先発争い

 NFLではプレシーズン最終週を前にいくつかのチームで先発QB争いが決着しはじめた。最終週には先発選手は出場しないことが多いので、この時点で決めておくチームが出てくるのは不思議ではない。
 まず1つはJaguars。HCのMeyerは今年のドラフト全体1位指名であるLawrenceを開幕週の先発に指名した。まあこちらは予想通りだろう。昨シーズンまで先発だったMinshewとの間で先発争いを行う形になってはいたが、よほどのことがない限りLawrenceの先発になるだろうと思われていたし、記事でも「時間の問題だった」と記されている。実のところLawrenceのプレシーズンの成績はパス成功率(62.5%)は凡庸、ANY/A(4.66)は悪いといった具合なのだが、Minshew(58.6%と3.03)がさらにひどいため、そもそもチーム側に選択肢がなかったとも言える。
 Minshewには熱心なファンがいるものの、彼の2年間の成績はDAKOTAが0.059で500プレイ以上のQB35人中26位、EPA/Pは0.048で同じく26位と、リーグでも下の方に沈んでいる選手だ。プレシーズンのデータは母数が少なすぎて参考にならないが、それでもMinshewの成長に期待するよりドラフト全体1位という事前評価に賭けてみるのは、決して非合理な考えだとは思わない。あとはJets同様、ルーキーを支える選手層の薄さがどのくらい影響するかだが、そんなことを気にするより早く実際にプレイさせて彼の実力を見極める方が有意義だろう。
 またBroncosではBridgewaterがLockとの競争に勝った。この両者に関してはレギュラーシーズンの実績があるので、母数の少ないプレシーズンよりもそちらを参照すべきだろう。負傷から復帰した後のBridgewaterのEPA/P(0.093)はLock(0.048)の倍近くに達している。プレイの母数はどちらも1000未満と限定的だが、それでもこれだけの差があれば普通はBridgewaterを先発にする。3年目のLockに有利な点があるとしたら成長の余地くらいだが、それを踏まえてもBridgewaterの方がいいと判断されたのだろう。
 とはいえBridgewaterは基本リーグ平均並みのジャーニーマンに過ぎない。おまけにBroncosが彼を手に入れたのはドラフト直前で、それを見てもBroncosがBridgewaterにそれほど大きな期待をかけていたようには思えない。なのにそんな選手との競争に敗北したのだとすれば、Lockはよほど残念なできだったのではないか、と考えたくなる。同時にBroncosはなぜドラフトで指名できたJustin Fieldsを見逃したのかという批判も出てくる。
 Bearsでは既にHCのNagyが開幕の先発はDaltonだと発言している。Saintsでも一応先発競争はなされているが、実際にはあまり盛り上がっていないようで、答えはほぼWinstonで決まりといった空気が流れている。実績から見ても足元のプレイを見ても、Winstonが有利なのだろう。前に書いた通りこのオフにFAになる選手たちの中で最もいいQBはWinstonではないかと私は思っているし、だから足元の状況も想定通りと言える。
 49ersについてはHCのShanahanが韜晦を続けている。最近では先発QBについて「とてもいいアイデアがある」と発言したそうだが、誰を先発にするかについてはまだ述べていない。おかげでQBをローテーションするのではないかとった臆測まで飛び出したようで、こちらの記事では「それはぞっとするほど拙い決断だ」と批判を浴びせている。おそらくそんな決断はしないと思うが、実際に開幕先発が明らかになるまではいろいろと思惑が飛び交うのだろう。
 そしてもう1つ、Patriotsの先発争いもなかなか興味深い。NewtonがCovid-19のプロトコルによって練習に出られなかった時期にJonesがかなりいい活躍を見せたようで、一部のビートライターはJonesが開幕先発にふさわしいと書き始めている。ただその後で練習に復帰したNewtonのプレイが安定していたのに対し、Jonesはアップダウンがあったためか、今のところはまだNewtonが優位に見える。
 個人的にPatriotsの場合、どちらを先発させてもおかしくないと思う。昨シーズンに比べて全体の戦力がアップしているという判断なら、リーグ平均並みのQB(Newton)でもプレイオフには出られると判断する可能性はあるし、であれば実績があり予測の効くベテランを使いたいと考えてもおかしくない。ただ一方でNewtonではSuper Bowlまでたどり着ける可能性が低いのも事実。一方Jonesを使う場合、彼が一流クラスのQBならNewtonより成績が上向くと期待できるが、そうでなかった場合はプレイオフにすら届かないリスクもある。
 目標はプレイオフではなく優勝であるべき、逆に優勝できないならプレイオフに出ても無意味、と考えるならJonesを使う方がいい。でもプレイオフに出なければそもそも優勝はできないのだから、まずはそこを優先せよとの理屈もある。個人的には上位指名のルーキーQBはできるだけ早く使い倒すべきと思っているのでJonesの開幕先発で全然OKなのだが、チームの判断がどうなるかはわからない。

 それ以外でちょっと面白い動きだったのが、RamsとPatriotsのトレードだ。当初、RamsはSony Michelをもらい、Patriotsは来年の5巡と6巡の指名権を手に入れると報じられた。ただしこのトレードには条件があり、Ramsが4巡の補償ドラフトを手に入れた場合、Michelの対価はそちらに切り替えられるという。
 条件付きのトレードはNFLでは珍しくない。Wentzのトレード条件がそうだし、Patriotsも何年か前にCollinsをトレードに出した時は補償ドラフトを絡めたものだったので、補償ドラフトが手に入らない時の条件がつけられていたという。ただ、今回のトレードでは数時間後になって「ルール変更により補償ドラフトを交換することは禁じられている」という理由で条件は変更。来年の6巡と再来年の4巡という形で決着した。
 実のところ、当初の「5巡&6巡もしくは4巡補償」という報道に対しては、前者の方が価値は高いのになぜBelichickがこれを受け入れたのかという疑問の声も出ていた。実はRamsがこの補償ドラフト権を手に入れるのは難しいとBelichickは想定しているのではないか、との推測もあった。結果、蓋を開けてみるとPatriotsは当初の想定より1年遅れるものの、1巡上の指名権をゲットしたわけで、結果こんなツイートも出てきた。
 実際、このトレード内容の変更については「Patriots側により有利」という見方がある。トレードがなければPatriotsがレギュラーシーズン前にMichelを解雇した可能性は高く、その場合は補償ドラフトすら得られず、デッドマネーも膨れ上がっていた。Over The CapのFitzgeraldが書いたRams Trade for Sony Michelを見ても、当初報道の時点でこのトレードは「PatriotsとMichelにとって勝利、Ramsはコストに見合う活躍をしてもらう必要あり」との評価だ。
 なぜRamsは払いすぎと言われているのか。どうやら「6日以内に大勢のRBがFAになるであろう」タイミングでドラフト権を差し出すような決断をした点が問題視されているようだ。もちろんRams側にしてみればCam Akersの負傷という事情があったのだろうが、彼が負傷してから1カ月も引っ張ったうえで、最終カットの前にトレードに応じるのはいささか意味不明なのは確かだ。
 もっともこれでBelichick大勝利とは思えない。そもそもRBのMichelを1巡で指名した時点で彼は失敗しているわけで、1巡を費やした選手がルーキー契約期間中すら持ちこたえられず、4+6巡で引き取られていったのだから、トータルではマイナスだろう。ただ彼はサンクコストの切り捨てに躊躇しない人間なので、今の時点で得られる最大の利益をこのトレードから引き出すことに注力したのだろう。その意味ではPatriots的にはいいトレードだった。
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