タンパリング解禁

 ウクライナの次はNFL。いよいよ新年度に向けたタンパリングが解禁され、早速FA市場が動き始めている、のだが、その前にBradyが引退取り消しを表明した。少し前から噂にのぼっていたので、あまり予想外と思っている人はいないだろう。これで彼は23年目のシーズンを迎えることになり、またNFLの選手として初めてキャリアのサラリー総額が300ミリオンを超えるそうだ。
 要するに金や栄光のために引退を取り消すわけではない、ということだろう。おそらくは単純にフィールドにとどまることのみを求めているわけで、まあそれだけアメフトが(もしくはアドレナリンを出すことが)好きなのだと考えてよさそう。もちろん45歳でシーズンを迎える選手にどのくらい余力が残っているかは不明だが、個人的には成績ボロボロになってどのチームからも不要と言われるまでフィールドにしがみついてもらいたい気もする。なんというか、その方が彼らしい。
 もちろんBuccaneersは彼の帰還を想定してキャップスペースを何とかしなければならなくなるのだが、トータルとして見れば今のところチーム力にとってはプラスになると期待してもいいだろう。少なくとも昨シーズンの時点でBradyはまだANY/Aでリーグ5位、DAKOTAでも5位を記録しているし、リーグの誰よりも多いパス試投を記録している。加えて足元NFCにはまともなQBが少ない。Bradyがトップ10に入る活躍をしてくれれば大歓迎だろう。
 Bradyのおかげでニュースとしては圧倒的に地味になってしまったのがCousinsの契約延長。今シーズンが最終年だったが、1年35ミリオンの契約を追加して2023シーズンまでVikingsとの契約下に置かれることになった(2024-25シーズンはいわゆるVoid Year)。ちなみにCousinsはこれで8年連続、契約額が全額保証になったそうだ。Bradyですら成し遂げていない、ある意味すごい記録と言える。
 Cousinsは過小評価されている、というのがBen Baldwinの主張。確かにCousinsのキャリアRANY/Aは+0.81とRussell Wilson(+0.86)の少し下だし、直近3年間のDAKOTAで見れば0.134とWilsonと同じでBrady(0.128)より高い。Baldwinの言う通りリーグでトップ10に入るQBなのは確かだ。
 一方、直近3年間のVikingsの成績を見るとDropback EPAはリーグ17位にとどまっている(rbsdm.comのデータによる)。優秀なQBを持っている割にこの低さは異様に見えるのだが、Pro-Football-ReferenceのパスEXPで見ればVikingsはこの3年間、常にトップ10に顔を出しており、こちらのデータを見る限りはBaldwinの主張が正しそうだ。問題の一つはおそらくパスプロテクションの悪さにあるのだろう。一方、ディフェンスのEXPは2019シーズンこそリーグ9位だったが、2020には27位、2021には21位に沈んでおり、Vikingsの2年連続負け越しの大きな要因がディフェンスにあるらしいことが窺える。
 BaldwinはCousinsがいなくなった後のWashingtonの状況がいかに残念になっているかを指摘し、「QBの荒れ野(wasteland)はよろしくない」と結論付けている。有能なQBがいないとどのような事態に陥るかはBrownsファンとJoe Thomasならよく知っているはずであり、それを避けた点でVikingsの判断は悪くはないように見える。少なくともCousinsより有能なQBをトレードに出してしまったSeahawksよりは、GMとHCを切り捨てたVikingsの方が目下のところ真っ当な判断をしたと言ってもいいんじゃなかろうか。
 QBがらみでさらに動きがあったのが、SteelersがTrubiskyと2年契約を結ぶとの報道だ。といっても金額は2年14ミリオン強と完全なバックアップ契約。もちろん目下のSteelersのQBラインアップはとても残念なことになっているし、このメンツでシーズンを乗り切れるかと言われると疑問ではある。だから優秀なドラフトQBが多い来年に向けた布石との見方も出ている。
