21シーズン開幕

 昨年までより1試合増えることになるNFLのレギュラーシーズンが開幕。昨シーズンの優勝チームであるBuccaneersがCowboysを迎えて行われたゲームは、際どい勝負となった。オッズはBucsの-8.5とかなり前者の有利と見られていたのに対し、実際の結果は2点差のBucs勝利。Bradyはこれで49試合目(プレイオフ含む)の4th Quarter Comebackになった。
 QBの数字を見るとBradyのANY/Aが7.38なのに対し、Prescottは6.88と、点差と同じく僅かにBradyが上回った。ただしBradyのインターセプトのうち1つは前半終了間際のHail Maryであり、これをただのパス失敗と見なせば彼のANY/Aは8.28にまで跳ね上がる。パス成績の差に比べると点差は小さかったと考えてもいいだろう。Bucs側のファンブルロストが2と、Cowboys(ゼロ)とのターンオーバーレシオで負けていたのが、この点差の原因と考えられる。
 EPAで見るとまた少し違った景色が見えてくる。CowboysのEPA/Pは0.13と、Bucs(0.05)より上。特に3rd & 4th downsでは0.26とかなり高い数字を出している(Bucsは0.01)。QBのドロップバックだけで見てもPrescottの0.22に対してBradyは0.16だ。普通こういう数字になるとゲーム的にはCowboysの方が有利なのだが、その優位性を潰したのがドライブスタート地点。Buccaneersが平均して自陣32.7ヤード地点からドライブを開始できたのに対し、Cowboysは26.9ヤード地点にとどまった。13回のドライブでCowboysは計75ヤード分、Bucsより不利な場所からドライブを始めたわけで、最後はこの差が埋められなかった。
 この場合、Bucsの勝因はキッキングチームと言っていいかもしれない。特にキックオフは1回もリターンをさせておらず(Cowboysは3回92ヤードのリターンを許している)、KのSuccopではなくPで飛距離を出せるPinionにキックオフを全て任せた効果が出たと考えていいだろう。彼はパントでも平均49.3ヤードを稼いでおり、こうした地味な陣取り合戦が最終的に勝利につながった格好だ。ちなみにBucsは昨シーズンもキックオフのTouchback率でリーグ2位となっており、とにかくリターンさせないというスタンスを取っている。この方法は相手オフェンスを押し込むうえで最善ではない(昨シーズンのディフェンススタート地点でBucsは全体13位と平凡)が、ローリスク・ローリターンな戦術ではある。
 もう一つ、これだけ僅差のゲームになると、個別のプレイの判断の影響も大きかったと考えられる。一例がこちらのツイートにある、第3Qに敵陣3ヤードまで攻め込んだところでの4th downの選択だろう。この時点でFGを蹴っても勝利確率は20%にとどまるのに対し、Go for itを選べばそれが24%になる。確かにこの局面ならGo for itに失敗しても相手に自陣深くからのオフェンスを強いることができるし、成功すればTDを取って逆転の可能性がかなり高まる。だがCowboysはFGを蹴り、5点差から2点差に詰め寄ることを選んだ。
 こちらのツイートでは「この局面ではどちらが正しいかを理解するのは極めて楽だというのに、何百万もの金をかけている作業でそれができないとは」と批判している。NFL's best fourth-down decision-makersという記事を見る限り、McCarthyはリーグの中でも積極的にGo for itを選ぶ方のHCだと思われるが、この局面について言えばいささか腰の引けた対応だったかもしれない。
 なおこのゲームがキャリアで300試合目となったBradyはGronkowskiに2つのTDパスを投じ、これで両者が絡んだTDパスの数は100の大台に乗った。QBとTEの組み合わせとしては過去最多であり、他のレシーバーを含めてもPeyton ManningとMarvin Harrisonが持つ114TDの次に多いという。さすがにこの114という数字に追いつくのは難しいと思うが、TEでこれだけの記録を打ち立てたのは見事というべきだろう。
 Bradyがあと抜くべき記録としてはレギュラーシーズンの最多パスヤードがある。現時点ではBreesの80358ヤードに対してBradyは79583ヤードであり、あと3~4試合もあれば抜くことが可能と思える数字だ。彼がいつまでプレイするつもりかは分からないが、引退時にはとにかく色々な記録を残して去っていくのは間違いない。でも現時点での好調ぶりを見るに、本当に45歳(2022シーズン)が最後になるのかどうか、むしろそちらの方が関心を集めそうな気もする。

 開幕ゲームが終わるとすぐその成績が今後の予想に反映されたのは、FiveThirtyEightの出している2021 NFL Predictionsだ。興味深いことにElo Ratingsは勝ったBucsが10ポイント加算されたのに対し、負けたCowboysも2ポイントではあるがプラスされている。 ゲームとしては負けたが内容はいいと評価されたのかもしれない。一応、この時点でCowboysのEloは全体12位、NFC東ではトップをキープしている。
 もう一つ興味深いのは、個別の試合に付随している評価だ。それによると開幕戦の両チームの質は85と高く、一方ゲームがプレイオフに影響する度合いは48となっている。全体としてゲームの質は67だそうで、第1週のゲームの中では6番手の評価を受けている。これより高いレベルの試合が期待できるのは68のSteelers @ BillsとSeahawks @ Colts、72のDolphins @ Patriots、75のBrowns @ Chiefs。そして76のPackers @ Saintsだ。残念ながらSNFのBears @ Rams(54)とMNFのRavens @ Raiders(64)はそこまで評価は高くない。
 ゲームの質は両チームの質が高く、プレイオフへの影響が大きいものほど高くなるようだ。開幕戦はプレイオフへの影響は高くないが、両チームの質が高かったためにゲーム自体の評価も上がった。Dolphins @ Patriotsはチームの質はそれほどでもない(54)がプレイオフの重要度が高い(89)事例。どちらも高いのはPackers @ Saints(それぞれ80と72)だ。試合前にどのゲームに注目するかを考えるうえで、参考になりそうなデータである。
 ちなみに両チームの質がかなり高いゲームとしては第2週のSNFであるChiefs @ Ravens(93)、第3週のBucs @ Rams(92)、第5週のSNFであるBills @ Chiefs(95)、第9週のPackers @ Chiefs(94)、第14週のBills @ Bucs(96)など。この数値がゼロという試合はいくつかあるが、100は存在しない。もちろんこれらの数字はシーズンが進むにつれて変化していくだろう。あくまで現時点で予想される質の高そうなチーム同士の対戦としてはこんなものだと思っておけばいい。

 一方で気になる問題もある。Covid-19だ。この試合には6万5566人と、ほぼ満員の観客がやって来たそうだが、こちらの報道によるとBucsはワクチン接種の証明を観客に求めなかったそうで、屋外スタジアムとはいえ空気感染が言われているデルタ株が広まる中でマスクをつけない客もいる状態は、あまりよろしくないように見える。
 少し頭打ちになりつつあるとはいえ、米国のCovid-19の感染者数は高いレベルにある。ワクチン接種状況を見ても米国は100人あたり112回と日本(111回)と比べてほぼ同じ。州別ランキングを見るとフロリダ州のワクチン接種度合いは28位と真ん中あたりだ。正直、あまり油断していい状態には見えない。
 日本国内では引き続きこうしたイベントには厳しい目が向けられており、例えば12月に予定されていたサッカーのクラブ・ワールドカップの日本開催は見送りが決まった。米国とは対照的。どちらがいいか悪いかではないが、このあたりのリスクは今年も視野に入れておいた方がいいんだろう。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント