さらにトレード

 Rodgers、Wilsonに続いて、さらにQBの動きがあった。Coltsがたった1年でWentzを諦め、Commandersにトレードしたのだ。対価として手に入れたのは今年の3巡と7巡、及び来年の3巡もしくは2巡。また今年の2巡についても交換する予定だそうで、Coltsが全体42位を、Commandersが47位を手に入れることになる。
 この件についてCommandersに対し極めて手厳しい評価を下しているのがOverTheCapのFitzgerald。トレードを見て「頭を抱えている」と指摘し、なぜこのトレードがおかしいかについてエントリーで詳しく説明している。ColtsがWentzを切り捨てる可能性は高く、少し待てば解雇された彼を市場で10ミリオン程度で手に入れることができるのに、ドラフト権を譲り渡すのは「クレイジー」だからだ。
 おまけにこのトレードにおいて、CommandersはWentzの2022シーズンのキャップヒット(28.3ミリオン)を被ることになっている。その中には保証済みのサラリー15ミリオンも含まれているのだが、この金額はWentzが解雇されるのを待っていればColtsが勝手に支払ってくれたはずの負担だ。キャップスペースにものすごく余裕のあるColtsの負担をわざわざ自分たちで背負いにいったわけで、そりゃFitzgeraldが頭を抱えるのも無理はない。
 Wentzのキャップヒットを引き継いだためにCommandersのキャップスペースは6ミリオン弱になった。もちろんサラリーキャップはいくらでも調整可能な面はあるが、Wentzが市場に出てくるのを待っていればもっとキャップに余裕を持ってオフに臨むことができたわけで、それだけ他のポジション強化に使えるサラリーが増えていた。少なくともたったの6ミリオンではドラフトする選手との契約にすら苦労する可能性が高く、それだけチーム力の向上に困難が生じる。
 それだけの犠牲を払ってでもWentzが手に入れるべき選手であるのなら問題はない。少なくともBroncosがWilsonに支払った対価についてはそういう理由で正当化が可能だろう。でもキャリアのRANY/Aが+0.86もあるWilsonに対し、Wentzは-0.20とリーグ平均すら下回っている有様。もちろんHeinicke(-0.89)よりはずっとマシだが、たとえばWilsonトレードでBroncosに戻る可能性はほぼゼロとなったBridgewater(-0.23)とはほとんど変わらない。EPA/PならむしろBridgewater(+0.093)がWentz(+0.092)より少し上なくらいで、要するに両者はほぼ同レベルのQBと見なせる。
 そのBridgewaterは昨年のオフにPanthersからBroncosにトレードされたが、その際にPanthersは予め7ミリオンものサラリーを負担する必要があったし、しかも対価として手に入ったのはたったの6巡1つにすぎなかった。どう考えてもWentzに対しCommandersが払い過ぎなのは間違いないだろう。CommandersはCousins相手にフランチャイズタグを2回も使ったり、トレードやドラフトでQBを探すなど迷走を続けており、今回もそれが悪い形で表れた。
 もちろんColtsもよろしくはない。無駄に費やしたドラフト権を多少は取り戻した点については評価できるが、そもそもWentzを手に入れるのではなくドラフトを待ち、BearsがやったようにトレードアップしてFieldsかJonesを指名する、という方法だってあっただろう。彼らが偉大なQBになる保証はないが、少なくとも安く長期的に期待できるQBは手に入れることができた。だがWentzを選んでしまった結果、彼らは1年後にまたQB探しを行なわねばならなくなり、おまけにドラフトの1巡指名権は持っていない。
 Coltsの迷走ぶりはFitzgeraldのエントリー最後にある表に如実に表れている。Luckが突然引退した後で彼らは4人のQBに計108ミリオン弱を投入し、3年間に1回だけプレイオフに到達した。この金額は同じ期間にQBに投入したキャップスペースとしてはリーグ最多であり、実際に支払った額もCowboys、Seahawks、そしておそらくBuccaneersに次いで4番目に多い。これもまた典型的なQB purgatoryと言えそうだ。
