フィールド外ニュース

 NFLはあとPro BowlとSuper Bowlの2試合のみが残っているのだが、フィールド外での動きはむしろ派手になっている。何よりここに来て急浮上したのが、Floresによるリーグと3チームを相手取った訴訟だ。しかも問題は人種差別という、今の米国にとっては最もセンシティブと言える分野。もしかしたらKaepernick騒動の再現となるかもしれない。というわけでナポレオンの行軍についてはまたお休み。
 Floresが訴えたチームはBroncos、Dolphins、Giants。彼によればDolphinsのオーナーはtankingのために負けるごとに10万ドル払うと述べ(実際に当時のDolphinsは外部からもtankingしているように見えていたそうだ)、またBradyを雇うためにタンパリングルールを無視しろと要求したという。Floresはこの要求を拒否したのだが、その結果として2年連続勝ち越したにもかかわらずDolphinsをクビになった、というのが彼の主張らしい。
 Giantsが訴訟対象となったのは、Floresと面談をしていならがら実際はそれ以前にDabollの採用を決めていたこと。この件が明らかになったのはBelichickがDabollと間違ってFlores(まだGiantsとの面談前)に「コーチ就任おめでとう」というテキストを送ったのがきっかけらしい。Daboll(白人)の就任が既に決まっていた状態で、リーグの定めたルーニールールを守るためだけにFloresを呼んだことになるわけだ。それにしてもBelichickがこういうところでやらかしているとは。確かにどっちもファーストネームはBrianではあるが……。
 最後に出てくるのは少し前、2019年の話だ。Dolphinsに雇われる前にFloresはBroncosとの面談もしていたのだが、ElwayとCEOのEllisは前夜の深酒のために面談に1時間も遅れて現れたという。結果的にBroncosはFangio(こちらも白人)をHCとして選んでおり、最初から雇う気のなかったFloresを、体裁を整えるためだけに呼んだのではないかとの指摘である。
 Floresの主張についてはPDFがネット上で見られる。PDFの中にはBelichickからのSMSも貼り付けられており、なかなかに生々しい。これに対してNFLは声明を出し、リーグと各クラブは機会平等に深くコミットしていると主張しているが、各メディアがBradyの正式引退表明を差し置いてFloresの話をトップに置いているのを見ても、この問題は大きくなる可能性がある。
 実はこのオフにFloresとCulleyが解雇されたのに伴い、現在リーグに残っている黒人HCはSteelersのTomlinたった1人になっている。GMについては黒人の数もそこそこ多く、だからリーグとしては重要なポストについて別に黒人を差別しているつもりはないと主張したいのだと思うが、一方でFloresが受けた対応が事実だとすれば、チームによっては差別的対応を続けているところが存在している可能性もある。
 最初にも述べた通り、人種差別問題は特に今の米国では非常に繊細な問題だ。Floresの主張が一定の支持を得られることは予想できるし、場合によってはKaepernickの時のように政治的な問題にまで進展しかねない。そして何よりFloresのキャリアにとってものすごく大きな影響を及ぼすことが考えられる。Kaepernickはプレイの質ではなく政治的問題のせいでどのチームにも雇われなくなった。Floresはかなり才能のあるコーチではないかと思っているんだが、その彼が能力ではなく政治的問題からコーチができなくなるのは、単なるNFLファンにとっては非常に残念。
 だからといって彼に「怒りを飲み込んでうまく立ち回れ」ということもできない。そのあたりの感情は当事者でない人間が立ち入る領域ではないだろう。できれば訴訟は訴訟として、それとは別に彼の能力を評価して採用に踏み切るチームが出てきてほしいとは思うが、それが難しい場合も考えておくべきだろうな。

 Flores問題でニュースとしての扱いが小さくなったのはBradyの正式引退表明。ただしこちらは事前に報道が出ていた話なので、騒ぎのせいでニュースの扱いが小さくなっていることに文句をいうほどの問題でもない。結局のところBradyの実績については誰も否定できないし、またあれほどの実績がある選手でもいつかは引退することもまた事実。予想外の事態はどこにもないのだから、淡々と受け止めるべきなんだろう。
 彼のキャリアについてはこちらでRANY/Aについて簡単に紹介している。トータル+1.29という数字は同時代に活躍したManning(+1.62)やRodgers(+1.43)には及ばず、Brees(+1.27)と比べてもそれほど高いわけではない。昔のQBの中にもSteve Young(+1.69)、Staubach(+1.68)、Montana(+1.55)など、Bradyより高い数字を残している者はいる。そして結局、今回の引退によってValueでは15333と、Manning(15653)に追いつき追い越すことはできなくなった。
 RANY/AではなくEPA/Pで見ても、彼のキャリア数値(0.222)はRodgers(0.235)より低く、またデータが取れる1999シーズン以降のManning(0.262)と比べても劣っている。パスプレイあたりの効率で見れば、彼はリーグで3番手のQBだったと言えるだろう。なお彼の後にはBrees(0.208)、Rivers(0.193)といった面々が並んでいる。まだキャリアの序盤にいるMahomes(0.306)やWatson(0.205)が最後にキャリアを終える段階でどこに並ぶかは興味があるが、今の時点ではその位置づけはできない。
 というわけで現時点で私がNFL最高のQBだと思う選手はManningのままだ。彼を超える選手が出てくるとしたらMahomesが人間離れした成績をせめてManning並みに長く続ける必要がある。これはなかなか高いハードルだろう。今後10年くらい経過すればそういう話も出てくるかもしれないが、現時点ではForever Quarterback時代のランク付けがほぼ固まったと見るだけにとどめておこう。
 そうしたパス効率に基づくランク付けとは別にBradyの凄みを述べるなら、当然ながらキャリアの長さと勝負強さになる。レギュラーシーズンでもプレイオフでも勝利数は歴代最多であり、若いときから勝利というスタッツでは他の有力QBたちと比べても圧倒していた。彼のスタッツで目立つものと言えば、実はこういうものもあったりするのだが、こういう地味なプレイで大量の貢献をしているあたりも、彼の勝負強さをもたらした一因なのだろう。
 勝率や優勝という視点でNFLの歴史を見ても、彼と並んで言及されるべきなのはOtto Grahamくらい。Grahamは7回優勝しているし、キャリアの勝率は8割を超えている。だが彼の数字はそのうち4割がNFLよりレベルの低い対抗リーグでの記録であり、また彼はBradyの半分以下にあたる10年で引退している。
 正直、Grahamが記録した「7回の優勝」に並ぶ選手が今のNFLで現れる可能性はゼロだと思っていた。NFLと並ぶような対抗リーグはなく、チーム数は当時より圧倒的に多いうえに、かつて存在しなかったサラリーキャップという勢力均衡策が採択されている。この条件下で7回もSuper Bowlを制したことは素直に驚くしかない。今後Bradyと並ぶような選手が出てこないとは誰にも言い切れないが、それにしてもかなり高いハードルなのは間違いないだろう。

 とまあ大きなニュースが相次いだおかげで、Broncosの身売りとか、Washington Football Teamの新しい愛称がリークされた話、あとPanthersの新社長が決まった話など、それ以外のニュースはかすんでしまった。この手のフィールド外情報はもうすこしオフのために取っておき、今は試合に集中してもらった方がリーグとしてはありがたいんだろうが、まあそうそう思い通りには行かないもんだ。
 最後に少しは笑えるツイートを。うむ、確かに似てる。
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