地軸と大陸

 架空世界の設定について触れた際に、地軸の傾きについても少し言及した。傾きがゼロになると寒冷化が進み、逆に横倒しになれば温暖化が進むといった簡単な話を紹介したのだが、少し調べてみるとこのテーマについては色々なところで研究している人がいるようだ。全体像を見渡すのは大変そうだが、一部について紹介してみよう。
 まずは地軸の傾きがゼロのケース。こちらのblogには実際に地球の地軸の傾きが現状の場合と、ゼロだった場合とについて生物相がどう変わるかについて「簡単なモデル」を使ってシミュレーションした結果が載っている。記事中にある図のうち、上の方が今の地球で、下は地軸の傾きゼロの地球だ。
 まず目につくのは寒冷地の拡大。グリーンランドにしかない氷雪地帯が、傾きゼロだとカナダやシベリアの比較的広範囲に展開している。そしてツンドラが大幅に赤道に近づいており、欧州の大半から中国の華北、北日本、五大湖周辺を含むアメリカ北部、パタゴニア近辺など、亜寒帯から一部の温帯にまでツンドラが拡大している。全体として寒冷化していると見てもおかしくないだろう。
 乾燥帯の拡大も著しい。北半球ではサハラ砂漠はアラビア半島だけでなく、インドやトルキスタン、メソアメリカ一帯も砂漠と化しているほか、南半球にある小さな砂漠もその範囲を拡大している。何より注目すべきなのはツンドラと氷雪の間にも新たな砂漠が拡大しており、カナダの多くや北欧、カムチャツカなど、寒冷かつ乾燥した地域が非常に広範囲を占めるようになっている。
 代わりに壊滅状態となっているのが温帯の植生だ。傾いた地球では中緯度地帯に広く存在している暖帯林や温帯林、そしてそのすぐ極側にある北方林といった各種の森林はほぼ姿を消し、ツンドラと砂漠の境目に辛うじて姿を見せているだけにとどまっている。今の地球上では広範囲に広がっている草原地帯(サバンナやステップ)も、その多くは砂漠に飲み込まれて数えるほどしか存在しない(なお関東周辺は草原地帯となっている)。
 まとまった植生としてどちらの地球でも生き残っているのは熱帯林くらいだ。アフリカ中部、東南アジア、アマゾン一帯には広範囲に熱帯林が存在し、この世界で唯一盛んな生命活動が維持されている。ただし熱帯の土壌はラトソルと呼ばれる栄養分の乏しいやせた土壌が広がっているそうで、この地球はあまり農耕に向いた土地はないと考えられそうだ。

 続いて地軸が横倒しになっている事例について。こちらの動画によれば、この状態だと太陽に向いている時の北極の温度は50度に、海ではなく大陸がある南極に至っては実に80度にまで上昇する。夏の時期に太陽に炙られるため、6ヶ月の冬の時期になっても両極が凍り付くことはなく、むしろ赤道上の一部が氷結する。半年間の夜の間に光合成ができない植物は繁殖できず、バクテリアかごく簡単な生物しか生き残れないそうだ。ただし地球と太陽との距離が今の1.5倍近くまで遠ざかれば、極の気温は日中でも46度以上には上がらず、寒い時でも3度ほどにとどまるという。つまり地軸の傾き次第でハビタブルゾーンはずれてくることになる。
 Enhanced Habitability on High Obliquity Bodies near the Outer Edge of the Habitable Zone of Sun-like Starsによると傾きの大きい場合は温室効果が発生しやすく、また極付近に氷冠ができるのではなく、赤道付近に氷雪ベルトができるとしている。こうした星はハビタブルゾーンの外縁に近い方が生物にとって有利であるという点は上の動画と同じ結論だ。氷雪ベルトの存在についてはこちらの記事でも傾きの大きな場合に珍しくないことを指摘している。
 Potential Habitability of Extremely Tilted Planetsという記事では、85度も横倒しになった星でどのような気候状態が生まれるかについて色々と説明している。Figure 1の上の方は地球と同じ傾きの、下はもっと極端に傾いた場合の、各緯度における季節ごとの気温変化が図示されている。夏は20度以上暑く、冬は20度以上寒くなるという、極端な温度変化が常態となりそうだ。
 降水量にも変化が出る。今の地球だと赤道付近は湿潤だが、大きく傾いた場合は赤道は乾燥地帯となり、もっと高緯度で大量に雨が降る(Figure 2)。中緯度地方で今よりずっと極端な雨季と乾季が現れることになるようだ。また今の地球では貿易風などの風によって運ばれた水分が降水量の変化をもたらすのが常態だが、大きく傾いたケースでは夏場の両極が高温の大気中にため込む水分によってもたらされる降水量への影響の方が大きくなる(Figure 3)。それでも一部地域についてはなお居住可能だそうだが、地軸ゼロ度の地球と同様、広範囲にわたって生息の難しいエリアが広がっていることは想像できる。
 この2種類の世界は、SF世界の設定を考える上ではとても興味深い。外からやって来た観測者が、こうした極端な世界で生き延びている生物の生態を観測するといった話を作るのであれば、色々と想像力を刺激されそうな設定だ。ただナーロッパ的な世界を作るには、いささかエキセントリックすぎる気もする。そういう世界に転生した現代人が、極端すぎる条件の中で悪戦苦闘しながら生き延びる話ってのも面白そうではあるが。

 色々考えなければならない地軸やハビタブルゾーンの設定に比べ、大陸については色々なところに架空の地図が転がっているため、それをそのまま投入するという手が使える。例えば前にも紹介したGame of Thronesの世界だが、こちらの地図を見ると西側の大陸が南端から北の壁までおよそ4800キロ超、東側の大陸は西端から地図の端まで6500キロ超のサイズとなっている。最も小さな大陸であるオセアニアの横幅がおよそ4000キロであることを踏まえるなら、どちらも大陸級のサイズは揃えていると考えていいだろう(西側大陸はちと細長すぎる気もするが)。
 南北5000キロの距離は地球に合わせると極から赤道までの距離の半分に当たる。緯度で計算するなら45度分に相当するわけだ。たとえば西側大陸の北の壁が北極圏(北緯66.6度)に相当すると考えれば、この大陸の南端は北緯20度付近に位置しており、大陸南部はおそらく乾燥帯になるのではないかと想像することも可能だ(実際にどういう設定になっているかは知らない)。両大陸を含めた地図の東西全体を合わせるとおそらく9000キロを超え、地球の円周(4万キロ)のうち4分の1近い地域に広がる大陸だということが分かる。これだけのサイズがあれば、ケッペンの気候区分から生物相を想像することもできる。
 ただし、世の中にはそうしたサイズ感のない架空地図もある。こちらのサイトは自動で架空地図を生成するだけでなく、その中に色々と細かい設定も含まれているという点でよくできたサイト、なのだが、ここで作られる地図がどうにもサイズ感が小さい。例えばある時は画面いっぱいに1つの「大陸」が出てきたのだが、よく見ると面積がグリーンランドに毛の生えたレベルだったりする。
 時には縮尺が大きいケースもあるのだが、それでもせいぜいがところオセアニア大陸に長さだけは匹敵する、ただしオセアニアより入り組んでいるため面積はずっと小さい(850万平方キロに達するオセアニア大陸に対して530万平方キロなど)大陸が登場するパターンが多い。ある時は北と南に流氷が描かれていたのだが、その両極と思われる地域間の距離が5000キロ弱しかなかった。直径が地球の4分の1ということは月とほぼ同じサイズであり、であれば月と同様にほぼ大気はないと考えられる。表面の水は当然蒸発して宇宙に散らばってしまうはずであり、そもそも生物は生きていけない。
 生成した地図についてはBiomassを表示するモードもあり、それを見ると各種の森林や草原、ツンドラや氷雪地帯の存在が描き出されるようになっている。ただしなぜか砂漠はない。乾燥帯らしき地域がないのは架空世界設定を考えるうえで結構大きな弱点になりそうで、このあたりも困りものだ。あと全体として高い山があまり出てこないのも気になる。高山気候はこれまた文明の歴史においては一定の役割を果たしていたはずだが、そういった設定を考える際にはちと材料不足になる傾向が窺える。
 とはいえ、自動生成される地図がそこまで細かい辻褄を合わせられるとも思えないのもまた事実。そこまで期待するのはないものねだりだろう。世の中には架空のプレートテクトニクス地図を作っている人もいる(こちらこちらこちら)し、ここまでやればもっともらしい陸海と山脈、そこから想定できる気候や生物相といったものを演繹的に導き出すこともできるかもしれないが、簡単にできる話ではないんだろうな。
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