Ryanトレード

 NFLではWatsonの動きの余波が広がっている。彼を追い求めたが手に入れることができなかったFalconsは、長年同チームのスターターを務めてきたRyanをColtsへとトレードした。代わりにColtsが差し出したのは3巡(全体82位)という地味な順位。で早速のように「3-82を逆から読むと28-3になる」という煽りツイートが登場し、そのリツイートには「Ryanが指名されたのは2008年の全体3位」という指摘も出てきているのだが、そろそろ許してやってはどうだろうか。
 Ryanは2022シーズン開始時には37歳。キャリアの晩年であることは間違いない。加えて直近3シーズンのうち2シーズンはリーグ平均を下回るANY/Aしか残しておらず、同時期のDAKOTAを見ても0.091、0.106、0.070とやはり2シーズンはリーグ下位に入っている。要するに加齢に伴ってその成績が右肩下がりになっている状態だと考えられる。
 Ryanのキャリアを見るとANY/Aがリーグ平均を下回ったのは2009、2013、そして2019と2021シーズンの4年に限る。MVPを取った2016シーズンのように突出して高いANY/Aを記録したシーズンもそれほど多いわけではないが、基本的に平均よりは上の成績を残すQBだった。だが足元で彼がその能力を失いつつあるのだとしたら、彼をチームにとどめることなくトレードに出すという判断は間違いではないように思える。
 一方、Falconsの対応がいささか泥縄に見えるのも事実だ。彼らはほんの1週間前にRyanの契約をリストラし、今シーズンのキャップヒットを減らしたばかりだった。当然この時点で彼らはRyanを先発として使うつもりだったんだろう。ところがWatsonトレードに手を出した結果、Watsonが手に入らないだけでなくRyanも手放すことになり、そしてFalconsは40ミリオン超のデッドマネーを計上することになった。2013シーズン以降でこれだけのデッドマネー「総額」を計上したチームは述べ21チームしかない。それをたった1人分で計上することになるわけで、Falconsの今シーズンが相当ボロボロになるのは予想できる。
 そうした結果も含めてだろうか、このトレードの評価を見るとFalcons側が低くなっている。こちらの記事だとColtsがB+に対してFalconsがC-となっているが、こちらの記事ならColtsのA+に対してFalconsがFと、ものすごく大きな差がついている。逆にこちらの記事にはほとんど差が見られないが、それでもColtsがC+に対してFalconsがCとやはりFalconsの評価が低い。
 個人的には大して高くないとはいえドラフト権が手に入ったのだから、Falconsにとってこのトレードがそれほど悪かったとは思えない。Ryanのタンクにまだガソリンが残っているのだとしたらもったいないという考えはあるだろうが、その可能性はそれほど高いとは思えないし、それにそもそもFalconsの問題はRyan以外のところにもある。この3年間の累計でFalconsのディフェンスEPA/Pは0.066とリーグで27位に位置しており、またランのEPA/Pは-0.156でリーグ29位に沈んでいた。要するにRyan以外の方が彼自身よりよほど問題だったわけで、この段階で残り時間の短いRyanを使い続けても優勝できる可能性は低い。むしろ彼のキャップヒットを早く消化してチーム全体の再建を図る方を急いだ方がいいように思える。
 一方のColtsはこれで3年連続でのQB外部調達となったが、正直こちらについてはあまりいい選択をしたとは思えない。実績あるがキャリア晩年に差し掛かっているQBを手に入れるのはRivers以来だが、彼が移籍直前の3年間に0.136のEPA/Pを記録していたのに対し、RyanのEPA/Pは0.089とかなり低い。同じ高齢のQBを手に入れたように見えるかもしれないが、残念ながらRyanはRiversに比べれば劣化バージョンだ。そろそろQB調達方法について見直しが方がいいように思える。
