オフいろいろ

 NFLはニュースのない時期に再び入っている。各チームごとにミニキャンプの話題などが出てきてはいるが、熱心なファン以外にとってはあまり関心の対象にはならないだろう。あまりにニュースがないせいか、大本営がマッデンの新しいカバーに誰が選ばれたかをわざわざ記事にしていたほどだ。正直、最近は昔ほどマッデンの呪いが効いていないし、選ばれた選手自体も意表を突くものではない。本当にニュースがないからこそ報じたのだろう。
 契約問題のようにオフシーズンこそ本番と言える分野では、色々と細かい話が出ていることは確かだ。Over The Capは引き続き契約がらみのエントリーをいくつか継続的にアップしている。例えばNFLの契約リストラ(サラリーをボーナスに変更するやつ)とチームの成績を比較したものなどはその一例。リストラに走るのは5割かそれ以上の勝率を上げているチームが多く、またある程度はリストラをしているチームの方がその後の成績もいい。
 Over The Capによればデッドマネーもある程度は計上している方がいいそうで、今回のリストラについても同じことが言えるのだろう。デッドマネーを避けるために価値の下がった選手を継続して使おうとするよりも、多少のデッドマネーを計上してでもチーム全体の価値を上げていく方が、成績にはいい効果をもたらすようだ。ただしやりすぎると(というかやらざるを得ないほど追い詰められてしまうと)むしろ成績は落ちる。適度なリストラが望ましいようだ。
 ちなみにキャップに占めるデッドマネーの比率を見ると、他に比べてあからさまに多いのが5チーム(Eagles、Panthers、Lions、Rams、Saints)ある。これらのチームはさすがにチーム作りに失敗している印象だ。逆に少ない方で目立つのはColts、Chargers、Buccaneers、Browns、Bills、Packersあたり。彼らにとっての問題があるとしたら、本当は価値が下がっているベテランを後生大事に抱え込んでいる潜在的なリスクがある点だろうか。もちろん、単にチーム作りがうまく行っているだけという可能性もある。
 契約がらみではPro Football Focusに載っているチーム別のベスト&ワースト契約も、これまたニュースのない時期ならではの記事だが、なかなか興味深い。AFCで言えば、まずはColtsの最悪の契約としてWentzの名前が挙がっているのが目立つ。巨額のデッドマネーをEaglesに残してきてなおこの評価なのだから、Rosemanによる2年前の契約延長がいかにまずかったかがよくわかる。逆にMahomesの巨額契約はむしろチーム最良の契約という評価だ。QBは金額ではなく、その実力を見るべきというのがここでの要点だろう。
 NFCではそのMahomesを破って優勝したBradyがこれまたBuccaneersにとって最良の契約となっている。彼がチームフレンドリーな契約を結ぶのは過去においても見られた事象だが、足元では年齢のせいもあってか一段とディスカウントが進んでいるという評価だ。逆に彼の元同僚であるGaroppoloはチーム最悪契約の評価。49ersがQB指名に走った時点で彼はトレードかペイカットの対象になると言われていたが、そのどちらもいまだに実現していないのがこの評価の理由だろう。
 そしてもう1つ面白いのは、SaintsのHillがチーム最悪契約になっていること。彼に関しては、そもそも2020年に実質2年21ミリオンの契約を結んだこと自体がおかしいという評価である。確かに彼はそれ以前にQBとしてドロップバック15回、レシーバーとしてパスターゲット29回、さらにRBとしてボールキャリー37回を記録している。合わせてオフェンス100プレイにも達していない実績の選手が年平均10ミリオン以上をもらっている時点で異常事態だ。どうやらSean Paytonは「パスを投げられないQBに執着」しているようで、ただでさえ苦しいSaintsのキャップがHillのせいで余計に苦しくなっているのだろう。

 同じPFFにはベイズ法を使ったQBランキングなるものも載っている。ベイズ推定とは観測された事実から推定したい事柄を確率的な意味で推論することだそうで、要するに過去の実績からQBの実力を推し量ろうとしているのだろう。途中に出てくる2018年ドラフト組QBたちの予想EPAを見ても、成績の変化に応じて予測が変わっていっているのが分かる。
 興味深いのはランキングの中にGrade RkとEPA Rkの2種類があることだろう。GradeとはPFFが出している選手のGradeであり、プレイの内容を見ながら判断している点で主観的なランキングだと言える。一方のEPAはこれまでも色々紹介してきた通り。どのようなデータに基づいて計算するかによって違いはあるが、基本的に客観的なデータに基づくランキングと考えていいだろう。
 問題は、過去の実績という客観的データが、選手の実力を示すとは限らない点だ。実績数字は実際には「選手の実力+ツキ」を示している。プレイ回数が増えればツキの部分は大数の法則によって均され、実力が実績に近づいていく。それでも実績がイコール実力と言い切れないのは確かだ。もしかしたらこの選手は幸運に恵まれた結果としていい成績を残しているのかもしれない。そういう課題を修正するための手段として、実績数字だけではなくプレイを見たうえでのGrade評価を使う必要がある、という理屈は確かにある。
 問題はそのプレイを見るeye testなるものがどこまで信用できるかだ。最後は個々人の主観になるため、別のバイアスが働いてしまう可能性はある。Next Gen Statsのデータを使えばそうした懸念はないだろうが、EPAと同様にランダム要素を排除しきれないという問題がおそらく発生する。要は一長一短。それでもどちらかを信じなければならないのであれば、私は主観を排した情報の方に重きを置きたい。
 このQBランキングを見ると、GradeとEPAの順位が5つ以上ずれている選手は14人いる。そのうちGradeの方が高い選手はWilson、Mayfield、Murray、Burrow、Tannehill、Newton、Wentz、Tagovailoaの8人で、低い選手はHerbert、Prescott、Garoppolo、Roethlisberger、Winston、Goffだ。前者にはドラフト全体1位指名が4人含まれているのに対し、後者には1人しかいないなど、Gradeをつけた人間に何らかのバイアスが働いていた可能性を窺わせるような並びになっている。
 彼らのうちプレイ回数が少ない選手たちはブレが出ても不思議はない。またTannehillのようにチームが変わって成績も激変した選手、Roethlisbergerのように晩年になってプレイの質が落ちていると見られる選手も、評価のズレについては理解できる。問題は、ベテランでありながら主観と客観のズレが大きな残りの選手たち、具体的にはWilson、Newton、Wentz、Prescott、Winston、Goffの6人だ。彼らはなぜここまで主観と客観で評価が違ってきているのだろうか。
 前者3人はSuper Bowlに出たか、あるいはSuper Bowlを制したチームの主力QBだったという特徴がある。だが同じことはGoffにも言えるわけで、もしSuper Bowlの後光効果があるとしても、なぜGoffだけはその効果が反映されずにEPAよりGradeの方が低い評価になっているのかを説明する必要がある。逆に彼らについては主観の方が正しく、客観データはツキの偏りによって歪んでいるという評価も可能ではあるが、WilsonやNewtonのように6000近いプレイを記録しているQBも含めて偏りの極端なQBが6人もいるというのは説得力が今一つだ。
 結局のところ、GradeとEPAの差について完全に説明するのは無理なんだろう。後はどちらに力点を置くか、あるいは両方を合わせたデータ(Total Rk)を見るかだ。実績重視の立場からすればGaroppoloは過小評価されている一方、NewtonのGradeはちと高すぎる気がする。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント