決勝

 希望していた「いい試合」を見られたので満足だ。アメフトワールドカップの決勝、日本とアメリカの試合は一進一退の好ゲームの末に延長に突入し、最後はFG一つの差でアメリカが勝利した。直接の勝因は(公式記録には書かれていないが)おそらく日本のFGをブロックしたアメリカのSTにある。スペシャルなSTは最後までスペシャルだった訳だ。ただし、そこに至る過程では色々と面白い展開もあった。
 アメリカは3試合を通じて初めてまともにオフェンスに取り組んだ。過去2試合はSTとディフェンスが勝手に勝利をもたらしてくれたためオフェンスはお休みモード。プレイ回数は1試合に40回と41回にとどまったが、この試合では57回もプレイした。ただしオフェンスの進んだ距離は過去3試合で最も短い。手を抜いていたのに簡単に進んでしまった韓国、ドイツ戦とは異なり、真面目にやっても苦労したのがこの試合だったと見ていいだろう。
 特にランオフェンスの苦闘ぶりが目立つ。韓国戦では7.1ヤード、ドイツ戦では5.4ヤードあったYPCがこの試合はぴったり4ヤード。日本のディフェンスの奮闘が目立つ。恐ろしいのは、これは第4Qになって日本のディフェンスが破断界を迎えた後の数値を含めた実績という点にある。要するに前半はもっとランオフェンスが出ていなかったはず。それなのにアメリカは後半ラン勝負に出てきたのである。結果的にはそれが正解だったと言える。
 アメリカのパスオフェンスも苦戦していたのは同じ。韓国戦で5.7ヤード、ドイツ戦では7.5ヤードあったYPAは4.4とランオフェンス並みに低下。レーティングは77.6と日本(142.2)を大きく下回っている。結局、この大会不調なままだった米国パスオフェンスは、最後まで力を見せることなく終わった。
 一方、過去2試合で相手のトータルオフェンスを計117ヤードに抑えていたディフェンスは、この試合では258ヤードを許した。ただ、日本側からすれば2試合で833ヤードも奪ったオフェンスがたった253ヤードに抑えられたとも言える。ランではYPC2.7ヤード、パスではYPA6.6ヤード。特に日本のランをロスさせたのが計30ヤードあり、それが日本のオフェンスを断ち切るきっかけになった。
 スペシャルなSTはここぞというところで相変わらずスペシャルだったが、過去2試合ほどの圧倒的な強さは見られなかった。韓国戦で300ヤード以上、ドイツ戦でも100ヤード以上を稼いだパントリターンとキックオフリターンの合計距離は、この試合では66ヤード。そもそもリターンせずに終わる局面も多く、日本側がきちんと米国のSTに対処していたことが分かる。ただ、日本側のリターンは米国よりさらに酷く、キックオフではリターンなし、パントではマイナス1ヤードである。パントブロックは避けたもののFGブロックは喰らっており、米国のSTが引き続き実力を発揮していたことは疑いない。それでもフィールドポジションの奪い合いでは日本はほぼ互角に持ち込んでいた。ドライブスタート地点は日本が自陣33ヤードに対し米国は39ヤードだった。
 米国の弱点と見られていたミスのうち、ターンオーバーは確かに日本側に有利に働いた。日本から見たターンオーバーレシオはプラス2。17点のうち10点はターンオーバーからの得点だった。一方の米国はターンオーバーからの得点が7点。米国のミスが少なかったら試合はここまでもつれなかったかもしれない。逆に、あまり弱点にならなかったのがペナルティ。過去2試合はペナルティが多かった米国だが、この試合は3回30ヤードとかなり数を減らすのに成功。日本も1回15ヤードとペナルティは少なかった。

 日本が勝つチャンスは十分あっただろう。ツキは日本側にあった。審判の判定も、明らかに日本側有利と思われるものが2つほどあった。ホームタウンディシジョンだと思えば、ここに乗じることができなかったのが残念ではある。
 なぜ負けたのか。直接の敗因は上にも述べた通り、米国のスペシャルなSTがやっぱりスペシャルだったことにある。おまけにディフェンスも強かった。日本のオフェンスは確かによく頑張ったが、過去の試合で得た一発ロングゲイン、例えばフランス戦での長谷川の41ヤードレシーブとか、スウェーデン戦での古谷の48ヤードランなどは、この試合ではなかった。ランは最長で14ヤード、パスは28ヤード。一発でフィールドの半分を進むようなプレイがなく、じりじりと進むしかない展開を強いられた。
 同じ事は米国側にも言えるのだが(米国で最長のプレイはカスパーバウアーの19ヤードラン)、こうした我慢比べになると時間とともに体格差がモノを言ってくる。そして、米国も明らかに後半に入ってそちらに重点をおいたオフェンスを展開した。要するに消耗戦である。兵力に勝る側が消耗戦に打って出るのは、それが一番堅実に勝つ方法だからだ。ある意味、米国になりふりかまわず勝利を追求させるところまでは追い込むことができたと言える。
 ただ、そうした消耗戦でディフェンスが破断界を迎えてしまったというのは、日本にとってはツラい結末だ。ましてこの試合のように12分クォーターでなく、通常の15分クォーターで試合をされていたら、ディフェンスの崩壊はおそらくもっと早かっただろう。要するに埋められない地力の差が如実に出てしまったということ。打つ手を間違えなければ勝てたというのではなく、あの展開に持ち込まれるとどうしようもないという試合をされてしまった訳だ。競技人口の差が100倍もある状況が続く限り、この差は簡単には消えないだろう。
 それでも知恵と工夫で何とかなった可能性はある。例えば、オフェンスがもっとボールコントロールをやっていたらどうだったか。相手を7分半も上回ったオフェンス選手に対して要求がきついと思われるかもしれないが、結局のところ両チームのオフェンスプレイ数は米国57、日本59とあまり違いがないのだ。もっと辛抱強くドライブを続けてディフェンスが登場する機会を減らしていれば、日本のディフェンスも最後まで破綻せずに済んだかもしれない。
 その意味で気になるのは高田の起用だ。前にも指摘した通り、この大会での高田の成績は日本人3QBの中で最も悪かった。本人のラン能力を生かすつもりだったのかもしれないが、結果として彼のランは7回走ってマイナス4ヤード。パスでは試合開始直後のインターセプトと決定的な部分でミスが目立った。それでも彼しかいないのなら彼と心中するのも当然だが、正直冨澤の方が遥かに安定していただけに高田を何度も使ったことには違和感が残る。最初から冨澤一本でも良かったのではないか。

 最後は実力差が現れた3点差ではあるが、同時に日本の実力が結構いい位置まで上昇してきたこともわかった試合だった。米国代表には確かにdivision IIIの選手も含まれているが、一方で非常に運動能力の高い選手もいる。それを相手にここまでできることが分かったのは収穫だろう。何しろ米国のblogでは決勝で米国が63対14で日本を破ると予想していたところもある"http://missionjoe.blogspot.com/2007/07/mission-joes-2007-ifaf-world-cup_6552.html"のだ。それに比べれば立派なものであろう。
 ただ日本アメフト協会としては当てが外れた可能性はある。アメリカを破って優勝していれば、マスコミもかなり派手に取り上げてくれただろう。しかし負けたらそれまで。いくら惜しい試合でも、結果が伴わなければ意味がないのだ。一人のファンとしては面白い試合をしてくれただけで満足だが。

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