架空プレートテクトニクス

 以前こちらで架空世界の気候区分を推定するという取り組みを紹介したが、同じようにプレートテクトニクスを推定している人もいたので、そちらも記しておこう。気候区分の場合は緯度の推定(Game of Thronesの場合はさらに長い夏や冬に関する推測)が大きな役割を果たしていたが、プレートテクトニクスでモノを言うのは山脈の位置だ。
 それを分かりやすく示しているのが、指輪物語の中つ国についてプレートテクトニクスを推測したこちらのblog。指輪物語の舞台になっているのは中つ国にある大陸の北西部なのだが、その地域にある山脈から過去にどのようなプレートの動きが存在したのかについて推測している。中つ国の地図についてはこちらのサイト参照。
 基本的にこのエントリーは、トールキンの設定が地質学的にあり得ないと指摘しているTolkien’s Map and The Messed Up Mountains of Middle-earthに対し、トールキンを弁護する目的で書かれたもののようだ。指輪物語はそもそもプレートテクトニクスに関する知識がない1950年代に書かれた本であり、現代から見ればおかしく思えるのも当然ではある。
 まず山脈があまりに直線的に見えるという批判に対しては、中世(というか近代初期)の地図には山が直線状に並ぶように描かれているものもあり、指輪物語の舞台が中世的なものであることを踏まえるのなら地図がそのようになるのはおかしくないと擁護。また霧ふり山脈と平行に河川が流れているのは奇妙だとの指摘についても、例えばヒマラヤの南を平行に流れるガンジス河のような事例もないわけではないとしている。霧ふり山脈の東、ミルクウッドの高地がデカン高原のような役割を果たしていたという理屈のようだ。
 もう一つ、話題になっているのは北西部にある青の山脈(エレド・ルイン)だ。海岸沿いにあるこの山脈は、一見すると大陸型プレートと海洋型プレートが収束している場所にできる山脈(アンデスなど)のようにも見えるが、もしそうならもっと長いのではないかと指摘している。海岸沿いにさらに山脈が伸びているか、あるいは半島とその先に連なる列島(アリューシャンなど)という形で海洋まで延伸していてもおかしくない。また山脈が途中で灰色港のある河川によって分断されているところから、この山脈は今まさに形成中のものではなく、古い山脈ではないかと推測している。
 実は同じ世界を舞台にしたシルマリルの物語では、より古い時代に青の山脈の西にあったベレリアンドという広大な土地に関する記述があるそうで、そこからこのblogでは後にベレリアンドがこの地域から発散型のプレート境界によって切り離されたのではないかと推測している。最初にエリアドールプレートとベレリアンドプレートが衝突して青の山脈ができ、いったんはプレートが融合し、そして青の山脈の西で発散が始まってベレリアンドが切り離された、と推測している。霧ふり山脈は両プレートが融合した後にロヴァニオンプレートと収束して形成されたという格好だ。
 ちなみに現実の地球だと、北米のアパラチア山脈と英国のペナイン山脈は、かつて切り離される前には1つの連なった山脈だったのではないかとの見方もあるようだ。もしかしたら西へと去っていった旧ベレリアンドには青の山脈の南部が取り残されていたりするかもしれない。
 南方のモルドールやゴンド―ルの山地についても、同じようにプレートテクトニクスで説明している。モルドールはそれ自体がマイクロプレートで、アラビア半島のように周囲に山地を形成した。一方ゴンド―ルの山地は、南部にあるハラドプレートの北上によってエリアドールとロヴァニオンのプレートが収束し、山地を形成しているのではないかという理屈だ。西へと去っていったベレリアンドプレートを除き、この地域には大きな3つのプレート(エリアドール、ロヴァニオン、ハラド)と1つのマイクロプレート(モルドール)がある、というのがこの文章の結論となる。

