さらに細かいことを言えば銃床の形状が当時のフリントロック・マスケットと違う。例えば
ブラウン・ベスの銃床は末広がりの形になっているが、上に載せた銃床は太さが変わらないまま下に曲がっている。いわゆる
頬付けと呼ばれる形状であり、この形状は東南アジア・東アジアで使われたマッチロックの特徴である。
おそらく武器を作っている者が真田家の末裔、という設定に合わせた造形なのだろう。火縄銃をベースに点火機構のみをフリントロックに入れ替えたため、銃床の形状が東アジア版になっていると考えることができる。長さについては、
標準的な火縄銃は130センチほどあったそうなので、やはり妙に短く見える印象はぬぐえないが、作っていたのが女性なので自分の体格に合わせたと考えておこう。
実際に銃を発射する際の描写にも違和感がある。上に紹介した図の直後には
銃が発射されているのだが、引き金を引いた直後には銃身から炎が出ており、フリントロックなど旧式の銃で見られるはずの「一瞬の遅れ」が描写されていない。おそらく演出上のインパクトを狙ったものだと思うし、フィクションなのだからそれを重視するのは当然だと思うが、実際のマスケットの挙動としてはいささか微妙。
ただ、この同じ作品でも別の場面をチェックすると、以前のエントリーで述べた「火皿の炎が上がってから銃弾が発射されるまで」のタイムラグがきちんと描かれている。分かりやすいのが
こちらのシーン。見ての通り、フリントが当たり金にぶつかって派手に火花が飛び散っているが、銃身からはまだ煙も銃弾も出てきていない。もちろん作中ではこの後に火皿から煙が立ち上り、その一瞬後に銃口から炎と煙が出てくるようになっている。
最初に紹介した場面では発射すると思っていなかった銃が撃たれる、という驚きを視聴者に与えるために一瞬にして銃口から炎が飛び出したが、こちらの場面は既に1発撃った後の場面であり、視聴者もこの銃が撃たれることが分かっているから、実際のフリントロック・マスケットの挙動に合わせた描写にしたのだろう。前に紹介したアニメにしても、あるいはこの作品にしても、こういったマニアックなシーンがきちんと描かれているのは面白い。
ただ銃身が4本あるのはかなり多すぎ。例えば海軍用のブラウン・ベスなら銃身1本で重さは4キロほどあった。4本もの銃身がある銃なら重さは15キロ近くあったのではないか。重すぎて支えがなければ発射できなかった
初期のマッチロック・マスケットほどではなかったかもしれないが、特にアニメのように女性が撃つとなるとなかなかしんどいものがあったんじゃなかろうか。
また、上の絵だと分かりづらいが、このマスケットは銃身ごとにフリントロック機構が備え付けてある。見分けやすいのは
こちらの絵で、銃の左側だけで2つのフリントロック機構があるのが見える。当然、反対側にも同じものが付いているのだろう。点火機構をある程度まとめていれば、その分だけ軽量化を図ることができると思うが、そうした発想では作られていない。
実際、複数の銃身で1つのハンマーを共有するような銃もある。
こちらの動画にあるようなメカニズムだ。この銃は2本ある銃身(ダブルバレル)がリボルバーのように回転する。1つ目の銃身を上に持ってきて発射した後で、ハンマーを起こし、バレルを回転させて未発射の銃身を上にすると、再び銃を撃てることが、動画を見れば分かる。一発撃った後にバレルをぐるりと回すという、実に中二病感あふれる挙動が可能なわけで、
ウィンチェスター・ライフルを一回転させて再装填するのと同じくらい恰好よく銃を扱うことが可能に見える。
とはいえこの銃も、アニメに出てくるクワドラプルバレルほどではないにせよ、実用性は非常に怪しい。バレルを回転させるためにはその回転軸になる細い棒などが使われているわけで、うっかり乱暴に扱うとこの棒が曲がるなどして故障してしまいそうな気がする。また使わない方の銃身は下に回っているのだが、この状態だと火皿は真下に向いている。何かのきっかけで火蓋が開いてしまえば、皿の中にいれた火薬が全部零れ落ちてしまい、その後でバレルを回転させて引き金を引いても点火できないという、とても悲しい事態が待っている。
もちろんフィクションにおいて重要なのは実用性ではなく見映え。ウィンチェスターなどは、
昔から多くのフィクションでグルグルと回転させられてきた。その意味ではアニメで使われている銃も「映え」重視と言える。回転こそしないものの、4本の銃身を並べただけで何だか強そうに見える点を重視したと考えれば、多少重かろうとも気にしてはいけない。迫力があればそれでいいんだよ、という理屈だろう。
でもこの銃、もう一つ気になる点がある。引き金と各フリントロックとの関係だ。作中では計4発の銃弾が発射されているため、各銃身に装填されていた弾丸が順番に撃たれたと考えるのが最も順当なのだが、それにしてはおかしな描写がある。
一つはこちら。4発目を撃つシーンの直前なのだが、見る限り画面に入っている2つのフリントロックはどちらもハンマーが起きたままになっている。つまり少なくとも2本の銃身についてはまだ発射されていないように見えるのだ。これは矛盾だ。
もっと明確におかしいのは、先ほども紹介した
こちらの場面。この絵では左側の2つのハンマーがどちらも落ちているのが分かるのだが、実はこのシーンの冒頭ではどちらもハンマーが起きている。銃手が引き金を引くと、まずは下の方にあるハンマーが落ち、僅かに遅れて上のハンマーも落ちる様子が分かるのだ。どうやらこの銃は引き金が4つのハンマー全てと連動しており、引き金を引くとハンマーが全部落ちるようになっているらしいのだ。
でもそれは変。もしそういう機構の銃なら、最初に引き金を引いた時点で4発とも弾丸が発射されていたはずで、4回に分けて撃つことはできない。1発撃つごとに弾込めをしていたなら4回に分けて撃てるが、その場合は次弾を撃つまでの時間がもっとかかるし、そもそもクワドラプルバレルを使うメリットがない。せっかく変な形状の銃を出したのだから、そこまで詰めた描写をしていればもっと面白くなっただろうに。
とまあ細かいツッコミを入れると火薬兵器に関しては色々とおかしな部分もある作品なんだが、そもそも18世紀に
機関銃みたいなのが出てきている時点で、野暮なことは言わない方がいいんだろう。
ちなみに真田信繁が活躍した17世紀初頭ではなく、18世紀の設定にしてその末裔らしき者を出している理由は何だろうか。
海賊の黄金時代と言われるのは17世紀半ば以降なので、もう少し早い設定でもいいような気がする。昨中に出てくる女海賊たちは伝説とか史実の女戦士や海賊たちの名を採用しているのだが、中でも有名な女海賊の
メアリ・リードと
アン・ボニーの時代に合わせたのだろうか。
あとこの作品は
先に米国で配信されたようだ。で、奇妙なのは4話に出てきた町の名前。日本語版では「ドレスデン」近くの「リバーオーバーシュタイン」という架空の町になっているが、英語版だと(wikipediaを見る限り)実在する
「イダー=オーバーシュタイン」が舞台だったようだ。こちらはラインラントの町なので、水路で行くならラインからナーエ河へと遡る必要がある。英語版では実名を使ったのに、日本語版で架空の名になった理由は分からない。
スポンサーサイト
コメント