オプション、UDFA

 NFLではドラフトに続いてUDFA契約の話が出てくるのだが、その前に現地5月3日が期限だった2018年ドラフト1巡選手の5年目オプションの動向が固まった。見ての通り、上位陣では大半がオプションを行使しているのに対し、下位の方には見送られた選手が多い。Fitzgeraldによるとトップ10でのオプション行使は過去最多だったそうだ。
 こちらでも指摘した通り、今年から5年目オプションのルールは変わっており、オプションを行使した時点で5年目のサラリーが保証される。その意味ではチームにとって去年よりハードルが上がったわけだが、それでも行使したチームが多かったのは、それだけまだ選手への期待感を抱いているところが多いためかもしれない。もちろん、ルール変更によってあまり活躍できていない選手のサラリーが安くなっている点も、チーム側にとってはオプションを行使しやすくなる一因だろう。
 実際、前にも紹介したこちらの表を見ると、全体として上位陣の方が高い実績を得ている。もちろんその分だけ彼らのサラリーは高くなっているのだが、コストに見合うと判断された選手が多かったのだろう。一方、行使されなかった9人のうち7人はオプション金額の評価が最低レベルにとどまっており、要するに期待外れだった様子が窺える。
 PatriotsではWynnのオプションが行使された一方、Michelについては行使が見送られた。どちらもプレイにあまり参加しない結果となったが、前者は怪我していない時は安定したLTとして機能していたのに対し、後者は出場時の成績も冴えなかったのが理由だろう。PatriotsのRun Block Win Rateはそう悪くないだけに、Michelについては同情の余地がなかったというわけか。当時のドラフトでもMichelの指名には疑問を述べておいたが、悪い予感が当たった格好だ。

 続いてUDFAの話だが、なぜかPatriotsがUDFAと1人も契約していないことが話題になっている。他のチームはすべて何かしらUDFAと契約している。こちらのページを見る限り、Patriots以外では少なくとも1人、多ければ10人以上のUDFAを手に入れているわけで、その中でいまだにゼロというのはかなり目立つ。
 なぜUDFAを取らないのか、こちらの記事ではいくつかの要因を想像している。1つめは今年のルーキー全体の人材プールが薄いこと。Covid-19の影響もあって今年はドラフトに名乗りを上げるカレッジの選手が少なく、そのうち一定数が既にドラフトで指名済みということを考えると残された選手層はかなり薄い可能性がある、と判断されたのかもしれない。2つ目は既にPatriotsのロースターが十分なデプスを確保している説。ドラフト時点で必要なコマが揃っており、これ以上の選手をとっても彼らがロースターに残る可能性はほとんどないという理屈だ。
 3つ目は今月に開かれるルーキーミニキャンプだ。ここではルーキーFAをトライアウト目的で呼ぶことができるため、それを見てからUDFAの契約をすればいい。そして4つ目が財務的な問題。UDFAはドラフトと異なり、完全な自由市場である。ほしい選手に対してはそれだけ契約額が上がりやすい面があるようだ。Over The Capによると、過去2年において77人の選手の保証額がドラフト最下位の保証額より高くなる現象が生じているという。投資効率を考えてチーム作りをするPatriotsにとって、UDFAは実はあまり魅力的でない投資対象になっているのかもしれない。
 もうひとつ、こちらのツイートによれば、去年の経験も影響しているという。Covid-19の影響で想定していたプレイヤー数の上限が変わってしまい、Patriotsは選手数を上限内に収めるため何人かUDFAをカットすることを強いられたそうだ。彼らの中には保証額分のサラリーをもらっていた選手もおり、チームに何の貢献もしなかった選手にそれだけのサラリーを投じてしまったわけだ。同様のルール変更がないかどうかを見極めるため、今年のPatriotsはUDFAの採用を手控えているのだという。
 それにしてもこのUDFAに対する対応まで含め、今年のPatriotsのチーム作りは例年と逆を向いている印象が強い。いつもは積極的に動かず、むしろ補償ドラフト狙いの印象が強いFA市場で、今年は初日から多額のサラリーを注ぎ込んだ。ドラフトでも例年なら山のようにトレードダウンする彼らが今年はトレードが1回だけ、それもトレードアップだった。そしてUDFAだが、上に紹介したOver The Capの記事によると過去2年にPatriotsはCowboysに次いで多くのサラリーをUDFAに注ぎ込んでいた。この部分についてもPatriotsの今年の対応は過去と違っているわけだ。
 なぜここまで例年と逆の対応に走ったのか。チームを大きく変える必要があったからかもしれない。これまでのPatriotsのチーム作りはいわば強者の手法だった。既に使えるQBがいたからこそ、それを前提として投資効率のいい選手を集めてきた。だがその前提が崩れた以上、同じ方法を取っていては勝てない、という理屈だろうか。もちろん、これがうまく進むかどうかはこれからだが、この冒険がどんな結果をもたらすかについては興味深く見ていきたい。

