ウクライナいろいろ

 ウクライナ情勢が悪化したあたりからずっとネット上では沈黙していたTurchinが、久しぶりにツイッターで反応を見せた。といっても以前こちらで紹介したGraeberらの本に関する書評に連動したツイートをリツイートしただけ。ウクライナ問題については引き続き言及をしていないが、とりあえず生きてはいるようだ。
 そのウクライナの戦況については相変わらず色々な情報が飛び交っている。自信を持って判断できるほど詳しい分野ではないが、そうした情報を見たところ引き続き停滞している模様。例えば14日時点での英国の分析には民間人の被害が、13日時点では黒海艦隊の話ばかりが書かれており、陸上の状況については特に言及すらしていない。定期的にリポートを出しているISWでも「地上攻撃はほぼなし」としているし、同じく定期的に情報をまとめているこちらのツイートでもロシア軍の動きは限定的だと指摘している。
 停滞の理由として改めて指摘されているのが、こちらでも指摘した「ロシア軍は物資の集積場から90マイル(140キロ)のところまでしか補給が届かない」説だ。こちらの一連のツイートでは、ロシア軍の侵攻度合いを記した地図と長さ140キロの縮尺を合わせて表示し、ロシア軍の大半が国境から140キロの距離あたりで動きを止めていると書いている。唯一の例外はスムイから西のキーウへと伸びる線であり、これはキーウ包囲がうまく行ってないのを受けて途中からロシア軍が押し進めた戦線である。途中に再補給拠点を置いているか、あるいは大量のトラックを割り当てている可能性があるそうだ。
 こちらのツイートでは、ロシアが面として支配しているのは傀儡共和国とクリミアのみであり、あとは線として侵攻しているものの補給は困難。ウクライナに補給路を攻撃されているロシアは「前にも進めず後ろにも戻れない」と指摘している。むしろロシア軍は「無茶なプランの割によく戦ってる」と言われる有様であり、まるで旧日本軍のような評価になっている。
 膠着状態を打開するためにロシア側が打っている手も報じられているが、これがまた残念な内容のものが目立つ。たとえばロシアがウクライナ軍のふりをしてベラルーシを空爆したとの情報で、さっそく関ヶ原の「問鉄砲」にひっかけるツイートが表れた。ただベラルーシの腰はそれでも重くロシア側に立っての参戦は計画していないそうだ。なおルカシェンコはこんなネットミームにも登場している(元ネタはこちら)。
 それ以外の親ロシア国も多くは平気で二枚舌を使っている(ロシアにとっては自業自得だろうけど)。例えば国内の暴動鎮圧にロシアの助けを借りていたカザフは、この戦争を受けて前大統領がトルコでエルドアンと会談。ベネズエラは国連でロシア支援のふりをしながら裏でアメリカ人を釈放しているそうで、ロシアの味方(?)には権謀術数大好きな「戦国武将しかおらん」状態になっている。
 中でも注目を集めているのは、当然ながら中国だ。米の情報によるとロシアはウクライナでの中国の軍事支援を要請しているという。これに関連して一部で注目されていたのが、中国の研究者による文章(こちらのツイートで簡単に英語でまとめられている)。色々と述べているが結論は「プーチンと縁を切れ」。ロシアを助けるようなリソースは中国にはないのだから可及的速やかにロシアを切り捨てろ、世界的な強国として中国は核戦争を食い止め平和を維持しなければならない、と書かれている。
 もちろん中国がこの見解通りに動くとは限らないが、戦争が始まってまだ1ヶ月も経過しないうちに中国に助けを求めるにまで至った大きな理由は、もちろんロシア側にとって事態がうまく行っていないからと考えられる。数日前の時点でウクライナは鹵獲した車両のおかげで戦前より車両が増えている計算になっていた一方、ロシア側は既に戦力の10%を失っているとの指摘や、軍事装備の4分の1を使えなくなっているとの話が出ていた。指揮官クラスの戦死者が多く、外部からも「ロシアの強さを示すはずが逆のことが起きている」だの、「経験不足、兵站に課題、連携不足」だのと言われている。米にとっても「ロシア軍のていたらく」は想定外だったそうだ。
 ロシア国内は白紙のプラカードを掲げただけで逮捕されるという、ほぼギャグのような状態。またFSBの粛清が行われたという話が伝わっているのだが、このツイート主は自分のblogでFSB内部の情報なるものを次々と掲載している。ちなみにその中の「4つめの手紙」には、習近平がこの秋に台湾を奪って3選を決める狙いだった、という話まで載っている。このあたりまで来るともはや虚実の判断も難しいのだが、戦争になればこういう話も出てくる、という一例だろう。
 こうした事情を踏まえ、ロシア側が追い詰められているとの見解も増えてきた。こちらのツイートでは個人的な見解としているが、この戦争は既にウクライナが勝っており、残る問題は「敵が敗北を認めるまでどのくらいの時間がかかるか、そしてその途上でどれだけの民間人が死ぬか」だと指摘している。こちらの長いスレッドでは、ロシアの軍がいかに非効率的で社会的に低い地位に抑えられているか、その非効率的な軍の苦戦を見て頭のいいオリガルヒが既に逃げ出している一方、「もっと間抜けな」者たちがいかに「Zキャンペーン」を支持してプーチンの支持率を上げているかについて書いている。ロシアが軍の改革に失敗していたことは2017年から指摘されていたというツイートもある。
 もちろん本当にウクライナが勝ったかどうかは、実のところまだ分からない。こちらのツイートではロシア軍が過大評価されていた理由についていくつか述べている。例えばシリアや2014年当時のウクライナにおいてロシア軍が展開した戦力は限られており、実際には彼らはこれほど大きな規模の戦いを想定した造りにはなっていなかった。またウクライナ軍の戦い方が巧妙だったのも間違いない。ただし、逸話に基づいて肯定的あるいは否定的な結論を導くのは拙い、とも指摘している。確かにロシア兵は12フィートの化け物ではないが、4フィートの小人でもない、というのがこのツイートが提示している観点だ。全体としてロシア側の問題点がクローズアップされやすくなっている局面だけに、こういった慎重な見方も忘れないようにした方が安全だろう。
 一方でロシア軍の見境のない攻撃は米マスコミ関係者にまで及び、1人が死亡した。この事件が、第一次大戦に米国が参戦する1つの要因となったルシタニア号事件になるかどうかはまだ分からないが、とにかくロシアの打つ手がとことん「悪の組織」ムーブを突っ走っているように見えるため、各国の世論を盛り上げやすくなっているのは確かだろう。前から「宇宙人でも攻めてこないと不和の時代は激化するばかり」と言ってきたが、このままだとロシアが宇宙人の代わりになりそうな勢いだ。

 そして毎度のことではあるが、SNS上では惨劇と同時にネタも出回っている。「ルカシェンコの空弁当」とか、「オイ!2020年の俺!未来では核保有国の大統領が陰謀論にハマっててヤバいぞ!」「?今でもそうだが?やべーよなあの大統領」とか、メンヘラに何度も電話をかけてこられる某大統領とか、こんな動画とか、謎の「東方ボナパルティスト委員会」とか、まあもりだくさん。上に紹介した長いスレッドの中にはさらっと「ロシアの体制はコスプレイヤー(cosplayers)の体制」なる言葉まで飛び出してくる状態で、2021年の年初にあったCapitol Riotの時と同じくシュールな状況が発生している。にしても典型的和製英語だったはずのcosplayが英語化しているのは何ともはや。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント