このトレードについての評価は、全体的にDolphinsの方が高い。
こちらの記事 だとDolphinsがAなのに対してChiefsはCだし、
こちら ならDolphinsのA-に対してChiefsはB-、さらに
こちら でもDolphinsがA-でChiefsはBだ。Dolphinsにとっては明白にプラスの効果であり、一方Chiefsにとっては良くてトントン、悪ければマイナスといった感じだろうか。
ここまでのHillの実績は見事なものだ。Mahomesが先発に定着した2018シーズン以降の4年間、彼のEPAは81.3、53.2、77.9、69.0を記録しているのだが、これは同期間におけるChiefsのレシーブEPAトップ10に全て顔を出している。同じくトップ10に4年連続で顔を出しているKelceが残るとはいえ、これだけ実績のあるレシーバーがいなくなるのは、確かにMahomesにとってはあまりうれしくない数字だろう。代わりにこのオフにChiefsが取ったJuJuの4年間の数字は58.6、3.0、25.9、-8.2と年によって差が激しいし、Valdes-Scantlingは15.6、10.9、40.3、10.2と安定はしているがHillほどのインパクトはない。
ただHillの成績を見ると1点気になるところがある。EPA/Pが右肩下がりになっているのではないか、という懸念だ。この数字は0.577、0.578、0.528、0.399となっており、2021シーズンに関して言えば90回以上プレイしたWRたちの中で16位となっている。引き続きチームのエースWRであることに間違いはないのだが、チームだけでなくリーグを代表するエースだった2018~2019シーズン(2位、2位)はもとより、2020シーズン(10位)よりも成績を下げている。今シーズンの彼は28歳とさらに年齢を重ねるわけで、次第に衰えが見えてきていると考えたくもなる数字だ。
実際、Ben Baldwinは
「HillのトレードはChiefsにとって道理にかなっている」 と指摘している。若くて優秀なQBがいるのなら、Ramsのような「全賭け」に走るべきではない。「短期間だけ極めてよくなるよりも、長期にわたって普通によい状態を続ける」方がいいと考えるなら、Hillの年齢も考えるといずれはHillのいないオフェンス構築をしなければならないわけで、そのタイミングが今だったということになる。
そう考えると今回のトレード評価についても、安易にDolphinsの勝利でChiefsの負け、と決めつけない方がいいだろう。実のところTagovailoaが先発になったこの2年間、Dolphinsで最も高いEPAを記録しているのはParkerなのだが、その数字は30.4と28.2という水準にとどまっており、EPA/Pもいい時で0.4に到達していない。WRの成績にQBの能力がどこまで反映されるかの判断は難しいが、Hillの成績低下と加齢まで考えると、そんなに手放しで喜んでいいのか判断は難しい。Dolphinsが差し出したドラフト権に含まれる
全体29位は余剰価値の高い指名順位 であることまで踏まえるなら、Dolphinsにホイホイ「Aグレード」をつけて大丈夫なのかとも思いたくなる。
Hillのトレードについてはもう1つ問題がある、という指摘が出ている。FitzgeraldがOverTheCapにアップした
Reassessing the Value of Contracts という記事で書いているのだが、HillがDolphinsと結んだ4年の契約延長は単純計算だと年平均30ミリオンというWRにしてはかなりの巨額に達するのが特徴。ただしこれは最終年に44ミリオン近いベースサラリーが含まれているがゆえの金額であり、実際にそれ以前に彼をカットしてしまえば年平均のサラリーはもっと低くなるはずだ。
最近はどうもこういう契約が増えているそうで、Hill以外にもDavante AdamsやDeandre Hopkinsなどが実態に比べて年平均が過剰に膨らんだ契約を結んでいるという。単純に年平均で比べると彼らの契約は他の一流WRたちに比べて実に4割も高い金額をもらうことになるのだが、実際にプレイする可能性が高い3年目までの数字で見るとせいぜい15~20%程度の増加にすぎないという。見た目の派手さで話題になっているが、実は羊頭狗肉というわけだ。
もちろん、単に見た目だけの話なら別に大騒ぎする必要はない。こういう契約方法もあるんだね、で済む話。でもそこで終わらないから問題がある。トップクラスの選手の年平均サラリーは、フランチャイズタグなどの計算に際して大きな影響を及ぼす。つまりWRのフランチャイズタグは、今や実情よりも高い数字が貼り付けられることになりつつあるわけだ。契約が終わりつつある若いWRを引き留めておきたいと考えるチームが出てきた時、こうした空虚な数字の影響を受けるところもありそう。今までよりもWRにフランチャイズタグをつけるのは難しくなるかもしれない。
個人的にフランチャイズタグという制度はあまり好きではないので、そうした制度がハックされて使い物にならなくなることについてはむしろ面白がって見ている。チームや選手、代理人にとっては考えなければならないことが増えて大変かもしれないが、まあエンタメ産業なんだからこういう事態に由来するドタバタを見せるのも商売の一種だろう。金持ちのオーナーや高給取りのGMがしかめっ面で苦悶している様子を眺めるのも、ファンの楽しみの1つと考えれば何の問題もない。
ルーキー契約から大型延長を期待してこのオフに少し騒ぎになっていたMurrayが、
「Cardinalsでの将来についてあまり心配していない」 と述べたことも伝えられているが、別に彼の契約延長が決まったというニュースが出てきたわけでもない。要するにニュースが少なくなってきたから、優先度の低かった話が表に出てくるようになったのだろう。他にも
こちらのページ ではこのオフの動きが引き続きまとめられている。
その中で現チームから去るだろうと見られながらも行き先不明のQBたちがまだ存在する。売り時を逃した感のあるGaroppoloについて
49ersに何ができるかを書いた記事 の中には、彼をチームにとどめるという案も入ってくるようになった。個人的にはGaroppoloを放出するというのは馬鹿げた考え(LanceがWatson並みに優秀なら話は別だが)だと思っているので、結果的に今シーズンも彼が49ersでプレイするとしても驚くことはない。
Mayfieldの行方もまだ分からない。
チームは彼を早くトレードしたいと考えている ようで、彼自身もトレードを求めているのだから、その点で両者の利害は一致している。問題はこのオフがどうやらQBの買い手市場となっている点にあり、他チームの「メイフィールドへの関心の欠如」のために事態は停滞している。最悪、Brownsは彼をカットし、Steelersあたりがベテランミニマムで契約した分の残り(18ミリオン弱)をデッドマネーとして計上することになるかもしれない。
そしてもう1人、
行方が決まらないどころか行き先がないと言われているのがPackersのバックアップであるLove だ。Rodgersの契約延長によりLoveのルーキー契約の方が先に切れることになり、彼がPackersでプレイする可能性はほぼ潰えた。QBを欲しがるチームは少なく、ドラフトでのQB指名まで踏まえると、Loveはもう1シーズンPackersに戻ってきてPSのポジションを巡る争いに巻き込まれるのではと見られている。1巡指名がここまでないがしろにされるのもなかなか珍しい。
そのドラフトで
上位指名されるだろうと言われているQBたちがどこに行くかについての記事 もある。スターターとなるQB不在と言われているチームのうち、PanthersはPickettを、SeahawksはCorralを指名する予想。他にSteelersがWillisを、FalconsがHowellを、TexansがRidderを指名するのではないか、との推測だ。そう、NFLのチーム関係者もファンも、どうやらそろそろドラフトに視線を向け始めている。次にNFLが盛り上がるのはおそらく4月下旬だろう。
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