問題山積?

 NFLの話も入れたいのだがWatsonの動向が見えてくるまでは待つことにして、今回もウクライナ関連の話を。と言っても足元、日本国内ではウクライナで何が起きているかよりも、それを出しにして党派的ないがみあいをしている人間の方が目立っている感じであり、いかにも「不和の時代」という空気が強く漂っている。もちろんあくまでネット上で語られている話であり、どこまで本気にすべきか慎重に考えた方がいいのは確かだが、それでもたとえばこちらの記事などはそうしたトライバリズム感の強い発言について言及しているし、正直ほかにも似たような残念発言はいくらでもある。
 ウクライナのゼレンスキー大統領による米国議会での演説を巡っても内輪揉めがすぐに始まっている。一方ではこうい主張が出て、それに対する批判行われている。さらにゼレンスキーが日本の国会向けにビデオ演説をしたいという申し出についても、反対する者それに対する異論などが飛び交っている。今の時代、どうやらある種の人にとっては遠い外国の戦争より目の前にいる「敵対トライブ」を叩く方が楽しいし重要だと思えるんだろう。
 そしてSNSがそれを扇動している。ツイッターの問題点はいまさら言うまでもないだろうが、たとえばはてなブックマークをロシアで検索して出てくる記事の中には、ニュースや現地情報に紛れてこんな話こんな話がそこそこのブックマークを集めている様子が窺える。こういう話こういう話など、自分たちの政治的主張を通すためにウクライナ侵略を持ち出しているように見えるネタもある。
 正直、昔のはてなブックマークはもう少し「面白いネタに気づいた人がブックマークする」という使われ方が中心だったと思う。それがいつの間にか「ネットで注目を集めるためのインフルエンサーマーケティング」として使われるようになり、最近は「トライバリズム全開の連中が敵を叩くために晒し上げをするツール」となっている印象が強い。フェイスブックが歩んだ道を少し遅れてついていっている、というのが個人的な感想だ。もちろん、ロシアで検索すれば現場で何が起きているかについての情報も多く引っかかるため、広告やSEOまみれになったgoogle検索ほど「役に立たない」とは言えないが、それにしてもツイッターと同じように精神衛生によろしくないブックマークが増えているのは確かだろう。
 テレビなどの既存マスコミも似たような状態だが、ネットも含めてマーケティングのためには極論を振りかざした方が儲かりやすい時代になっているのだろう。その背景にはやはりTurchinの言うようなエリート過剰生産と大衆の困窮化がある、のだと思われる。テレビで暴論を吐くコメンテーターも、ネットでもてはやされる極論も、まともな方法では評価されない「エリート志願者」がやっていることであり、それを受け入れているのが不満を抱えた大衆である、と考えると実にもっともらしく見えてくる。それが極端に走ればこういうことも起きる。
 前回はロシアでエリート内競争が起きているのではないかと書いた。本当のところは分からないが、国内に関して言えばその傾向が強まっている印象はある。世界的に経済が大幅に成長すれば多くの人が中道に戻ってくるんじゃなかろうかと思うものの、スタグフレーションの懸念が高まっている中でそんな夢想をしてもおそらく意味はない。現ロシア政府のような分かりやすい「悪の組織」が外部に登場しても、なおこうした内紛が続いているのだから、これはもう行くところまで行かないとダメなんじゃなかろうか、という気分になる。

 で、その戦隊モノの悪役にしか見えないロシア軍だが、悪事を働くくせに無能という本当にフィクションでしか見かけないような酷い存在になってきている。米国防省の戦況分析はまだ慎重な言い回しをしているようだが、ISWによればロシア軍は大きな犠牲を出して精密誘導兵器を使い果たした可能性まで出てきているそうだし、英国防省の見解によればロシアの侵攻はぐらついており、最前線の兵には食糧や燃料さえ効果的に補充できず、ウクライナ軍の反撃によってロシア兵の大多数は補給線の防衛に駆り出されている状態だそうだ。そして上級指揮官は相変わら戦死している。ウクライナ軍が指揮官を狙っているうえに、行き詰った戦線を直接指揮しようとした指揮官たちが危険な場所に出てきていることが理由のようだ。
 補給問題については、例の64キロ(40マイル)の車列についてウクライナ軍が立ち往生させながらも破壊しようとしなかったのは、ロシア軍が新しい手段ですぐに補給しようとするのを妨げるためだった、との説が出てきている。個人的には少々後知恵が過ぎる解釈のような気もするが、結果としてロシアの兵站問題がその戦闘力を悪化させているのは間違いなさそう。というか、オープンソースのデータでこの戦争の被害状況を調べているグループによれば、「ロシアの損害は全く支えられない」レベルに達しているそうだ。
 中でも笑えるのは、ウクライナ侵略開始後にロシア軍のレーションを注文したら届いたという日本のユーザー報告。結果として「世界中の通販サイトに出回っていたロシア軍MRE(戦闘糧食)が実は軍の在庫の横流し品で、主犯がプーチンの側近」ではないかとの説まで出てくる有様となっている。実際に日本で購入できる糧食は普通に消費期限内なのに、ロシア兵に渡されていたものは数年前に消費期限が切れていたという話もあった。くり返しになるが、本当に田中芳樹氏のフィクション並みの事態である。今回の戦争を受けて米陸軍参謀総長が改めて「素人は戦術を学び、プロは兵站を学ぶ」と述べたようだが、もしかしたらそれ以前の問題かもしれない。
 兵站以外にもロシア軍には山ほど問題があるとの指摘も出ている。そもそも軍の近代化すらろくに成し遂げられていないとの説もあるほどだ。おまけに開戦から1ヶ月もしないうちに早くも兵士不足が発生し、これまでじわじわ前進していると言われていた南部ですら反撃を食らっているようだ。対するウクライナ側の反撃は効果的だとの話もあり、例えばスマホの使い方でロシア側に比べてウクライナの方が規律が取れているとか、キーウ北方でもウクライナ側が踏ん張っているとの話が出てきている。
 今回の戦争が1939~40年の冬戦争のように終わるのではないかとの見解もあるものの、伝えられるロシア軍の残念さが事実ならそんなレベルで済むかどうかも分からないだろう。一方ではロシアのシロビキ内で争いが起きているとの情報が見られるが、他方で戦略核使用をにおわせるような示威行動を取る場面もあるといった具合に、まだ状況はかなり流動性が高いようにも思える。今後10日間がヤマだとの見方もある。
 その中で、やはり注目を集めているのは中国の動向。こちらについては「ロシアを軍事的にサポートするつもりはない」との論考も出てきている。また中国のマスコミがウクライナにおける民間人の損害を報じるようになってきたそうで、まだ反ロシアとまでは行かないにしても、これまでよりも中立的な姿勢にシフトしているのではないかと指摘されている。さらには駐米中国大使が「ウクライナの独立は維持されるべき」と述べ、またロシアの外相が中国へ向かっていたのを途中で引き返す動きもあったそうで、いよいよ中国がロシアを見捨てつつあるのかもしれない。もちろん実際のところはよく分からないし、安易に結論に飛びつけるような明確な情報ではないことも事実。さて実際はどちらに転ぶのやら。
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