 それにしてもTrubiskyが真っ先に取りに行くべき選手だったかというと、少々疑問はある。キャリアのANY/Aで言えば彼より高い選手としてWinston(+0.18)やMariota(-0.03)のみならず、Dalton(-0.16)、Newton(-0.22)、Bridgewater(-0.23)、Taylor(-0.31)、Fitzpatrick(-0.35)といった面々がFAとして存在している。もちろん彼らの中にはTrubiskyよりずっと高いサラリーを払わねばならないならない選手も多いと思うし、中途半端にいい選手を取ることでQB purgatoryに陥るよりは1年どん底に沈むことで中期的にチーム力を増す方がいいとの考えもあるだろう(非常にtanking的な発想だが)。いずれにせよSteelersの今後の動きは注目に値しそうだ。
 Trubiskyよりも謎だったのはBridgewaterがDolphinsと最大10ミリオン(保証額6.5ミリオン)で契約したという話。ご存知の通りDolphinsは「TagovailoaがいるからWatsonは不要」と公言していたチームだ。ということは普通に考えればBridgewaterは控えにしかなれない。Bradyの復活などでQBを必要としているチーム数が減っているとはいえ、Bridgewaterならもっと先発可能性の高いチームに移籍することができただろうに、なぜDolphinsなのだろうか。
 前回紹介した記事でQBが必要とされていたのは10チーム。そのうちBuccaneersとVikingsは必要性が消えたと考えていいだろう。同じくCommandersも消していい。加えてもしかしたらSteelersも外れたかもしれないが、それでも6チームはまだQBを欲していると計算できる。一方、FAのQBたちのうちキャリアのANY/Aで見ればBridgewaterは5番手に顔を出しており、つまり少なくともどこかのチームで先発争いに参入できるくらいのポジションにはいたと思われる。でもDolphinsだと、いくらキャリアANY/Aが-0.58しかないとしても、Tagovailoaが先発に使われる可能性の方が高いだろう。
 とはいえBridgewaterも2022シーズンで30歳を迎えるわけで、そろそろえり好みしていられなくなる年齢なのも間違いない。それでも個人的にはまだ頑張って先発を狙ってほしかったという気持ちはあるが、守りに入ろうとするのも分からなくはない。

 とまあQBに関連した動きを中心に取り上げてきたが、別にFA市場がそれだけで動いているわけではない。大本営のこちらのページでは主なFA戦線の動きが記されている。その中で話題になっていた一つがJ.C. JacksonがChargersに行くという話。金額は5年で82.5ミリオン(年平均16.5ミリオン)だ。
 Patriotsが彼にタグを貼らなかった時点で移籍は想定内。金額はCBの中ではリーグ6番目タイであり、まあそりゃPatriotsは払わないだろうな、と思われる数字になった。ちなみにタグを貼っていれば金額は17ミリオン超であり、3.4ミリオン弱のキャップヒットからそこまで増えるとPatriotsにとっては負荷が大きかったのは確かだろう。一方、タンパリング前のロースターを見ると、Jonathan Jonesが怪我から復帰するとしても手薄感はある。また2巡でDBを指名するのだろうか。
 とはいえ今年のオフにPatriotsがあまり大きな動きを見せないであろうことは事前に予想されていた。派手に動いた昨年が異常だっただけで、これが通常運転だ。実際、今回のJacksonの契約でPatriotsは来年の3巡補償ドラフトを手に入れる可能性が高く、そちらを使ったチーム力強化に再びシフトしていくことは間違いないだろう。
 FAが始まる前にNick Korteが行っていた分析も面白い。2013年以降にUFAと契約した数が多いチームと少ないチームを並べているのだが、興味深いことにPatriotsは多い方から5番手に顔を出している。彼らを除けばFA契約が「少ないチームほど多くの補償ピックをもらい、多いチームはそうでない」という大まかな傾向が見られるわけで、要するにPatriotsが例外というわけだ。これだけ多くのFA選手を手に入れながら、なおかつ補償ドラフトをたくさん入手しているあたりに、Patriotsの巧妙なオフシーズンの動きが表れているのだろう。その代わり、ファンは「地元産」のベテランがほいほい出ていくのを常に見送らなければならなくなるのだが。
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