 中つ国でやっていることは、当然のごとくGame of Thronesの世界でも行われている。こちらの記事ではあの世界のプレートテクトニクスがどのように働いたかについて、およそ5億5000年前からの大陸の動きを推測し、それを動画としてまとめている。当初は大きく3つのグループに分かれていた大陸のうち、南北それぞれが中央の大陸へと接近して1億年ほど前には一体化。それが2500万年ほど前に分裂を始め、再び大きく3つに分かれた様子が窺える。動画は途中から現実世界のプレートテクトニクスの動きを描いており、最後に改めて架空世界のプレートの動きをゆっくりと再現している。Game of Thrones世界の地図はこちら
 動画作成に際しては、前に紹介したGPlatesというフリーソフトを使っているそうだ。このソフトが「趣味の『惑星製作者』」にも使われていることも指摘されている。架空世界の「現在」におけるプレートの状況については文中にある地質図に描かれており、赤い線が収束しているプレートの境界を示しているそうだ。ウェスタロスとエッソスの間にある黒い線は逆に発散しているプレート境界を示しているのだと思われる。
 ごれらの動きは足元の山地や狭い海峡から推測することができるが、それより古いものについての推測には限界があることも指摘している。実際この動画を見ると、初期段階から既に形成されている山地がいくつかあり、これらは過去にどのようなプレートテクトニクスによって形作られたのかを再現するのが難しいほど古くからあった、と推測されているのだろう。エッソス北西からウェスタロス南部の北にある山地は最初に両大陸が衝突した際に作られたものであることが動画を見ると分かるし、ウェスタロス北部から壁の向こうへと伸びる山脈も小さな陸塊との衝突で形成されたことになっているが、例えばウェスタロス南部にある山地は動画の中ではかなり唐突に姿を現しており、生成のきっかけはよく分からない。
 なお動画と記事中の地質図との間には少し矛盾がある。直近のプレートの動きを見る限りウェスタロスはまとめてエッソスから発散しており、地質図中にある赤い線(収束境界線)が今も機能しているようには見えないのだ。これらの赤い線は全て「古い時代のプレート境界」であり、足元ではウェスタロスとエッソスを引き裂く発散境界線のみが明確に認識できる、と考えないとおかしいんじゃなかろうか。そしてこの両大陸には、中つ国の青の山脈のように切り離されたかつての山脈があると想像できる。

 以上のように架空世界設定にプレートテクトニクスを持ち込もうとする取り組みはいくつかあるのだが、実際に適用する際には色々と注意が必要なようだ。この点は最初からプレートテクトニクスを使って世界を設定する場合も同じで、実際にやってみせている事例を見ると色々と問題というか矛盾が生じていることが分かる。
 例えばこちら。プレートを設定し、その動きを決めてから大陸を分裂させているのだが、よく見ると同じプレートのはずである右下と左下のプレートが全く逆向きに動いているのが分かる。また4つ以上のプレートが1点で交わってはならないという原則に反している部分が左端に存在しており、この時点でプレートテクトニクスをうまく再現できていないことが分かってしまう。平面上で球体上の動きを再現する難しさが、こうしたトラブルをもたらしている一因だろう。一方でこの架空世界では、最も面倒な極方面のプレートの動きを無視するという方法でトラブルを回避していることには注目すべきだ。
 逆にこちらでは極方面のプレートも敢えて動かすというチャレンジングな取り組みをしている。一見してうまく行っているようにも見えるのだが、よく見ると両極点付近のプレートの動きが逆を向いている。平面上では矛盾がないように見えても、両極付近では間違った動きになってしまうのは、割とよくあること。以前紹介した動画でGPlatesを使うよう推奨していたのも、そうした矛盾を避けるために必要だからだろう。
 同じくこちらを見ても、一方の極のプレートの動きがおかしいし、それ以外でも同じプレート内で旋回しているわけでもないのに逆方向に動いている部分がある。発散している境界線を挟んで海岸線を、収束しているところには山脈もしくは列島を描き、それから海岸線を完成させるという発想自体はいいのだが、こうして出来上がった架空世界がもっともらしいかと言えば、細かい矛盾が多々指摘されそうな気がする。
 一方で、こちらこちらのようにプレートの動きの辻褄が合っていると気持ちよく見える。ただしそれがリアルかというとそうとも言えない。例えば南極プレートは収束境界線がほんの一部しかなく、大半がトランスフォームか発散となっている。プレートの移動速度の違いがそうした結果を生み出しているわけだが、そこまでこだわって架空世界を作るのはなかなか大変かもしれない。
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