 一方、リーグ内では2人の一流QBがチームと揉めている。以前からトラブっていたWatsonは、結局ドラフト期間中に大きな動きはなし。そもそも動ける状態にない面もあるだろうが、それでも彼とのトレードに関心を持っているチームはいまだに存在するらしい。正直、法的な問題がどう進むかが見えてこないと、こちらの方は誰もが動きづらいのではなかろうか。
 もう一つ、ドラフト直前に浮上したRodgersの問題は、彼が引退を考えているという報道にまでつながっている。彼がGMの解雇を求めているとの話も出てきており、実にきな臭い状況だ。もちろんトレードの噂も消えていない
 Bill BarnwellはGM解雇について「あり得ない」と正面切って批判しているが、こちらの記事についているコメントを見るとRodgersを擁護する人も一定数存在する。悩ましいのは、GMの代わりを探すのに比べてQBの代わりを探すのはとても難しい、という点だろう。今回のドラフトのようにQB豊作と言われる年でも、あたりを引き当てる確率は必ずしも高くはない。どちらが重要かと言われると、GMよりQBだと答える人が一定数いるのは理解できる。
 だが一方、Rodgersはパスを通すことに関してはプロだが、組織作りという点では素人だ。その素人の意見を聞いてプロを放逐するのがチームにとっていいことかと言われると、おそらく違う。ゲーム中のプレイについてRodgersの意見を聞くことはまだ理解できるが、チーム作りの在り方について彼の意見が通るような事態は拙いという判断もまた当然だ。おまけにRodgersは今シーズン終盤には38歳を迎える。一般的なQBが活躍できるほぼ最後の年だ。すぐにもいなくなる可能性がある選手の横車を通してしまっていいものだろうか。
 それにしてもこのチームのQBは、晩年になるとトラブルを起こさなければならないという決まりでもあるのだろうか。一流QBが引退まで同じチームにいられるケースは意外に少ないのは確かだが、立つ鳥跡を濁すパターンを繰り返すのはさすがにそれほど多くない。いやまあ、そもそも一流QBが短期間に続いて同じチームに所属すること自体があまりないのだが。
 数年前にLe'Veon BellがSteelers相手に試合に出ないという形で抵抗した例があった。だが彼の場合は当時、Steelersとの間に契約関係はなかった。彼はチームから提示されたフランチャイズテンダーへの署名を拒否しており、この年は1ドルもチームからサラリーをもらっていない。一方、Watsonは2025年まで、Rodgersは2023年まで、チームとの間に契約関係がある。Bellは試合に出なくても何のペナルティも受けなかったが、彼らはそうは行かない。
 契約下にある選手がペナルティを避けつつ試合に出ない手段としては、引退という手がある。Rodgersが引退をちらつかせているのは、この方法なら将来のサラリーは入手できなくなるが、ペナルティを課される懸念はないためだろう。一方、まだ若いWatsonの場合、引退という手法はあまり使い勝手は良くない。いったん引退して後から復帰するというGronkowskiのような方法もあるが、復帰した時点で引退時の契約が復活することになっているため、結局Texansとやりあわなければならないのは同じ。どうやらどちらもしばらくはオフシーズンの話題の的になり続けそうだ。
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