTEを手に入れていた場合にかかる費用は20.7ミリオンとなっていたそうだ。だが実際には彼らはPittsを指名し、トータルのコストは26.2ミリオンという計算になっている。それだけ彼らのキャップに余計な負担がかかっていたわけだ。FAのデータを2017年からではなく直近3年に絞ると少しは数字に違いが出てくるものの、QBについては圧倒的にドラフト上位指名のメリットが大きいことに変わりはない。
にもかかわらず今年のドラフト上位でQB指名が少なかった理由の一つは、昨年の5人指名などもあってQBが買い手市場になっていた点があるのだろう。何しろMayfieldやGaroppoloといったトレード候補たちの行き先が一向に決まらないままドラフトまで到達してしまったくらい。もちろんPicket指名に踏み切ったSteelers以外にもSaintsやLionsなど上位指名の可能性を持つチームはあったのだが、今年のQBたちの事前評価を踏まえてなお1巡で取りに行くほどの魅力はなかったと考えられる。今年のQB候補たちにとっては、リーグ全体の需給が最悪のタイミングだったというしかないだろう。
それに、
代わりに選ばれた選手たちのポジションを見ると、OverTheCapの指摘と比べても辻褄の合った指名が目立つのは間違いない。32人のうちWRは6人、Edge(DE)は5人、OTも5人で、IDLは2人と半数以上を占めている。これにCB4人とQB1人を加えれば、実に3分の2超がドラフト上位指名が望ましいとされるポジションになっている。ドラフトのBig Boardなるものはポジションも含めて考えなければ意味はないとの見解が特にアナリティクス系の人々からよく指摘されているのだが、実際に各チームもその流れに従って指名した年のように見える。
その中で例外となっているのがSを指名したRavens(14位)とBengals、Vikings、Cを指名したRavens(25位)、G指名のTexansとChargers、Patriots、LB指名のPackers、Jaguars(全体27位)あたりだ。過去にドラフトでいい選手を指名する傾向の強いRavens、Patriots、Packersが入っているのはどう解釈すればいいのやら。特にPatriotsのStrange指名は実に奇妙で
ほとんど誰も予想できていなかったようだ。現時点ではおそらく最大のリーチ扱いだろう。
どうもPatriotsは1巡で堅実な指名と素っ頓狂な指名を半々くらいの確率で行っているような印象がある。昨年はMac Jonesという誰が見てもそうだろうと思う指名だったが、その分の反動が今年は出てきたのだろうか。Gを一巡指名するのは(その選手をTにコンバートするつもりならともかく)それだけで問題視されるうえに、Strangeは
次のPatriotsの指名順である54位でも残っていた可能性のある選手と言われている。まあBelichickがこちらの予想を外しに来るのはいつものことではあるが。
一方、PatriotsがChiefsを相手に行なったドラフト権トレードは、彼らにとってかなりの
「儲け」になったようだ。Belichickのトレードのうまさについては今年もしっかりその能力が発揮されたと言っていいだろう。ただFitzgeraldによるとこのトレードよりも成果の大きかったトレードもある。1つは
Saints相手に行なったCommandersの「ホームラン」トレード、そしてもう1つが
TexansのEagles相手のトレードダウンだ。たった2つ指名順を上げるために追加で3つのピックを差し出すのは大盤振る舞いもいいところ。Rosemanは超有能なGMだとは思うが、個別の選手に対する思い入れが時々行き過ぎる印象はある。
もちろんドラフトの結果がどうなるかは今から4年ほど待たないと結論は出せない。一方でNFLでは
かなり短期間で選手が入れ替わるという話も指摘されている。1年後に同じチームに戻ってくる選手の割合は平均して56%しかないし、2年後になるとその数値は35%まで低下する。これはあくまで平均であり、極端なチームだと1年で残るのは35%弱、2年で17%ほどまで下がるわけで、カレッジのチームより目まぐるしいと言いたくなるほどだ。いなくなる選手のうちサラリーが理由で去る選手はほんの3%ほどしかなく、チームが不要と判断し、安い値段で他チームと契約を結び直す事例が16%、そもそもリーグ内で行き先がなくなってしまうのが24%であり、NFLの激しい生き残り競争が窺える数字となっている。
さすがに1巡指名選手が1~2年で消える例はそう多くはないが、指名順位が下になると秋のシーズン開幕まで生き残れない選手もいる。現時点での一喜一憂は、要するに単なる始まりにすぎない。いつものことだが、この時点で勝ち負けやら評価やらを下すのは娯楽として楽しむ以上の意味はないと考えておいた方がいいだろう。
ほとんどQBが話題にならなかったドラフトよりも、ベテランQBたちの動向の方が興味深いとも言える。まずは
Daniel Jonesの5年目オプション行使を見送るという報道。この3年間の彼のRANY/A(-0.94)を考えるなら当然の判断ではあるが、一方でGiantsが今回のドラフトでQBに走らなかったのは少々意外であった。来年を待つつもりで今年はJonesに最後のチャンスを与えるのか、それとももしかして2巡以降で誰か指名するのだろうか。
逆に
CardinalsはMurrayの5年目オプションを行使した。これまた当然の判断だろう。キャリアのRANY/Aが+0.05しかない彼との大型契約延長は、個人的にはあまりお勧めしたくないし、するにしても現時点ではまずオプションを行使するのは当然。彼らと同期で1巡指名されたHaskinsは残念ながら既に亡くなっており、それも含めドラフトから3年で随分と明暗が分かれてしまった。
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