トレードと契約延長

 陰鬱な話題が増えていたが、ここで久しぶりにエンタメの話を。スカウティングコンバインくらいしか話題のなかったNFLで、いきなり大きな話が飛び出した。SeahawksがRussell WilsonをBroncosにトレードしたのだ。このオフどころか、この数年で見てもかなりでかいトレードと考えていいだろう。
 Seahawksが送り出すのはWilsonと4巡のドラフト権。一方Broncosが差し出す対価は1巡2つ、2巡2つ、5巡1つ、選手3人となる。最初に見た時、いくら何でもSeahawksは安売りしすぎではないかと思ったが、Seahawksファンも同じことを思っているらしいし、逆にBroncosファンは高く評価している。交換で3人の選手をもらうくらいなら、もっとドラフト権を要求すべきだったとの見解にも同意する。要するにこのトレードは圧倒的にSeahawksの失敗であり、Broncosの成功だと思う。
 こちらの記事ではSeahawksの歴史上最良のQBが、かつてSuper Bowlで叩きのめした相手に売られてしまうことについて「残念でショッキング」と述べている。ただ、私が思っているほど「安売りしすぎ」との見解は多くないようで、文末のアンケートを見ると確かに4割は「してやられた」と回答しているが、3割弱はそうは思っていない。Wilsonがいなくなった点について悲しむ声は多いものの、トレードの評価についてはそこまで酷いとは思っていないようだ。
 だが以前から指摘している通り有能なQBはリーグでもごく限られた資産であり、それを手に入れるためにどのチームも苦労している。それこそBroncosが典型であり、彼らはElwayの後、自前でフランチャイズQBを揃えることができず、外から調達したベテランで優勝を目指す方法を何度も試みている。自力で使えるQBを手に入れるのはそれだけ幸運なことなのだが、Seahawksはその幸運を(個人的に言えば安い対価で)あっさり売り払おうとしているように見える。
 確かにWilsonは今年11月に34歳となる。38~39歳あたりがQBの活躍年齢上限であるケースが多い(Roethlisberger、Peyton Manning、Philip Rivers)ことを踏まえるなら、残された時間は5~6年という計算だ。もちろんBradyのような例外もいるが、ポケットパッサーだった彼とは異なりWilsonはモビリティを生かしたプレイが多い。それだけ年を取るとプレイにマイナスの影響が出るのでは、と考えることもできる。
 しかし、たとえ5~6年であっても一流どころと計算できるQBがいるのと、代わりにLockもしくは当たりか外れか分からない将来のドラフトQBに頼るのとでは、正直違いがありすぎる。以前に書いたことがあるが、WatsonレベルのQBはドラフト1巡でも9に1人くらいしか存在しない。もちろんWilsonのEPA/P(0.147)はWatson(0.179)よりは低いし、年齢的にWatsonよりも上であることを考えるなら、彼のトレード対価がそれだけ減るのは仕方ない面もある。しかし昨シーズンの彼が怪我の影響のない時期に引き続い高い数値を残していたことも考えるなら、まだまだ彼を手元に置いて使い倒す方が優勝への近道ではないだろうか。凡庸なQBで勝つためには、QB以外の選手に十数年間で最高の人材を揃えなければならないとの指摘もある。
 このトレードがSeahawksのキャップに大きなメリットをもたらしたわけでもない。何しろWilsonのために26ミリオンのデッドマネーを計上することになるほどだ。キャップに迫られてやむなく、というわけではなく、またチーム力という点でもWilsonの怪我が影響した昨シーズンこそ負け越したものの、その前の9年間はずっと連続して勝ち越してきたことも踏まえるなら、Wilsonが復帰すればまたプレイオフ争いはできるとも考えられる。チーム全体がガタガタなので再建モードに入る、という状況にも見えない。
 結局のところ、今回のトレードは単に戦力評価だけでなく、Wilsonとチームとの関係が悪化していたために起きたと考えるのが適切なのかもしれない。その意味ではWatsonとTexansとの関係と似ている。Watsonの方がフィールド外の影響でいつまでも決着がつかないのに比べれば、早々に「離婚」が成立できたWilsonの方がまだ互いに幸せな結果(ただしSeahawksファンは除く)と言えるのかもしれない。
 なおBroncosはトレードが成立すればすぐWilsonとの契約を延長するだろう、というのがOverTheCapのFitzgeraldの見立て。確かに契約が残っている2年分だけ彼を使う、という想定でのトレードではないだろう。上に述べた見通しを踏まえるなら、普通に4年程度の延長はありだ。Broncosは20ミリオン以上のキャップスペースを残しており、Wilsonを手に入れること自体はそれほど難しくない。これでAFC西はMahomes、Wilson、Herbertというベテランから若手まで有能なQBが揃うことになり、かなり激しい地区になりそうだ。

