粉飾裏帳簿?

 今回もまた1794年イタリア戦役はお休み。

 NFLではフィールド外での問題がまた1つ発覚した。それも今回は個人的にかなりヤバイ感のある話だ。Commandersが過去に「金融法」に違反していた可能性について、議会が連邦取引員会に伝えたという(邦訳はこちら)。それによると彼らは2000人のシーズンチケット保有者から預かった(つまりチケット契約終了時には返却すべき)500万ドルを懐に入れ、またリーグと共有すべき収入を隠していたのかもしれないそうだ。
 NFLではチケット収入をリーグ全体で共有し、40%はビジターチームの基金に預けられる。Commandersは収入を過少に見せることで、リーグと共有せずに自分たちの手元に収入の一部を残していたわけだ。彼らはそのために帳簿を2種類用意し、一方の収入を過少に載せた帳簿をリーグに提出した一方で、裏帳簿の方には正しい金額を記録していたそうだ。この件はオーナーのSnyderも把握していたそうで、この二重帳簿づくりについてフロントオフィスは「ジュース」と呼んでいたという。要するに粉飾である。
 ある議員はこの行為について「NFLのチームというより映画ゴッドファーザーに出てくる組織について説明しているかのようだった」とESPNに話している。この件について暴露した元球団職員は、他にも顧客を欺いて高額なチケットを売りつけるといった行為についても話しているそうだ。もちろんチーム側はこうした不正は行っていないとの否定コメントを出し、調査には全面協力すると述べている。
 SBNationに載っているCongress sends letter to FTC detailing allegations of financial improprieties by Dan Snyderという記事では、もし不正があった場合、一連の行為の中で最も問題になるのはリーグや他のオーナーを騙していた点になると指摘している。これまでオーナーの行為が問題になった例としては、Panthersのオーナーがチーム内でのセクハラを理由にチーム売却を迫られた事例と、Floresの訴訟に関連してDolphinsのオーナーがtankingを指示していたのではないかと指摘されている例などがある。しかし、今回の粉飾会計はこれらとは質が違う問題だ。
 セクハラはもちろんよろしくないが、リーグにとっては社会的な批判を通じて間接的な損害はあり得るとしても、直接的な損失をもたらすものではない。tankingについてもゲームへの信頼が失われる(八百長)という懸念はあるが、最終的にはチームを強くさせる狙いが背景にあるとも考えられ、ファンが一方的に離れて行くとも限らない。だが今回の粉飾はそういったレベルではなく、直接的にリーグと他のオーナーの利益をかすめ取る行為が行われていた、という話になる。営利組織であるNFLにしてみればまさに詐欺行為であり、背任行為であると見なされても仕方ない出来事だ。
 もちろんこの話は事実ではなく、辞めさせられた元従業員による意趣返しにすぎないかもしれない。だが一部でも事実であるとしたら、リーグとしてはSnyderを含む経営陣に対して損害賠償を請求してもおかしくない話だろう(金額にもよるが)。さらにSnyderのオーナーとしての地位が吹っ飛ぶ可能性も十分にあるわけで、私がCommandersファンなら文字通り狂喜乱舞する展開となる。Snyderがオーナーになってからのチーム成績(156勝212敗1分)を見ても、彼の人事(Bruce Allenの重用など)を見ても、オーナーが変わる方がチームが強くなる可能性は高そうだからだ。
 結果がどう転ぶかは分からないし、すぐに結論が出るのではなく長い時間がかかることも考えられる。トレードで入手したWentzを使うつもりと見られる2022シーズンにすぐこの事態が影響を及ぼすとは思えない。それでも将来的にCommandersのオーナーが交代する局面が来る確率は以前よりも上がっているだろう。NFC東のチーム運営においては最近ずっとEaglesばかりが目立っていたが、オーナーが変わればまた違う動きが出てくるかもしれない。

