Julioトレード

 事前に話題となっていたJulio Jonesのトレードが現地6日に明らかになった。というわけでフルーリュスに関する史料の掲載は1回休み。トレード相手は有力候補の1つに名前が挙がっていたTitansで、FalconsはJonesと2023年のドラフト6巡を差し出し、代わりに2022年のドラフト2巡と2023年の4巡をもらうことになる。2巡程度と言われていた対価に少し色をつけたという感じであり、おそらくこれが最もFalconsにとって有利な条件だったのだろう。やはりWR市場の需給が緩んでいると思われる。
 Fitzgerald-Spielbergerのドラフトバリューチャートで計算するのなら、Falconsが差し出したのはJonesプラス315点、Titansは1038点プラス570点を供出したことになり、その差1293点は全体29位(つまり1巡下位)指名に相当する。実際にはTitansの成績によってこの点数は大きく変わるが、昨シーズンのTitansが地区優勝、SRSで見るとリーグ13位だったことを踏まえるなら、Falcons側にとっては期待値より低い指名順をもらう可能性が高そうに見える。
 RapoportによるとTitansは2021年のサラリー15.3ミリオンと、2022年以降の契約を引き継ぐことになり、Falconsは7.75ミリオンのデッドマネーを今年計上するそうだ。Falconsは来シーズンに15.5ミリオンのデッドマネーを計上しなければならないわけで、まだまだ負担は大きいが、少なくとも今シーズンについてはこれで15.3ミリオンのスペースを生み出すことができる形だ。こちらの主張によれば今回の件はあくまでJonesがトレードを望んだために起きたのであり、キャップは原因ではなく結果ということだそうだが、いずれにせよFalconsが一息つけるのは間違いない。
 一方Over The Capによると、Titansのキャップスペースは3ミリオン強しか空いていない。このまま何もせずにトレードしてしまうと、その時点でキャップオーバーになるため、それを避ける対応が必要だろう。幸いにしてTitansには契約リストラ(サラリーをサイニングボーナスに変更すること)の余地が大きいベテランが数多くいる。例えばTannehillの場合、リストラをすれば最大15.6ミリオンほど、Byardなら7.7ミリオン弱、Lewanなら約7ミリオン、Henryなら6.3ミリオン強のキャップスペースを作り出すことが可能だ。Tannehillと交渉するだけでJonesとのトレードは容易に成立する。
 Jones側にとってもTitansは悪いトレード相手ではない。Tannehillはこの2年間だけ見るとMahomesやRodgersすら上回るDAKOTA(0.177)をたたき出している。以前にも書いた通り、EPA/Pを+0.060くらいしてくれるなら、TannehillのEPA/Pは0.353とリーグでぶっちぎりのトップになる。同時期のRyanのEPA/Pが0.124にとどまっていたことを考えても、Jonesにとってはむしろ望ましい移籍先に見える(もちろんTannehillが今の好成績を続けることが前提だが)。
 実際には単にJonesの成績を足し上げるだけでなく、チームの実情に合わせて彼がもたらす効果をきちんと見定めた方がいいだろう。それをやってみたのがOver The Capであり、What Teams Might Make Sense to Trade for Julio Jones?という記事ではJonesが加わった時のトップ3WRの成績がどのくらい上向くかについて分析している。記事の1番下にある表がわかりやすいが、PFFのグレードを元に、どのチームが彼の追加によってプラス効果を得られるかがわかる。
 それを見るとTitansは全体10位に位置している。前に紹介した有力移籍先の中でTitansよりプラス効果が大きいのはRavensとColtsだ。彼らの方がキャップスペース的にはTitansより余裕があるようだが、実際にはよりキャップのきついTitansの方がおそらくより高い条件をFalconsに提示したわけで、それだけTitansはwin nowモードに入っているのだろう。
 問題は有力候補でないチームの中に、一段と大きな効果が期待できるチームがあった点だろうか。特にトップのSeahawksについては、ファンの1人もJonesのトレードを前向きに評価していたのだが、残念ながら実現はしなかった。逆に有力候補とされていたチームの中でもPatriots(下から4番目)やChargers(同10番目)はあまりプラス効果が大きくなかったようで、これらのチームがトレード相手にならなかったのは、もしかしたらそういう背景があったためかもしれない。

 以上のような背景を踏まえて、さてそれではこちらの記事にあるwinnerとloserに関する分析はどのくらい妥当なのだろうか。まず前者として最初に名前が挙がっているのはHenryだ。確かにパスオフェンスが強力になる分だけRBの負担が減る、という考えはありそうだが、RBがチームの勝敗に与える影響が限定的である点を踏まえるなら、ここでわざわざ彼の名を出す必要はなさそう。2000ヤードを走ったRBだから言及されたのだろうが、今の時代、この2000ヤードという数字自体にあまり意味があるとは思えない。
 むしろ2人目に出てくるTannehillの名を1番上に持ってきていいのではなかろうか。30代になっているとはいえJonesにはまだ力があると見られているし、怪我でプレイ機会が限定されない限り、QBにとっては成績を上向かせることができる貴重なレシーバーの1人だろう。Titansに来て復活したTannehillにとって、チームがきちんとサポーティングキャストに投資してくれることが明らかになった点もプラス材料だ。
 続くFontenot(FalconsのGM)とBrown(TitansのWR)については、個人的には微妙なところ。Fontenotは確かにキャップスペースを作ることができたが、一方で優秀な選手を失っている。Brownは大ファンであるJonesと一緒にプレイできるのはプラスだが、彼の方にパスが飛んでくる確率は下がりそう。それに比べればFalconsの2番手WRの地位を確実にできそうなGageの方がより明確にwinner扱いしてもいい対象だろう。
 一方、loser側についてはあまり違和感のある選択はない。1番のホットターゲットを失うRyan、同じくオフェンスの重要な駒が消えるFalcons HCのSmithにとって、これはマイナスだろう。同じくJonesを狙っていたと言われるColtsにとっては、彼を手に入れ損ねるのみならず同地区ライバルで彼がプレイすることになるのだから、プラス要因はあまりない。どこかの段階で新しいQBへの切り替えを迫られそうなShanahanにとって32歳のWRの位置づけは難しいところだが、いないよりはいた方がプラスだろう。そしてTitansと対戦する全チームのCBがloserになるのも仕方ない。ここで紹介されている2007年のRandy Moss並の活躍をJonesができるかどうかは不明だが、やっかいな相手なのは間違いない。
 また、ESPNのライター陣が今回のトレードについて評価した記事も確認してみよう。まずトレードの評価についてだが、全体にFalconsの方が低く(といっても極端に低いわけではない)、Titansはより高めの評価となっている。これは割と妥当なところだと思う。次にTitansのJonesとBrownsというWRコンビがリーグでどのくらいの位置に来るかという質問だが、全員かなりの高評価だ。
 そして最後に、Titansの戦力はAFC内でどのくらいか、という問いもある。どの回答者もトップにChiefsを置いているが、最も高い評価だとそれに匹敵する水準となり、逆に低い方だとBrowns、Bills、Ravensという第2グループに続く第3グループの先頭にあるという見方だ。確かにTitansの昨シーズンを見ると、オフェンスは元々高水準だったがディフェンスが冴えなかった状態。Jonesが来たからといって、そのディフェンスの改善には直結しない。
 そもそもQB以外のポジションの選手がもたらす効果は限定的、というのがこのスポーツの特徴だ。Jonesが有能であり、彼を手に入れることにメリットがあるのは間違いないとしても、それだけで一気にリーグトップのチームになると期待するのは虫が良すぎるのだろう。
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