ドラフト余剰価値

 久しぶりにNFLの動きをフォローしておこう。前にも述べた通り、大きな動きは大体一巡して次はドラフトを待っている状態ではあるが、だからと言ってニュースがなかったわけではないので、そのあたりをフォローしておきたい。

 何より大きいのはSaintsとEaglesのドラフト権トレードだろう。Saintsが手に入れたのは今年の全体16位、19位、194位(6巡)の3つであり、代わりにEaglesが手に入れたのは今年の全体18位と101位(3巡)、237位(7巡)、そして2023年の1巡と2024年の2巡だ。
 このトレード、見た瞬間に「RosemanがLoomisをきれいに嵌めやがった」と思ったのだが、アナリティクス系の人々もほぼ同じ感想のようだ。分かりやすくまとめているのがこちらのツイート。ありとあらゆる計測法で調べても、このトレードはEaglesの勝ち、Saintsの負けとなっている。まあLoomisは以前からずっとGMとしての能力に疑問を持たれていた人物であり、その意味では今回のトレードも「古典的なLoomis」の動きなんだろう。私がSaintsファンならこの人物に20年もGMをやらせているオーナーに絶望し、チームの売却を希望する。
 一方のEaglesから見れば笑いが止まらない状態だ。一流QB不在と言われる今年のドラフトで3つも1巡指名権を持つメリットは乏しい。そのうち1つを来シーズンに回すことに成功したうえ、多大な付加価値も手に入れたのだから万々歳だろう。これでEaglesはWentzを1巡1つ、2巡1つ、3巡2つに化けさせたことになる、との指摘もある。Rosemanの一連の取り組みについては「もはや伝説」という声も出ているくらいだし、彼はゲームチェンジャーではないかもしれないが、極めて優秀なGMだという話は、既にしている。
 ちなみになぜSaintsのトレードがダメなのかについては、Jason Fitzgeraldのこちらのツイートで端的に示されている。成長が期待できるQBを持っていないチームは、その年にQBをドラフトできない限り将来の1巡指名権をトレードしてはならない。絶対的なエースが引退したばかりのSaintsが、優秀なQB候補がいない今年のドラフト権を増やすために来シーズンの1巡を売り渡すのは、基本的にはやってはならないことだ。
 これに対しては「これから1巡中位のドラフト権2つを使ってトレードアップし、それを使ってQBを指名するのだ」と言い訳する人もいるかもしれない。世間一般の評価と異なり、Saintsの視点から見れば高い評価に値するQBがいるのなら、そう主張することもできそうに見える。だがもし本当にそうするつもりなら、最初から今年と来年の1巡を使って上位指名権を持っているチームとトレードしておけばよかっただけの話。最終的なトレードアップのために「使えるチップの価値を減らす」行為は、無意味かつ無駄でしかない。
 QBではなく他のポジションを強化するためだ、という理屈なら、いよいよもってSaintsの行動は間違っていると言える。ドラフト指名した選手たちの「余剰価値」についてまとめたこちらの記事の中に載っているグラフが、こちらのツイートで確認できるのだが、特にトップ10の指名権を見ると明確な傾向がある。QB以外は指名すると損なのだ。
 QBなら文句はない。彼らはどの順位で指名しても期待値で見たコスト(オレンジの線)より余剰価値(緑の線)の方が高い。もちろん誤差はあるので全てのQBが成功するわけではないが、指名時点では合理的な行動だ。だが他のポジションは、程度の差はあるが、上位指名はコストが余剰価値を上回っている。だからこのツイートではQBが必要なら彼を指名すればいいが、そうでなければトレードダウンを試みるよう推奨している。一応、T、DL、Edge、WRあたりはまだ指名しても言い訳がたつが、それ以外のポジションはあまり望ましくなく、TEやRBを指名する羽目になればそれは敗北を意味する、とまで書かれている。
 こちらのツイートでは、TEとRBの余剰価値がピークを迎えるのは他のポジションよりおよそ1巡後のことだと指摘。これらのポジションについてはそもそも1巡で指名するメリット自体が乏しいと言えるだろう。こちらではポジションごとに指名巡と余剰価値をまとめた表も見られる。CBが意外に余剰価値が低いこと、4巡以降のQB指名はほぼ無意味であることなどが指摘されている。よくドラフトのbigboardと称してドラフト対象選手のランキングを載せているサイトがあるが、ポジションを無視したbigboardにはあまり意味がないことが分かる。
 というわけでLoomisのドラフト戦略が相変わらずチームの足を引っ張っていることが浮き彫りになったトレード、という結論でいいだろう。正直、LoomisではなくRosemanがSaintsのGMをやっていたら、Breesは1回ではなく複数回Super Bowl優勝を成し遂げていてもおかしくなかったのではないか、と思う。少なくともBreesを擁した15年間に6回も勝率5割以下を記録するような失態は演じなかっただろう(その6回とも失点でリーグ25位以下を記録している)。Bradyがシーズンの大半を先発した20年の全てで勝ち越し、19回は2桁勝利しているのに比べると、Breesの不幸っぷりは明らかだ。

