ロシアがウクライナを攻撃した 。まずは戦争が終わることを期待したいが、どう展開するかは正直わからない。そもそもあまり長く書けるだけの知識も持ち合わせていないのだが、今回の動きを見て1つだけ気になったことを記しておこう。
「不和の時代」 は内戦や革命をもたらすと言われているが、果たしてどのくらい対外戦争をもたらすのだろうか。
足元、ロシアの経済格差はかなり酷い。
World Inequality Database によれば、ロシアのトップ1%が保有する富のシェアは47.7%と、米国(34.9%)よりもはるかに高い。こうしたデータを見るとロシアが不和の時代と化している(そしてそれを政治的暴力で無理やり抑え込んでいる)可能性はありそうに見える。
国内の不満を外に逸らすために戦争をしたがる政治家、という構図は時代、場所を問わずありふれている。実際、Turchin的な視点に従うなら集団外との争いは集団内部の協力を育みアサビーヤを高める要因になると推測される。そして実際、過去の例を見ると確かに「不和の時代」に対外戦争を派手に行っていた事例は枚挙にいとまがない。
紀元前1世紀のローマは「内乱の一世紀」と呼ばれていたが、この時期は対外戦争も派手に行われていた時代だった。ガリアやエジプトのプトレマイオス朝がローマに征服されたのはこの時期だ。黒死病が流行した中世末期のフランスやイングランドも不和の時代だったが、同時にこの時期は百年戦争の時代でもある。危機の17世紀には三十年戦争があったし、清教徒革命ではクロムウェルがアイルランドに攻め込んだ。そしてフランス革命の後には革命戦争とナポレオン戦争があった。
一方で征服戦争はむしろ不和の時代ではなく、国家が成長を遂げている時代に行なわれているとの見方もある。ポエニ戦争を戦っていたころの共和政ローマは典型だろう。ロマノフ朝ロシアは不和の時代を迎えるよりも前の時期に大きく領土を広げていた。アメリカは第2次好感情の時代とされた20世紀半ばに
非公式な帝国 を築き上げた。国家はほとんどの時代において、不和であろうがなかろうが対外戦争をやっていたようにも見える。
対外戦争はその規模によっては
国内の格差縮小を促進するよう働く面もある 。そこまで至るとなると、これは大きな歴史的変化と言えるだろう。プーチンがそこまでのリスクを考えているかどうかは分からない。そもそも今回の戦争がなぜ始まったのか、どのような結果をもたらすのか、私には分からないことだらけだ。それでもこの地球上にいる限り不和の時代から完全に逃れるのは無理なのかもしれない、という気分にはなっている。
追記
World Inequality Databaseを見ると、ロシアの特徴がもう1つあった。中間層が弱いのだ。これはブラジルや南アフリカといった格差の大きな国に共通する特徴で、富に占める上流階級(トップ1%)のシェアに比べ、中間層(トップ10%からトップ1%を引いた数値)のシェアが圧倒的に少ない。特にロシアはブラジルなどですら30%を占めている中間層の富のシェアが26.4%しかなく、この層が社会的に持つ力がかなり削がれていると想像できる。
格差が比較的少ない西側先進国(英仏日)は中間層のシェアの方が明確に大きいし、格差が大きいアメリカや、新興国である中国、インドでも両者のシェアは似たレベルだ。これらの国では中間層にも一定の政治的な力があるのではないかと想像できる。だが中間層が弱いと思われるロシアでは上流のみが突出して力を持っている可能性がある。こうした格差は政府と結びついたオリガルヒ資本主義が一因となっているのだろうが、
こちらの論文 によるとこうした体制がロシア経済を一段と悪化させているという。
シェアが低い中間層は、経済の悪化で相当に不満を募らせている可能性が高い。彼らが政治的に自分たちの意見を反映させられる政治システムになっていれば、まだそちらを通しての改善(ガス抜き)も可能だろうが、ロシアの政治体制はおそらくそうではないだろう。となると中間層は非合法な手段に訴えるか、あるいはこの共同体から逃げ出すか、といった選択肢を取る可能性が高まってくる。不満を抱えたエリート志望者の増大と、潜在的なエリート内競争の激化が、ロシアで始まっているのかもしれない。
要するに今回の動きは統治(経済政策)の失敗を対外戦争によって穴埋めしようとする取り組み、のように見える。その意味では「不和の時代」ならではの戦争、と考えた方がいいのかもしれない。
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コメント
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2022/04/14 URL 編集