 以上を踏まえ、FitzgeraldはCommanders、Panthers、Coltsについて「QBトレードを強制的に止められるべき」とまで言っている。ただ、足元ではTrubiskyがまたスターター待遇で呼ばれるとのうわさも広まっている。彼のRANY/Aは-0.58とWentzよりさらに酷いのだが、QB不足に悩んでいるチームの中にはそちらに飛びついてしまうところも出てくるかもしれない。まさに溺れる者は藁をもつかむだ。
 それにしてもWentz絡みで派手にやり取りされたドラフト権はかなりの数に上っている。別にWentzが悪いわけではないのだが、実力ではなくドラフト上位指名とSuper Bowl優勝への貢献という2つの「後光効果」のせいでQB狂騒曲に巻き込まれやすくなっているのだろう。凡庸なQBに多額のサラリーを投入するのは典型的な「勝てないチームの作り方」だが、多くのドラフト資源を投入するのもまた同じなのかもしれない。

 他にも新シーズンに向けた動きはある。例えばBearsはMackをChargersにトレードする。代わりに手に入れるのは今年の2巡と来年の6巡だそうで、Mackのサラリーは基本的にChargersが負担する(それでも24ミリオンのデッドマネーが発生するそうだが)。First-Team All-Proに3回も選ばれているエリートEdgeが2回もトレードされるのはなかなか興味深いが、前回のように1巡が含まれていないためか、あまり派手な報道にはなっていないようだ。
 またLionsはキャップスペースを空けるためにTrey Flowersを解雇した。相変わらず元Patriots選手は行き先であまり重宝されないケースが目立つ。Flowersの場合、過去2年は怪我の影響でそもそもあまりプレイできなかったのが直接の解雇理由だろう。もしかしたらVan NoyみたいにまたPatriotsに戻ってくるかもしれない(なおVan NoyはPatsから解雇されている)。
 来週から新年度入りすることを踏まえてのこうした一連の動きだが、上に紹介したWentz絡みの動向を見ても分かる通り、それらは常に成功するわけではない。もちろん失敗をめざしているチームなどはない(と思う)が、結果として上手くいく保証はない。オフにおける各チームの取り組みがどのくらい成功しているかについて言及しているのが、こちらのツイートだ。
 2013-21年のオフにおける各チームの契約やトレードの結果(QB以外)についてまとめたもので、載っている分布図のX軸はかけた費用(2022のキャップ相当額に修正)、Y軸はそうやって手に入れた選手がその後2年間にチームでどのくらいのWins Above Replacementを記録したかをまとめている。青の線より上にいるチームは投資額よりも高い成果を記録しており、下のチームはその逆と見ればいいだろう。
 見ての通り圧倒的に突出しているのがPatriots。Belichich the GMの能力の高さが如実に表れている。これらの選手の中にはディフェンス側も数多く含まれており、従って単にBradyが選手の能力をうまく引き出したからこの結果になった、というわけではない。Belichickのチームの作り方はなかなか他のチームには真似できない部分があると言われることが多いが、確かにこれだけチームへの貢献度が高い選手を引っ張り込める能力を持つ人間はそう多くないだろう。
 もう1人、注目に値するのがRosemanだ。彼については以前、GMの仕事そのものを変えるようなゲームチェンジャーではないが、普通のGMとして優秀だと書いたことがある。少し訂正が必要だろう。普通のGMとしては「極めて優秀」だ。もちろんこの結果は単なる偶然かもしれないので断言はできないが、どうやら彼はチームに必要な選手をきちんと見極め、その選手を安く手に入れる能力を持ち合わせているらしい。
 一方で最も下に沈んでいるのはDolphins。投資額に比べてあまりにもリターンが少ない。だが同じように青い線の下にはPackersやChiefsなども入っている。この分布図はQBを含んでいないが、いいQBがいればフロントの失敗を簡単にカバーできてしまうことが分かる。逆にいいQBがいないとBearsのようにいくらGMが頑張ってもなかなか成果が上がらない。QB狂騒曲が発生する大きな原因が、この図からも窺える。
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