 そのBradyが復活したBuccaneersではHCのAriansが辞任した後任に選ばれたのはDCだったTodd Bowles。2015~18シーズンまでJetsでHCを務めた時以来となる。残念ながら彼のJetsでのキャリアは24勝40敗と大したことはないのだが、Jetsの場合はコーチよりフロントに問題があったとの指摘もある。
 DCとしてのBowlesが有能なのはおそらく間違いない。Pro-Football-ReferenceのEXPで見ると彼がBucsでDCを務めた3年間のランキングは6位→6位→4位と常にリーグ上位をキープしている。またBucsはベテランが多く、コーチ陣があまり面倒を見なくてもチームが回る可能性はありそう。その意味ではJetsの時よりはいい成績を残すと期待してもおかしくない。ただ個人的にはOCのLeftwichに任せてみたらどうなるかを見る手もあったかもしれない、と思う。
 選手の動きも限定的ではあるが続いている。Saintsはドラフト権トレードの前にDaltonと契約し、彼をバックアップとして雇っている。保証額は3ミリオン、インセンティブなどで最大6ミリオンとあるので、まあバックアップとしては妥当なところだろう。ただこの動きを見る限り、今年のドラフトでQBを取りに行く気はないかと思っていた後でのドラフト権トレードなので、いよいよその行動が意味不明に見えてくるのが困りものだ。
 他にはDolphinsがParkerをPatriotsにトレードした。ついでに今年の5巡指名権もつけており、代わりにPatriotsが出すのは来年の3巡指名権。29歳のWRであることを考えると、このあたりが適当な対価なのだろう。一方、同じ29歳だがBillsのエースWRであるDiggsは4年96ミリオンの契約を締結WRのマーケットで年平均サラリーが高騰していることを踏まえると仕方ない契約かもしれないが、契約最終年に彼が34歳になることを考えるとリスクもありそう。
 一方、49ersはトレードが成立しないならGaroppoloをカットすることはないと考えているそうだ。前々から言っている通り、Garoppoloを手放すのはLanceがよほど素晴らしいQBでない限り不合理な選択なので、この方針は当然に思える。単純に今シーズンの彼のプレイを確認して、やはり怪我が問題だと思うならFAとして出て行ってもらえばいいし、まだ使えると思うならフランチャイズタグを貼ればいい。むしろトレードに応じる方がおかしい、と個人的には思っている。
 フィールド外では、Floresが起こしてた訴訟に、CardinalsのHCだったWilksと、NFLアシスタントだったHortonが加わったというニュースが出ていた。BowlesのHC就任によってマイノリティのHCがまた1人増えたのだが、一方でWilksが再建期のチームのHCを押し付けられ、うまく行かなかった責任を問われてたった1年でやめさせられた、ように見えるのも確かだ。彼がFloresと同じ不満を持っていたとしても不思議はない。この問題は今後もしばらくはくすぶり続けるのだろう。

 最後にネタを。BradyのSuccess Rateはパス(0.498)よりラン(0.607)の方が高い。そして1999シーズン以降のトータルでランのSuccess Rate(200プレイ以上)を見ても、Vick(0.586)やNewton(0.550)を抑えてトップに立っているのはBradyである。さすがマスター・オブ・QBスニーク。
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