 フィールド外といえば残念な話だが、Haskinsが交通事故で亡くなった。まだ24歳、プロ入りしてたった3年しか経過していないことを踏まえるのなら、まことにもったいないという他にない。正直、彼がNFLでQBとして大成できたかどうかは分からないが、控えとしての仕事ならあり得ただろうし、もしかしたらコーチとしての適性が存在していたかもしれない。もちろんフットボールを離れた人生の可能性もあっただろう。若者の命が失われるのは、基本的に社会全体にとって損失となることが多い。
 一方、フィールド内に関連する話もいくつか出てきている。一つはCarrが3年121.5ミリオンの契約延長を勝ち取ったという話。彼のキャリアRANY/Aは+0.27とリーグ平均の少し上であり、サラリーキャップの19.5%に相当する年平均額は正直高すぎる気もするが、足元3年だけ見ればDAKOTAは0.126とBradyやAllenと似た水準。となるとこのくらいの金額も悪くはないようにも見えてくる。あとは30代という彼の年齢をどう見るかだろう。
 彼と異なり契約延長がなかなか手に入らないMurrayは、チームを脅すかのように「新たな契約がなければCardinalsではプレイしない」と言っている。キャリア3年間のDAKOTAが0.097とCarrよりずっと低く、WinstonやFitzpatrick、Bridgewaterすら下回っている割には随分と強気に出たなという印象があるが、さてどこまで勝算があって言っているのだろうか。もしかしたらMurrayと同じく全体1位指名だが契約延長もないままトレード候補になっているMayfieldの不満を見て、密かに焦っているのかもしれない。
 それに今なら強気に出られると思う条件が1つある。今年のドラフトQBたちの実力評価だ。Football Outsidersが毎年算出しているQBASEを見ても、今年のドラフトQBたちについてはかなり慎重な見方を示している。比較的まともなPickettとCorralでも約半分の確率で、Willis、Ridder、Howellの3人に至っては6割弱の確率でbustになる、というのがその見通しだ。もちろん5人もいれば1人くらいは使い物になるかもしれない(最低1人がエリートになる確率は28%、上位のQBになる確率は68%)。それでもリスクの高い指名にはなりそうであり、実績あるQBの引き合いがそれだけ強くなりそうだ。

 あとはアナリティクス系の話をいくつか紹介しておこう。1つはBaldwinのこちらの指摘だ。ESPNが出しているPBWR(Pass Block Win Rate)は、実はパスを早いタイミングで投げるQBがいるチームについては過小評価を、プレイアクションを多用するチームについては過大評価をしているのではないか、という説である。実際、R自乗は低いものの、パスを2.5秒以下で投げる比率の高いチームほどPBWRが低く出てくる傾向があるとの指摘も見られる。
 なぜパスが早いチームはPBWRで損をするのか。2.5秒以内でパスを投げてしまった場合、このデータではそれを勝ち負けから外して計算している。パスタイミングの早いチームは成功したパスが減らされる一方、プレイアクションのようにパスタイミングが遅いチームはそうした分母の削減が少ない分だけ、結果としてPBWRが上昇するのではないか、との指摘だ。もちろん平均で2.5秒を割るQBはほとんどいないが、それでも影響の大きなチームとそうでないチームがいるのは否定できない。
 もう1つ面白かったのは、Mike Evansがターゲットとなった時に彼がどの程度の割合でオープンになっていたかどうかのデータ。Fitzpatrickとプレイしていた時は19%、Winstonの時は27%で、Bradyが一緒だと38%に達していたという。もちろん誤差はあると思うが、「ターゲットがオープンか否かもQBにかかっており、だからCPOEという指標にも問題がある」との指摘は重要だろう。なお、ここで言うCPOEはターゲットがオープンになっているかどうかも指標の計算に含めている(その分だけノイズが多いのではないかと推測される)Next Gen Statsで算出している方の数字であり、Air Yardsと投げた方向だけで計算している方のCPOEには同様の問題は出てきていないと思われる。
 要するにアナリティクス系のスタッツは、従来型のものよりはいいかもしれないが、問題が皆無というわけではないことが指摘されているわけだ。データを扱う際には、当然ながらそうしたデータの弱点や問題点も頭に入れたうえで扱う必要があるんだろう。
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