RBs don't matter?

 RBs don't matterというフレーズについては前にも紹介したことがある。RBの成績はプレイコールやブロッカーの能力、あるいはディフェンスの対応などによって決まるところが大きく、RB自身の能力によって左右される部分は限定的、という主張だ。
 例えばSummer School 2020: What does “running backs don’t matter” really mean?という記事の中には、RBの平均獲得ヤードがフィールドポジションとディフェンスのボックス内人数でかなり決まってくることを示す図が掲載されている。どのRBがボールを持つかではなく、別の要因によって彼らの成績が大きく左右されていることを示す一例と言えよう。
 では本当にRBは問題にならないのだろうか。リーグトップのサラリーをもらうRBと、いわゆるストリートFAになっている選手との間には、プレイ結果を左右するほどの差は生じないのだろうか。実は少しだがRBによって差が生じる、との主張がある。
 Michael Lopezが昨年11月にアップしたDon’t running backs matter?がそれ。NFLは最近、シーズンオフにBig Data Bowlというものを開催しているのだが、そこで出てきたアイデアを使い、本当にRBは誰であっても変わらないのかどうかを分析したという。
 使っているデータはNext Gen Statsのものだ。個々の選手にタグをつけてその動きを追ったこのデータを使って新たに作られたのが、Expected Rushing Yards(xRY)という指標。ブロッカーとディフェンダーの相対的な位置、速度、向きに基づき、あるランプレイでボールキャリアがどのくらいのヤードを稼げるかを算出したものだという。RB本人以外のプレイヤーが果たす役割をすべて考慮に入れたうえでの期待値であり、後は個々のRBの数値と比べれば彼らが期待を上回ったか、あるいは下回ったかが分かる。
 問題は、このデータで期待値を大きく下回るような選手は、翌年ほとんどプレイさせてもらえない点にある。Lopezによれば2018シーズンにRYOE(Rushing Yards Over Expected)が大きかったBarkleyやChubbといった面々は翌年も200回を超えるボールキャリーをさせてもらっていたが、この数字が大きくマイナスになった選手たち(BlountやMcCoyら)は大幅に、もしくはゼロまで、プレイ回数を減らされた。RBs don't matterには「シーズンごとにコンスタントに高い成績を残すRBはいない」という意味も含んでいるのだが、それを調べたくても十分なデータが揃わない面があるという。
 では同じシーズン内でランダムにプレイを2つに分割し、その相関を調べるとどうなるだろうか。どうやら高い相関ではないがそこそこの相関があった。またかなりの度合いで特定の選手(上で言えばBarkleyやChubb)が上位に、逆の選手(BlountやMcCoy)が下位に来るケースが多かったという。パスと得点や勝敗の間に存在するほど密接な関係ではないが、特定のRBに「ゼロではない」レベルで成績との相関が見受けられた、というわけだ。
 ブロッカーやプレイコールの影響まで含めた成功度合いや期待ヤードといった数値は割と安定しており、それに比べるとRB個人の成績といえるYards Over ExpectationやRush Over Expectation %などは低い相関を示している。だから全体としてはRB本人以外の要素が働いていることは事実。それでもRBが誰であっても関係ない、というのは言い過ぎである。Lopezの結論を受け入れるなら、そういうことになる。

