だが両者の道徳は、本当にそこまで違うのだろうか。少なくとも両者の間に違いが生まれたのは、実はそんな昔の話ではないのではなかろうか。例えばほんの200年ちょっと、ナポレオン戦争期まで遡れば、欧州の辺境たるロシアだけでなく、欧州の中心部でも今のロシア並みの道徳観がのさばっていたことが分かる。一例が当時ドイツの若者であったJakob Walterが記したDiary of a Napoleonic Foot Soldier。その中で兵士だった彼は民間人への残酷な虐待行為を淡々と記していた、と記憶している。別に彼だけでなく、他にもそうした事例は当時は珍しくなかった。
19世紀の後半になってもその流れは変わっていなかった。分かりやすいのがこちらで紹介したJohnny I Hardly Knew Yeという曲を巡る話だろう。怪我を負った兵を取り上げたこの歌は、最近では反戦歌だと認識されているのだが、19世紀時点では喜劇役者の歌うコミックソングだったのだ。戦争で障害を負った元兵士たちは、当時は同情される相手ではなく嘲笑の対象だったと思われる。当時の道徳観はその程度のものだったわけだ。いや20世紀に入ってもなお、人を人と思わぬ行為が繰り返されたのは広く知られている。
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