 RyanをトレードしたFalconsは続いてMariotaと2年18.75ミリオンの契約を結び、まずはベテランQBを1人押さえる対応をした。といっても記事を見ると2年目はオプション扱いで、実質的には1年契約とされている。RANY/Aで-0.03とほぼリーグ平均並みの彼に今後のフランチャイズを任せるつもりはなく、あくまで目先の穴埋め要因としての対応だろう。しばらくはこうしたつなぎのQBで時間稼ぎをしながら、サラリーキャップの改善をまってチーム全体の底上げを進めていくのが望ましいのではないかと思う。
 もう1つ、Watsonに振られたのがSaintsだったが、彼らはWinstonと2年28ミリオンの契約を締結した。彼は昨シーズンもSaintsにいたが、負傷するまでチームは5勝2敗とそこそこの成績を維持しており、Watsonが取れない場合に彼に声をかけるのは想定内と言えるだろう。WinstonのANY/Aはキャリアで+0.18とさして高くはないが、FAのQBたちの中ではマシな方。Winstonとしても改めて別のチームで別のオフェンスシステムに対応するより、慣れたシステムでプレイする方が楽だろう。
 とまあ周囲に色々と波紋を広げたWatsonのトレードだが、最初に伝えられたのとトレードの条件が違っていた、という話をSchefterがツイートしている。Brownsが差し出したドラフト順位は1巡3つの他に実は2022年の4巡(全体107位)もあり、またTexansがWatsonと一緒に出すのは2024年の5巡ではなく6巡だったらしい。つまり最初の報道よりもBrownsの対価は多く、Texansの対価は少なかったことになる。なぜそうしたずれが生じたのか理由は分からないようだが、NFLのトランザクションワイヤーに載っていたそうなので、こちらの条件の方が正しいのだろう。
 QBたちの中ではさらにStaffordがRamsと4年160ミリオンの契約延長をしたという報道もあった。保証額は135ミリオンで、サイニングボーナスは60ミリオンだそうだ。正直、RodgersやWatsonの大型契約が出た後では地味な数字に見えるが、これでRamsがかなり長期にわたってStaffordにコミットする可能性が高まった。無事に契約を最後まで全うした場合、Staffordは38歳になっている。うまく行けば彼のキャリアはRamsで終わることになる、のかもしれない。
 地味な動きもある。BillsはBrownsからKeenumを手に入れ、対価として7巡を送った。TrubiskyがSteelersと契約したのを受け、控えQBとしてKeenumを呼び寄せた格好。一方のBrownsは控え要員としてBrissettとも契約したようで、これでいよいよMayfieldの居場所がないことははっきりした。後はうまく彼をトレードに出せればいいのだろうが、こちらについてはまだ新しい動きはない。
 あと残っているQBたちの中で気になるのはGaroppoloだろう。パス成績的には文句なしであるものの怪我が多いという問題点を抱えている彼だが、オフシーズン開始前の時点では確実にトレードされるQBだと見られていた。その彼がいまだに動いていない理由については色々な見解が出ているようだが、正直長引かせるほど49ersにとっては条件的に悪くなる可能性が高まる。確かにこのオフは色々と大物が動いたせいもあってGaroppoloが目立たなくなってしまっているが、それにしても49ersにとってはあまりよろしくない展開だろう。
 QB以外だとPattersonがFalconsに戻ったという話や、CowboysにいたCollinsがBengalsと契約したという話などが伝わっている。Patriotsについて言えばTrent Brownと2年契約を結んだと報じられており、出ていく一方だったOLの状態が少しはマシになりそうだ。他にもWhiteFolkなどもPatriotsと契約したそうで、例年通りにFA第2波になってから動きを見せているようだ。

 最後に小ネタを一つ。今年のドラフト候補QBたちがプレッシャーを受けたうちサックにつながった率についてSeth Walderがまとめていた。昨年ドラフトされたQBたちの数字と比べても全体に高いのが特徴で、要するにプレッシャーをうまくさばけずサックされてしまう選手が今年は多い、という印象だ。ちなみに2017ドラフト組と18ドラフト組の数字はこちら。やはり今年のドラフトQBたちはサックを回避する能力が低いように見える。
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