 一方で「別れる別れる」詐欺状態となっていたPackersとRodgersは、一転して4年200ミリオンの大型契約延長に踏み切った。うち保証額は153ミリオン。38歳のQBにこの数字を叩きこむのも大したものだし、年平均50ミリオンという数字は過去最高額だったMahomes(45ミリオン)を抜いてトップに躍り出る
 Seahawksとは異なりPackersはキャップがヤバい。Rodgersとの契約延長によって2022シーズンのキャップヒットを下げる(後年に負担を回す)ことができれば、チーム作りの点で大きなプラスが得られるのは確かだ。もちろん、それだけ将来の余裕はなくなるわけだが、それによって手に入るのがMVPレベルの選手だと考えれば、十分に元が取れるという計算だろう。
 上に書いた通り38~39歳で力尽きるQBが多いのは確かだが、一方でBradyやBreesのように40代になっても活躍できるQBもいる。ましてRodgersは直近2年間連続してMVPを取っているほどであり、間違いなくリーグでも一流の選手だ。おそらくPackersは彼がBradyやBrees並みに40代まで活躍できる可能性に賭けたのだろう。正直、その時期まで今ほどのレベルの成績を残せるかどうかは分からないが、MVPまで行かずともリーグ上位の成績を残せば御の字、と言われればその通りだ。
 一方、これでLoveが何らかの形で放出されるのはほぼ決まったと見ていい。QBのいないチームへトレードに出せばそれなりのドラフト巡が見返りで得られるだろうし、それを使ってチーム力を整えるのがPackersにとってもLoveにとってもベストの選択肢だろう。なお、2011年の労使協定以降、QBの交代に備えて早めに新しいQBを指名するという方法はあまり適切でなくなっているとの主張もあるが、個人的には判断が難しい。Patriotsも同じようにGaroppoloを早めに指名し、結局トレードに出した。ただしその対価としてドラフト2巡をもらうことはできたし、大失敗だったかと言えばそうとまでは言い切れない。
 前にも書いたが、ドラフトで多くのQBを指名することはそう悪い方法ではないように思う。当たりを引けば万々歳だし、ダメであっても上位指名ならまだ若いうちにそこそこの対価でトレードすることができる。最悪でも必ず用意しなければならない控えQB(用意しないとひどい目に遭う)という位置づけで使うことはできるわけで、Packersの取った策がそう悪かったとは思えない。

 あとは細かい話をいくつか。QBのサックとブロックとの関係について分析している例があった。基本的にQBの影響の方がブロックの影響より大きいのだが、一方この4年ほどはパスブロック成績がチームの成功と連動する状況が続いている。ただの偶然か、それともパスブロックの重要性が増しているのか、そのあたりは不明だ。
 またNFLとNFLPAがCovid-19絡みのプロトコル全面停止で合意したそうだ。米国は完全にポストコロナへと動いていることを示す一例だろう。あと、フランチャイズタグの状況はこちらで確認できる。
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