 以上の分析には問題はないのか。ある。基本データとなったNext Gen Statsの数値は、2018シーズンにバージョンアップして以降のものを使っているのだ。つまり期間が短すぎ、母数が少なすぎる可能性がある。そこでLau Sze Yuiが今年に入ってアップしたのが、Running backs don't matter: A dive back into the popular NFL analytics phraseという記事だ。
 こちらではNext Gen Statsのデータではなく、Pro Football Focusが集めているPFF presnap position charting dataを使って同じようなモデルを構築した。両者のモデルを比べたところ、かなり高い相関がみられたそうで、PFFのモデルにも一定の説得力があると想像できる。
 この記事では、どのようなプレイでxRYが高くなったり低くなったりするかについて、具体的な動画も載せて説明している。高くなるのは「前半残り2秒、自陣30ヤード以内からのオフェンス、得点差はディフェンス側が圧倒的にリード」といったケースだ。動画ではディフェンス側がパスのみを警戒して思いっきり後ろに下がっており、ランの期待ヤードは実に15.3ヤードに達している。逆のケースでは4th and 1からディフェンスがボックスに大量の選手をかき集めている場合。期待ヤードは-0.97と、リーグ平均ではロスになることが分かる。
 問題はこのPFFモデルを活用し、Next Gen Statsのデータがない時期も含めて年ごとのRBのRYOEの相関を調べた分布図にある。各シーズンごとに100回のシミュレーションを行ったところ、2018シーズン以降は(あまり高くはないが)n年とn+1年に正の相関が見られるケースが多かったのに対し、2017シーズン以前を見るとその相関がかなり低く(時期によってはむしろマイナスに)なっていることが分かった。Next Gen StatsではRBが誰であるかが多少は関係する、という結果が出ていたものの、PFFのデータを見る限り「それは最近数年にたまたま生じた現象に過ぎない」可能性が浮上してきた格好だ。
 この場合、RBが年ごとに安定した成績を出すように見えるのは、RBs don't matterが間違っていたからではなく、最近になってリーグのプレイ環境が変わった結果ではないかと考えられる。RYOEで上位に出てくるRBたちを並べてみると、確かにトップクラスのRBが並んでいるのだが、一方でプレイアクションをしばしば使うチームが並ぶなど、チームのオフェンススキーム面でも共通項が見られるのだ。
 記事では「RBが問題になるかどうかを問い質す際には、チームのスキームやQBがどれだけRBのパフォーマンスを上げているかを見なければならない」としている。RavensのようにRBを変えてもRYOEで高いパフォーマンスを継続する例があるのを見ると、そもそもxRYが本当にRBのみの実力を示しているのかどうかをもっとよく見極める必要があるのは確かだろう。それをするにはデータが足りない、という指摘はその通りだ。
 そもそもNext Gen Statsのデータは詳細を極めるあまり、ノイズをシグナルとして織り込んでいるのではないか、との懸念を前に記したことがある。その時はパスに関するデータを取り上げたのだが、同じことがこのランプレイに関するデータでも存在している可能性がある。

 結論として言うのなら、RBが誰であるかが持つ重要度はやはり低いことになろう。たとえLopezの言い分を認めたとしても、彼自身「ゼロではない」という言い回ししかしておらず、特定のRBにこだわるメリットはあるとしても限定的だ。そうではなく(より母数の多い)PFFのデータを使うなら、RBが誰であるかが問題になる度合いは、さらに低下する。少なくともRBを特定の誰かにすることによって、彼に払うサラリーが極端に上下するのはおかしい、ということは言えるだろう。
 こちらでも書いたように、RBはカレッジならともかく、プロでは重要度がかなり低くなっている。そんなポジションなのに、リーグで最も高給をもらっている選手のサラリーは16番目の選手の4倍近くに達している。果たしてこれはうまいキャップマネジメントと言えるだろうか。
 もちろんRB自身が自分の価値を訴え、高いサラリーを手に入れようとするのは当然だし、それを否定するつもりは毛頭ない。勝利への貢献度が低くても観客を沸かせるプレイができるなら、興行としては大いに成功ではないかと主張することもできる。でもMLBやNBAのように先んじてアナリティクスが広まったスポーツでは、結局各チームともそちらに寄せていくようになった。NFLだけが例外というわけにもいかないだろう。RBの受難はまだまだ続きそうだ。

 あと一つ。オプトアウトという選択肢が話題になっていたRodgersは、結局オプトアウトしなかったらしい。彼とチームの仁義なき戦いはまだ続くわけだ。
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